陸上短距離の「果てしないスピード競争」はドーピング・鉄剤注射の弊害を招く

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男子100m選手

1.「男子100m競走」は陸上競技の花形

(1)日本の男子短距離選手は有力メダル候補がそろっている

陸上競技の花形は何と言っても短距離の「100m競走」でしょう。日本でも、桐生祥秀・ケンブリッジ飛鳥・山縣亮太・多田修平が2020年の東京五輪の有力メダル候補ですし、4×100mリレーメンバーとしても、大変楽しみです。

2016年のリオデジャネイロ五輪で銀メダルを獲得した日本の4×100mリレーメンバー(飯塚翔太・山縣亮太・桐生祥秀・ケンブリッジ飛鳥)は、日本歴代最高だったと思います。これだけレベルの高い短距離走選手がそろっていることで、2020年の東京五輪のメダルへの期待がいやがうえにも高まります。

(2)1964年東京五輪の「黒い弾丸、ボブ・ヘイズ」

ボブ・ヘイズ

「男子100m競走」で私が思い出深いのは、やはり1964年の東京五輪で優勝したアメリカの「黒い弾丸、ボブ・ヘイズ」です。10秒06で金メダルを獲得しました。日本人の記録は飯島秀雄の10秒6で準決勝敗退でした。

(3)ドーピング違反のベン・ジョンソン

ベン・ジョンソン

その後、「ロケットスタート」「筋肉のかたまり」と形容されたカナダのベン・ジョンソンが1987年の世界選手権で、カール・ルイスを驚異的な世界記録の9秒83で破って優勝しました。しかし、この記録はのちにドーピング違反が発覚し、抹消されました。

1988年のソウル五輪の9秒79も同様に取り消されました。しかし、この記録は2002年にティム・モンゴメリが9秒78を出すまで、「幻の記録」と言われていました。ギネスブックには、「薬物の助けを得たにせよ、人類が到達した最速記録」との但し書き付きで掲載されていたそうです。彼は、急激に成績が上がって、カール・ルイスと競り合うようになったことから薬物疑惑が指摘されていました。確かに、ボディービル選手のような異様な筋骨隆々の肉体と血走った目が印象的でした

2.薬物疑惑のあった「女子100m競走」のフローレンス・ジョイナー

フローレンス・ジョイナー

「女子100m競走」で私が思い出深いのは、「軽やかに微笑みながらゴールする」姿が印象的なアメリカのフローレンス・ジョイナーです。他の選手は必死の形相のゴールなのに・・・

女子の世界記録は、現在でも、フローレンス・ジョイナーが1988年7月16日に記録した10秒49(追い風なし)です。しかしこのレースの時、「風速計」が故障していたために「追い風参考記録」にならなかったという話もあります。また彼女は、結婚後の1988年に急激に記録を伸ばし、38歳の若さで心臓発作で急死しています。

彼女は生前から、ステロイドなどの薬物を使用しているとの薬物疑惑が指摘されていました。ドーピング違反はなかったとして、世界記録は抹消されていませんが、当時のドーピング検査の精度は今に比べて非常に低かったそうで、彼女が引退した年には、「翌年からドーピング検査を強化する」ことが「予告」され、実際に翌年からは検査が強化されました。以後30年間も記録が破られていないのは、男子の世界記録が次々に塗り替えられているのに比べて不自然さは否めません。

3.近代オリンピック第1回の「男子100m走」の記録は現在のマスターズ記録より遅い

近代オリンピック第一回100m走

ところで、1896年に行われた近代オリンピックの最初のアテネ大会での「男子100m走」の優勝は、アメリカのトーマス・バークで、記録は12秒0でした。この記録は、現在の「60歳以上(60歳~64歳)のマスターズ記録」11秒70よりも遅い記録です。

4.果てしないスピード競争

「薬物の助けを借りない自然体の練習の成果」としての人間の短距離走の記録は、果たして一体どこまで伸びるのでしょうか?

