「万物の根源(アルケー)とは何か」を考え抜いた古代ギリシャの自然哲学者たち

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タレス

(タレス)

私は「宗教」を全く信用していませんが、「哲学」には興味を持っています。古代ギリシャの自然哲学者たちは、「万物の根源(アルケー)」とは何かについて、突き詰めて考えを巡らせていたようです。

人間は誰しも、子供の頃に「生命の起源」や「天地創造」について素朴な疑問を持ちますが、それほど真剣に考えることもなく大人になり、このような素朴な疑問もそれ以後は頭の片隅に追いやられてしまうものです。

今回は「万物の根源」を追究した古代ギリシャの自然哲学者たちについてご紹介したいと思います。彼ら自然哲学者たちは、神話的世界観を排して、自然の世界は神々の恣意的な働きに左右されるものではなく、それ自体で確固とした秩序を備えた存在であり、また、その秩序は人間の観察と思考によって把握できると考えたのです。

1.タレス(ターレス)

タレス(B.C.624年頃~B.C.546年頃)は古代ギリシャの哲学者・数学者です。数学の「タレスの定理」(直径に対する円周角は直角である)で有名ですね。

タレスの定理

彼は「最初の哲学者」と呼ばれますが、その理由は、それまで神話的説明がなされていたこの世界の起源について、合理的説明を初めて試みた人だからです。

彼は、万物の根源(アルケー)は「水」だと考え、存在する全ての物がそれから生成し、それへと消滅して行くものだと考えました。

余談ですが、彼には次のような「デリバティブ(の一種のオプション取引)の嚆矢」とされる逸話があります。

貧乏なために哲学は何に役にも立たないと非難されたタレスは、天文学の知識によって翌年のオリーブが豊作であることを知り、冬の間にその地方のオリーブの圧搾機械を借り占めました。すると収穫時期になって多くの人が機械の貸出を依頼したので、莫大な利益を得ることができました。しかし彼は、「自分が欲するなら金持ちになることは可能だが、自分はそのようなことに関心はない」と話したそうです。

2.ピタゴラス

ピタゴラス

ピタゴラス(B.C.582年~B.C.496年)は古代ギリシャの数学者・哲学者です。数学の「ピタゴラスの定理(三平方の定理)」(直角三角形の三辺の長さの関係。cを斜辺の長さ、他の二辺の長さをa・bとすると a2b2c2)で有名ですね。

ピタゴラスの定理

彼は、あらゆる事象には「数」が内在していること、そして宇宙の全ては人間の主観ではなく数の法則に従うのであり、数字と計算によって解明できる「万物は数なり」という思想を確立しました。

しかし、彼の学派は「宗教教団」のような秘密主義で、入門には相当難しい数学の試験が課せられたそうです。また彼の「教団」の教義に反する研究に手を出すなどの「規律違反者」は、船上から海に突き落として処刑するという恐ろしい掟がありました。

彼は「数の調和や整合性」を極端に重視し、「完全数」や「友愛数」を尊び、「無理数」を認めようとしなかったそうです。「完全数」とは、「自分自身を除く正の約数の和に等しくなる自然数」のことで、「友愛数」とは「異なる二つの自然数の組で、自分自身を除いた約数の和が、互いに他方と等しくなる数」のことです。「無理数」(*)とは、「分子・分母ともに整数である分数として表すことのできない実数」のことです。

(*)「無理数」( irrational number)とは、「有理数」(rational number)ではない実数、つまり分子・分母ともに整数である分数(比 = ratio)として表すことのできない実数を指します。

「有理数」は、整数比で表すことができる数なので、「比」という意味の「ration」から、「rational number」と呼ばれました。この英語が日本に入って来たとき、「rational」を「合理的」と訳したため、今も「有理数」と呼ばれています。しかし、決して有理数は「道理がある数」、無理数は「無理矢理な数」という意味ではありません。

ところが、弟子のヒッパソスが正方形の研究をしているうちに「√2」という「無理数」を発見し、それを外部に発表しようとしたため、「ピタゴラス教団」によって「規律違反者」としてイオニア海に突き落とされて亡くなっています。

この「無理数」は、ピタゴラスの思想を根本から否定する都合の悪いものでしたが、現代の合理的な精神からすると、この規律違反者の処刑は「無理筋」であったと言わざるを得ません。

3.ヘラクレイトス

ヘラクレイトス

ヘラクレイトス(B.C.540年頃~B.C.480年頃)は古代ギリシャの哲学者です。

彼は、万物の根源は「火」だと考えました。万物は流転していると考え、自然界は絶えず変化していると考えました。しかし一方で、その背後に変化しないもの「ロゴス」(法則)を見ています。それが「火」だというわけです。変化と闘争を万物の根源とし、火をその象徴としたのです。

4.エンペドクレス

エンペドクレス

エンペドクレス(B.C.490年頃~B.C.430年頃)は古代ギリシャの哲学者・医者・詩人・政治家です。「弁論術の祖」とされています。

彼は、万物の根源は「火・空気・水・土」の「四元」だと考えました。

5.デモクリトス

デモクリトス

デモクリトス(B.C.460年頃~B.C.370年頃)は古代ギリシャの哲学者です。

彼は、万物の根源は無数の「原子」(分割不可能な微小な物体)だとする「原子論」を唱えました。この「原子」の集合と離散によって、世界のあらゆる事物・事象を説明しようとしました。古代ギリシャにおける「唯物論」の完成です。

現代の物理学によれば、原子は原子核と電子から成っており、原子核の中には陽子と中性子があって、その陽子と中性子はクォークなどの素粒子から出来ていて、最後はエネルギーの振動状態であることまでわかっています。

今から2,450年も前の哲学者が「原子」にまで考えが及んでいたとは驚きですね。

6.アリストテレス

アリストテレス

アリストテレス(B.C.384年~B.C.322年)は古代ギリシャの代表的な哲学者で、ソクラテス・プラトンとともに「西洋最大の哲学者」の一人とされています。

彼は万物の根源は「火・空気・水・土」の「四元素(四大元素)」だと考えました。エンペドクレスと同じ考えで、デモクリトスの「原子論」を否定したため、その後長らく「原子論」は顧みられませんでした。

しかし、後にイギリスの化学者・物理学者のジョン・ドルトン(1766年~1844年)やフランスの化学者のアントワーヌ・ラヴォアジエ(1743年~1794年)によって「原子論」が優勢となり、「四大元素説」は放棄されました。

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