「陰陽五行説」という古代中国の思想は、よく考えられた相生・相克の相関図!

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陰陽五行説

前に「万物の根源についての古代ギリシャの哲学者の考え方」の記事を書きましたが、古代中国において唱えられた「陰陽五行説(陰陽五行思想)」も、なかなかよく考えられたものだと思います。

古代ギリシャの自然哲学者たちの自然科学的なアプローチとは異なりますが、東洋人である我々には受け入れやすい考え方で、古代中国の賢人たちの思索の賜物であると感心します。

1.「陰陽五行説(陰陽五行思想)」とは

「陰陽五行(おんようごぎょう)説」とは、古代中国の春秋戦国時代(B.C.770年~B.C.221年)に発生した「陰陽説(陰陽思想)」と「五行説(五行思想)」とが、漢の時代に結びついて一体化した思想で、中国古代の宇宙観・世界観です。

「陰陽説」は、宇宙の万物は全て陰と陽の二つのエネルギーで構成されている という思想で、宇宙の現象・事物を「陰」と「陽」との働きによって説明する「二元論」です。

たとえば「天と地」「日と月」「山と海」「明と暗」「剛と柔」というように、同じカテゴリーの中で対立しあうもののうち、強くて活気のある方が「陽」で、弱い方が「陰」になります。

「日と月」では、もちろん日が「陽」で月が「陰」になります。それで「太陽」という言葉ができ、月の運行を基準とした暦を「太陰暦」とか「陰暦」と呼ぶようになったのです。

「五行説」は、「万物の根源」を「木・火・土・金・水」の「五元素」に置き、それらの関係・消長によって宇宙は変化するという「自然論的歴史観」です。

2.「陰陽」と「五行」との相関関係

五行の「木・火」は「陽」、「金・水」は「陰」で、「土」はその中間とされます。

これらの消長を観察することによって、天地の変異、人間界の吉凶などの万象を説明するのが「陰陽道(おんみょうどう)」となります。

日本の朝廷は、早くからこれを採用して「陰陽寮」を設け、平安時代には全盛を極めました。アニメや小説・映画・演劇などで取り上げられた「陰陽師(おんみょうじ)」の安倍晴明(あべのせいめい)が特に有名ですね。

3.「五行」の各元素の相関関係

(1)五行相生(ごぎょうそうしょう)

「木は火を生じ、火は土を生じ、土は金を生じ、金は水を生じ、水は木を生ず」という関係のことです。

具体的に言えば「木は燃えて火になり、火が燃えたあとには灰(=土)が生じ、土が集まって山となった場所からは鉱物(=金)が産出し、金は腐食して水に帰り、水は木を生長させる」という関係です。

(2)五行相克(ごぎょうそうこく)

「水は火に勝ち、火は金に勝ち、金は木に勝ち、木は土に勝ち、土は水に勝つ」という関係のことです。

具体的に言えば、「水は火を消し、火は金を溶かし、金で出来た刃物は木を切り倒し、木は土を押しのけて生長し、土は水の流れを堰き止める」という関係のことです。

「じゃんけん」とよく似た関係ですね。

(3)比和(ひわ)

木と木、火と火、土と土、金と金、水と水のように同じ気が重なることです。

同じ気が重なると、その気は盛んになります。良い方向に働けばますます良くなりますが、悪い方向に働けばますます悪くなる組み合わせです。

(4)相侮(そうぶ)

「相克」の反対の「逆相克」のことです。

たとえば「木侮金」というのは、「木が強すぎて金の克制を受け付けず、逆に木が金を侮ること」です。

(5)相乗(そうじょう)

「乗」とは凌辱することで、相克の度が過ぎて過剰になった状態のことです。

たとえば、「火乗金」というのは、「火が強すぎて金を克制し過ぎ、金を完全に溶解すること」です。

4.「五行」と「季節」「色」「方角」「感情」「道徳」「感覚」との相関関係

四季の変化(五時)は「五行」の推移によって起こると考えられていました。また、色(五色)・方角(五方)・感情(五情)・味(五味)・穀物(五穀)・道徳(五常)・感覚(五塵)などあらゆるものを五行に対応させるようになりました。

