仁徳天皇陵や東海道五十三次などの「緻密な線画」を描く堺の女性画家Ajuさん

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仁徳天皇陵線画

完全リタイアしてから、毎日午前中のバラエティー帯番組を見るようになりました。関西テレビの「よ~いどん!」(毎週月~金、午前9:50~11:15)もよく見ています。その中に「となりの人間国宝さん」というコーナーがあります。

これは、街中をぶらぶら歩いて珍しい特技を持った人や玄人はだしの趣味を持つ人などを探す企画ですが、ここに登場した「堺市の女性線画家」がなかなかユニークで面白かったのでご紹介します。

1.堺市の女性線画家「Ajuさん」

JR大阪駅線画

(1)「線画」とは

「線画」とは、「色を塗ったり、画面を塗りつぶしたりせずに線だけで描いた絵」のことです。「線描画」とも言います。

しかし、Ajuさんの緻密というか細密な線画を見ていると、実際の写真や彩色画以上の圧倒的な迫力を感じますね。気の遠くなるような根気のいる作業の賜物だと思いますが、彼女はこの「線画」に出会うことで自分を表現する「言葉」を見つけたようです。

(2)「Ajuさん」とは

大阪市出身のAjuさん(30)は、大学生の時に発達障害の「自閉症スペクトラム」の一つである「アスペルガー症候群」と診断され、絵の表現を自分の言葉として発信するようになります。

画風がどこか山下清(1922年~1971年)に似ているように感じられますが、山下清の作品に出会うのは線画の制作を始めた後のことです。

描き始めたのは、大阪教育大学第二部(夜間学部)の学生時代で、当時全線開通したばかりの九州新幹線の車両をスケッチしました。その最初のスケッチは、私などから見るとお世辞にも上手とは言えないものですが、同大学准教授だった「障害スポーツ専門」の永浜明子さん(現在、立命館大学准教授)から、「うまいね」と褒められて自信が付いたそうです。

彼女は対人関係などが困難な「自閉症スペクトラム」と診断され、高校まで「優等生」として育ってきた自分とのギャップに苦しみましたが、絵を描いていると何時間でも集中できたそうです。

大学3年の終わりごろから永浜さんの勧めで、独り立ちの準備として堺市内の永浜さんの近所で下宿を始めました。パソコン入力のアルバイトをしながら、高層ビルや電車をスマホで撮影し、スケッチブックを開いて描いたそうです。彼女は風景や写真を見ると、「細部まで映像として記憶に残る」そうです。これは「書物に書かれた文字や内容を映像として記憶した」と言われる南方熊楠に似ていますね。

彼女は下書きはせず、数百の窓を忠実に描いていきます。水も飲まず、トイレにも行かず、ひたすら0.05ミリのサインペンを握って描き続けたそうです。この様子は「画狂人葛飾北斎」を彷彿とさせるようですね。

2015年からは堺市などで「個展」を開いているそうです。生きづらさと向き合いながら創作活動を続ける彼女の素朴で温かみのある細密線画は、独特の魅力があります。

2.山下清に触発されて「東海道五十三次」を描く

彼女は2016年3月から2017年2月までの1年間、東京大学と日本財団のプロジェクト(集団生活になじめない子供の能力を見出すために立ち上げたプロジェクト)の「学術支援専門職員」を務めました。

その頃、放浪の画家山下清が東海道五十三次を歩いて描いた作品に出会います。彼女は「自分も歩きながら作品を描きたい」と思うようになり、2017年4月1日に東京・日本橋を出発し、大阪まで697kmを58日間かけて徒歩旅行し、印象に残った場所や風景61枚をハガキの裏に描いて恩師の永浜さんに送ったそうです。

この「徒歩旅行」は彼女に変化をもたらしました。それまでは、四角や直線に惹かれ、写真や記憶を元にビルや住宅の窓の数まで正確に描くことに重きを置いてきましたが、毎日歩いていると、アスファルトと日陰の黒には違いがあることに気付き、初めて「鉛筆」を使ってみたそうです。すると、出来上がった作品に濃淡が生まれました。そして次第に雲の形や木の葉や影などにも目が行くようになり、「旅をするうちに、表現の幅が広がった」と話しています。

今後は日本だけでなく、世界各地の風景も描いてほしいものです。

寺田屋の線画

橋線画

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