「年金だけでは老後資金が2000万円不足する」との金融庁の試算は妥当な正論

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麻生財務相

1.老後資金2000万円不足問題

金融庁が、「年金だけでは退職後の老後資金が2000万円不足する例もある」として、「若いうちから資産運用が必要」との報告書をまとめたことを受けて、6月4日に麻生財務大臣が、資産形成の重要性を強調しました。

麻生財務大臣は、彼独特の語り口で次のように述べました。

「100まで生きる前提で退職金って計算してみたことあるか?普通の人はないよ。そういったことを考えて、きちんとしたものを今のうちから考えておかないかんのですよ」

金融庁・金融審議会の報告書は、「平均的な高齢夫婦の場合、公的年金などでは毎月約5万円の赤字が続き、95歳まで生きるには退職後の30年間で2000万円が不足する」との例を示しました。

2.金融庁の報告の妥当性

上記の金融庁の報告書のような内容は、以前から民間では言われてきたことです。

また少子高齢化の中で、年金支給額が抑制されていることもあり、多くの高齢者は年金だけでは生活できないと自覚していると思います。

総務省統計局の調査によれば、世帯主が65歳以上の高齢者世帯の「貯蓄残高」は2016年で1世帯当たり2394万円となっています。

上記の金融庁の「老後資金2000万円不足」報告書の元になった試算数字は、2017年の総務省統計局の「家計調査報告」の中の「高齢者夫婦無職世帯の家計収支(2017年)」に出ている数字です。この総務省の報告が何ら問題にならなかったのに、今回野党が激しく攻撃し、マスコミがセンセーショナルに取り上げたのは、政治的な思惑が多分にあるように思います。

「アリとキリギリスの寓話」ではありませんが、現在の高齢者の資産は質素な生活をして将来の不安に備えて来た結果だと思います。

そういう意味で、この金融庁の報告は、さほど驚くべき内容ではありませんし、大半の高齢者はこれに対する備えが十分出来ていると見てよいと私は思います。

3.野党・マスコミなどの攻撃の問題点

しかし、野党はこの麻生財務大臣の会見について、一斉に批判しました。

立憲民主党の辻元清美国会対策委員長は、「政府の責任を放棄したと言わざるを得ない。まず謝れよ、国民に。申し訳ないと」と述べました。

同じく立憲民主党の蓮舫氏は、「国民が怒っているのは『100年安心』が嘘だったこと」と批判しました。

また、経済評論家の平野和之氏は、「年金の状況の厳しさを伝えるのは、年金受給開始年齢を、短期的に70歳、長期的には75歳に遅らせたいという本音が見えている」と述べています。

テレビのワイドショーでも、不安をあおるようなコメントが繰り返されています。

これらの攻撃や批判は、金融庁の報告書や年金の現状についての冷静な判断ではなく、多分に党利党略的で、感情的な部分が多いように思います。

4.今後の老後の生活設計のあるべき考え方

過去には、年金に関する問題がいろいろありました。厚生省官僚OBによる年金財源の無駄遣いである「グリーンピア(年金保養施設)」というハコモノ造りの問題、消えた年金問題、年金未納者問題などです。しかし、今さらそれを言っても始まりません。

今後我々は、老後の生活設計についてどのような考え方をすべきでしょうか?最近の「週刊東洋経済」(6月15日号)に面白い記事が掲載されていました。

慶応大学の権丈善一教授のインタビュー記事です。教授は、「これからの時代はWPPだ」と述べています。

これは、W=ワークロンガー(長く働く)、P=プライベートペンション(企業年金、自分の蓄え)、P=パブリックペンション(公的年金)の頭文字を取ったものです。野球に例えれば、先発がW(働くこと)で、中継ぎがP(企業年金や貯蓄)、そして抑えの切り札がP(公的年金)ということです。

昔、ラジオで「心のともしび」というカトリック教伝道番組があって、「暗いと不平を言うよりも、進んで明かりをつけましょう」という言葉がありました。私はキリスト教徒ではありませんが、これは「自助努力の推奨」の大変良い言葉だと思います。

いたずらに野党の批判やマスコミの不安をあおる情報に惑わされることなく、分相応に生活を切り詰め、将来に備えて資産形成を図るべきだと思います。

これは至極当然のことです。

麻生財務相は、6月11日の会見で「著しい不安とか誤解を与えており、政府のこれまでの政策スタンスとも異なっている」として、問題になった報告書を、正式な報告書としては受け取らない」と表明しました。

野党が、これを参院選の争点にして、政府自民党を攻撃する材料にしようとしているので、それを避けるためのやむをえない判断だと思います。

ただ、これを「政争の具」にしようとする野党、冷静に報告書の内容を理解せずいたずらに国民の不安心理や不満を煽るマスコミの姿勢は憂慮すべきものがあります。