(1)木(木行):「春」「青(緑)」「東」「喜」「酸」「麻・胡麻」「仁」「色(視覚)」

木の花や葉が幹の上を覆っている立木が元になっていて、樹木の生長・発育する様子を表しています。

(2)火(火行):「夏」「紅(赤)」「南」「楽」「苦」「麦」「礼」「触(触覚)」

光り輝く炎が元になっていて、火のような灼熱の性質を表しています。

(3)土(土行):「土用(季節の変わり目)」「黄」「中」「怨」「甘」「米」「信」「味(味覚)」

植物の芽が地中から発芽する様子が元になっていて、万物を育成・保護する性質を表しています。

(4)金(金行):「秋」「白」「西」「怒」「辛」「黍」「義」「香(嗅覚)」

土中に光り輝く鉱物・金属が元になっていて、金属のように冷徹・堅固・確実な性質を表しています。

(5)水(水行):「冬」「玄(黒)」「北」「哀」「鹹(塩辛さ)」「大豆」「智」「声(聴覚)

泉から湧き出て流れる水が元になっていて、これを命の泉と考え、胎内と霊性を兼ね備えた性質を表しています。

「季節」と「色」の組み合わせから、「青春」「朱夏」「白秋」「玄冬」という言葉が生まれました。

また「土用」と言えば、ウナギを食べる習慣のある立秋直前の「夏の土用」を思い浮かべますが、本来の意味は、「四立」(立春・立夏・立秋・立冬)の直前約18日間のことを指すものです。

5.NHK大河ドラマ「麒麟がくる」の主要人物の「テーマカラー」は五行に由来

2020年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」の衣装デザインを担当している黒澤和子さん(映画監督の黒澤明氏の長女)は、大原拓監督の意向で「風水の『五行思想の相生相克説』を基調として」主要人物の「テーマカラー」を決めたそうです。

明智光秀は「青(緑)」(木行)です。風にそよぎつつ、伸びて行く若竹のイメージで、真っ直ぐな光秀の性格を象徴しているそうです。明智家の「水色桔梗」とも合いますね。

光秀が仕える斎藤道三は「黒」(水行)です。マムシとあだ名されるほどの怖さ、強さを表しているそうです。

織田信長は「黄」(土行)です。織田家の「織田木瓜の旗」の地色が黄色だからでしょうか?

豊臣秀吉は「白」(金行)がテーマカラーとなるようです。これは「黄金」のイメージからでしょうか?

徳川家康は「赤」(火行)となるそうです。これは内に燃えるような野心を持ちながらも、天下統一までは苦難を耐え忍ぶという彼のイメージからでしょうか?

6.「五行」と「十干」との相関関係

これについては、前に書いた「十干十二支についての記事」で詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。

ここでは特に有名な「丙午(ひのえうま)」だけ書いておきます。

「丙午」というのは、「陰陽五行説」によれば、火と関係が深く、「丙」は「火(ひ)の兄(え)」で陽の卦になり、四季で言うと夏、方位で言うと南であり、「午」も陽の卦で、陽の重複だから「丙午の年には火災が多い」ということになっていました。

「丙午」については、有名な俗説(迷信)があります。「丙午生まれの女性は気性が激しすぎて、夫を不幸にする」というものです。そのため、ますます「丙午」生まれの女性が結婚難になったり、世間から白眼視されるようになったようです。

これは江戸時代に実際に起こった「八百屋お七の事件」(*)に由来する俗説ですが、広く信じられてきました。

(*)八百屋お七の事件とは

江戸本郷駒込の八百屋の娘お七(1668年~1683年)が、天和2年(1682年)の大火の際、避難した円乗寺の寺小姓山田佐兵衛と恋仲になり、再会したい一心で放火し、火刑に処された事件です。井原西鶴の「好色五人女」に書かれて以来、多くの歌舞伎・浄瑠璃に脚色されて広く知られるようになりました。彼女は丙午生まれだったのです。

「丙午しっかり重荷つけてくる」「大社(おおやしろ)手数のかかるひのえうま」という川柳があるくらいで、江戸時代、不幸な丙午生まれの女性は、よほどの持参金付きでもなければ生涯孤閨を守っていく以外に生き方はなかったそうです。ちなみに「大社」とは縁結びの神と言われる出雲大社のことです。

そのせいか、この丙午の年は、出生数・出生率ともに極端に低くなっています。直近は1966年(昭和41年)でした。次は2026年ですが、果たしてどうなるでしょうか?

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