「箍(タガ)が外れる」「箍が緩む」という言葉と、「樽と桶」の職人の伝統技術

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樽と桶

夏目漱石の弟子の一人が何かの折に「先生も箍が緩んだ」と言ったところ、「俺は最初から箍などはめておらん」と言い返したという話をどこかで読んだことがあります。「漱石枕流」というペンネームの由来通り、負け惜しみの強い漱石らしい反論だと感心した記憶があります。

1.箍が外れる

「箍(タガ)」とは、樽や桶の外側にはめて固定する金属(鉄や銅など)や竹で出来た輪のことです。

「箍が外れる」とは、樽や桶を固定していた箍がなくなってしまうことで、ばらばらになってしまう様子を表しています。

これが転じて、「外側から締め付けていた秩序や緊張がなくなってしまうこと」や、「行動を抑制するものがなくなったことで、制御がきかなくなってしまうこと」の意味になりました。

2.箍が緩む

「箍が緩む」とは、「(箍が緩んだように)緊張が緩んだり、年を取ってしっかりしたところがなくなる。気力・能力が鈍くなる。締まりがなくなる。規律が緩む」という意味です。「箍が外れる」のようにばらばらになる寸前、いつバラバラになってもおかしくない状態ということでしょう。

3.樽と桶

私が子供の頃は、漬物樽、味噌樽、酒樽、風呂桶や寿司桶など木製の樽や桶が日常生活の中に定着していました。しかし最近はプラスチック製品などが多くなり、あまり見かけません。

(1)樽と桶の歴史

ウィスキー樽サントリー山崎工場

樽と言えば、ウィスキーの樽を最初に思い浮かべる方が多いと思いますが、日本の酒蔵や味噌蔵、醤油蔵にある大きな酒樽や味噌樽、醤油樽もテレビで時々紹介されているのでご存知の方も多いと思います。

ヨーロッパでは、3世紀にローマ人が作り始めたようです。日本では、鎌倉時代末期から室町時代初期に、現在のような箍をはめた「結樽(ゆいだる)」「結桶(ゆいおけ)」が作られるようにました。

(2)樽職人・桶職人・竹職人

私が子供の頃は、「桶屋」という職人がまだいました。桶や樽を作る職人で、「桶大工」とも呼ばれます。竹を編んで籠(かご)や笊(ざる)などの竹製品を作る「竹屋」という職人も近所に住んでいました。

余談ですが、「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざがあります。「風が吹けば屋根修理屋や瓦屋が儲かる」だとダイレクトですが、これは周り回って影響が出るたとえです。

①大風で土ぼこりが立つ、②土ぼこりが目に入って盲人が増える、③盲人は三味線を買う、④三味線に使う猫皮が必要になり、ネコが殺される、⑤ネコが減ればネズミが増える、⑥ネズミは桶をかじる、⑦桶の需要が増え、桶屋が儲かる というわけです。

(3)職人の伝統技術

日本古来の樽や桶の職人によって受け継がれてきた伝統技術は素晴らしいものだと思いますが、現在はこのような職人は高齢化でどんどん減少しているようです。科学技術・AIの進歩も目覚ましいものがありますが、このような職人の伝統技術もぜひ継承してほしいものです。

(4)木製の樽や桶の良さを見直す動き

ところで、酒や味噌、醤油の醸造には現在も木製の樽が使用されています。これは、木が醸造や保存に適しているからです。木製の樽や桶は、木の断熱・保温機能によって醸造に適した環境を作っているのです。

ポリエチレン容器からはフタール酸と呼ばれる環境ホルモンが、塩化ビニール容器からは発ガン性物質(ポリエチレングリコール)が、ステンレスからはクロムなどが溶け出す可能性が指摘されています。

その点、木製の樽や桶は天然素材なので有害物質が出る危険がないので安全なのです。

ところで、ビルやマンションなどに必要な飲料水用のタンクは、これまで鉄や強化プラスチック製のものが主流でした。しかし最近、浜松南区役所のように木製の受水槽を設置するところも出て来ました。木製受水槽は、鉄や強化プラスチック製のものに比べて、さびや藻の発生が少なく、水の腐敗がないという利点があるからです。