現在の世界記録は、ジャマイカのウサイン・ボルトが2009年8月16日に記録した9秒58です。日本記録は、桐生祥秀が2017年9月9日に記録した9秒98です。

5.ドーピングは百害あって一利なし

記録を求めるあまり、薬物によって記録を伸ばしたとしても、それによって得るものは、ドーピング違反による記録抹消という不名誉と、薬の副作用によって自分の体を蝕むことぐらいで、良いことは何もありません。

いくら、シューズを超軽量化して、「はだしのような感覚」で走れるようになったとしても、よほど身体能力が超人的に優れた人が現れない限り、「限界」があるように思います。

かつて、日本の女子短距離走選手で、100m・200m・走り幅跳びで当時の世界記録を出した人がいます。それは人見絹江さん(1907~1931)です。彼女は、万能選手で、1928年のアムステルダム五輪に出場し、女子の個人種目全て(100m・800m・円盤投げ・走り高跳び)にエントリーしています。800mで銀メダルを獲得し、日本人女子初のオリンピックメダリストとなりました。

しかし、その後も世界記録を出しますが、過密なレーススケジュールや過酷なプレッシャーなどもあったのでしょうか、24歳の若さで亡くなっています。

6.ロシアによる国家ぐるみのドーピング違反と、巧妙かつ悪質な隠蔽工作

ロシアの国家ぐるみドーピング違反

ところで、今見て来たような「薬物疑惑」や「ドーピング違反」に関して気になるのは、2015年に明るみに出た「ロシアによる国家ぐるみのドーピング違反と、巧妙かつ悪質な隠蔽工作」の発覚です。

「薬物疑惑」や「ドーピング違反」は、「個人の記録への渇望」という側面もあるかも知れませんが、「軍事力・経済力・科学技術力」ばかりでなく、「スポーツの世界」においても「国威発揚のために金メダル獲得数増加」を目指し「勝利のためには手段を選ばない」「覇権国家の野望」という恐ろしい側面もあることが事実のようです。

やはり、行き過ぎるとろくなことはありません。陸上短距離選手の皆さんは2020年の東京五輪に向けて練習に励んでおられるところでしょうが、くれぐれも無理し過ぎないように、頑張ってください。

7.高校駅伝選手への鉄剤注射は体への悪影響が大きく絶対にやめるべき

鉄剤注射高校駅伝

蛇足ですが、陸上長距離の「高校駅伝」の強豪校の男女選手が持久力を高めるために「鉄剤注射」を受けていたというショッキングなニュースが最近ありました。

「鉄剤注射」は「ドーピング」の対象ではありませんが、本来は重度の貧血の治療に使用されるもので、肝機能障害を起こす副作用があります。

「3,000mで20秒~30秒は速く走れる」とのことで、選手たちも、「栄養剤の一種と思っていた」とか「体に悪いとわかっていたが、走れなくなると困るので」ということで、注射を受けていたようです。学校の担当医も、監督に依頼されて注射をしていたとのことです。

「鉄剤注射」については、日本陸上競技連盟が2016年4月に「鉄分が内臓に蓄積し体に悪影響がある」として使わないよう警告していましたが、高校駅伝の一部強豪校が、この警告後も使っていたそうです。

ある選手は、高校時代に頻繁に「鉄分注射」を受けて記録が向上しましたが、大学入学後の血液検査で「鉄分が異常に多い」と言われたそうです。大学入学後は「鉄剤注射」は使わなくなりましたが、内臓疾患もあって、今のタイムは高校時代のベスト記録に遥かに及ばないとの話です。

これは、「記録至上主義」「優勝至上主義」で、監督の手柄にはなるかも知れませんが、「選手の健康を軽視」したとんでもない行為と言わざるを得ません。

今後は「ドーピング」に準じた厳正なチェックを行うとともに、関係者の意識改革を行う必要があります。なお、日本陸連は来年の大会から「血液検査結果の報告」を義務付ける方針だそうです。

2020年の東京五輪を間近に控えて、不安の残るニュースでした。

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