「一億総活躍社会」の実現に向けた取り組みとして、「働き方改革」が提唱され、2018年6月29日に「働き方改革法案」が成立し、2019年4月1日から改正法の適用が開始されました。
1.働き方改革の背景と課題
(1)目的と背景
働き方改革の目的は、「一億総活躍社会を実現すること」です。一億総活躍社会とは、少子高齢化が進む中「50年後も人口1億人を維持し、職場・家庭・地域で誰もが活躍できる社会」です。
背景は、「想定以上に進む労働力人口の減少」です。
労働力不足解消のための対応策としては、次の3つが考えられています。
①働き手を増やす:労働市場に参加していない女性や高齢者がターゲット
②出生率を上げて将来の働き手を増やす
③労働生産性を上げる
(2)課題
働き方改革を実現するための課題は次の3つです。
①長時間労働の解消
②正社員と非正規社員との格差是正
③労働人口不足の解消:高齢者や女性の就労促進
2.副業(複業)解禁のメリットとデメリット
「長時間労働解消」を推進する代償として、従来禁止していた副業を解禁する企業が増えて来ました。銀行員が副業で「大道芸」をしたり、「塾講師」や「サッカー仲介人」になる人も出て来ました。
副業が解禁された背景には「働き方の多様化」と「人手不足の解消」があります。
(1)企業側のメリットとデメリット
①メリット
・「時間外賃金」コストの削減
・生産性の向上
・副業先でスキル、知識、経験を得た社員の質的向上
・副業をする社員が得た情報や人脈を事業機会の拡大に利用可能
・社員の定着率向上
・能力の低い社員の自発的転職の可能性の増加
②デメリット
・副業による「合算労働時間」の増加と過労死の懸念
・社員が副業に精力を注ぐことで、本業への専念がおろそかになる懸念
・優秀な社員の転職の懸念
・機密情報流出のリスク
・利益相反行為の懸念
・競業避止義務違反の懸念
(2)労働者側のメリットとデメリット
①メリット
・副業(複業)による収入の増加
・将来の転職の試行や可能性の模索ができること
②デメリット
・残業時間の削減による「時間外賃金」収入の減少
・副業による「合算労働時間」の増加が原因の病気や過労死の懸念
3.副業解禁について私が思うこと
このように見てくると、「副業(複業)解禁」は決して「バラ色の施策」とは言い切れません。労働者側としても、安易に「副業」に手を出して「虻蜂取らず」で「元の木阿弥」とならないように慎重に考えるべきだと思います。
労働者が、付き合い残業などの無駄な長時間労働を減らして、家族との団らん時間を増やしたり、自己啓発や趣味の時間に充てるのは、「ワークライフバランス」の観点から望ましいことだと思います。
しかし、残業代の減少で生活が苦しくなるからとか、住宅ローンが払えなくなるからと言って、無理な副業をすることは望ましいことではないと私は思います。
日本の企業の経営者は、利益を内部留保として溜め込むだけではなく、もっと「労働分配率」を引き上げて、残業をしなくても労働者が十分生活できるようにすべきだと思います。そのためには、製品価格の引き上げなどが必要であれば、勇気を持って断行すべきだと思います。かつての松下幸之助の「水道哲学」は今や日本企業にはふさわしくない考え方だと思います。