村上春樹は今年こそノーベル文学賞を受賞できるのか?それとも今年もダメか?

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村上春樹

<2022/10/6追記>今年も村上春樹氏はノーベル文学賞を授与されず

2022年のノーベル文学賞には、自伝的な小説などで著名なフランスの女性作家アニー・エルノー氏(82歳)が選ばれました。

<2021/10/8追記>今年も村上春樹氏はノーベル文学賞を授与されず

2021年のノーベル文学賞には、アフリカ・タンザニア出身の作家、アブドゥルラザク・グルナさんが選ばれました。

<2020/10/8追記>今年も村上春樹氏はノーベル文学賞を授与されず

スウェーデン・アカデミーは、2020年のノーベル文学賞をアメリカの女性詩人ルイーズ・グリュック氏(77歳)に授与すると発表しました。

同アカデミーは「個人の存在を普遍的なものへと高める朴訥とした美しさをたたえた比類なき詩的表現が評価された」と述べています。

「やはり今年もダメだったか」というよりも、「スウェーデン・アカデミーの依怙地な『村上春樹外し』にはがっかり」というのが、私の正直な感想です。

今年もまた「ノーベル文学賞発表」の季節がやって来ました。今年は10月8日(木)です。

村上春樹(1949年~ )は、私と同じ「団塊世代」です。彼の小説は多くの国で翻訳され、多くの愛読者、ファンを持っています。彼が2006年に「フランツ・カフカ賞」を受賞して以降、毎年「ノーベル文学賞の有力候補」と言われ続けながら14年、ずっと落選を続けて来ました。

私は今年こそ村上春樹がノーベル文学賞を受賞する(受賞しない方がおかしい)と思っているのですが、どうなるでしょうか?

今回は村上春樹とノーベル文学賞との長い因縁について改めて考えてみたいと思います。

1.村上春樹の作品の世界での評価

(1)日本文学のイメージを塗り替えた村上春樹

1990年9月10日号のアメリカの雑誌ニューヨーカー(The New Yorker)に、村上春樹の短編「TVピープル」の英訳が掲載されました。日本語で書く作家の作品がアメリカの文芸誌に掲載されるというこの出来事は、村上春樹個人のキャリアだけでなく、日本近現代文学を翻訳(とりわけ英訳)で読むことの歴史においても画期的でした。

以来、村上作品は世界50カ国以上で翻訳され、フランツ・カフカ賞やエルサレム賞(2009年)など世界各地の文学賞を受賞する一方、世界中で日本文学としては異例のベストセラーとなるなど、批評的な評価と商業的な成功の両方を手にしており、日本文学の作家としては三島由紀夫以上の稀有な存在感を獲得しています。

村上春樹の登場は、翻訳における「日本文学」のイメージを大きく変えることになりました。谷崎潤一郎・三島由紀夫・川端康成の「ビッグ・スリー」を中心としたアメリカにおける日本文化再発見では、「エキゾチックで耽美的な日本近代文学のイメージ」が定着しました。

これに対して、アメリカ文学の影響を強く受け、現代日本社会を舞台としつつ、現実世界とファンタジーの世界を交錯させた村上作品は、英語圏における日本近代文学のイメージを大きく塗り替えました。

(2)海外の小説家からの評価も高い村上春樹

日系イギリス人小説家で2017年にノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロ(1954年~ )は、現代作家の中で最も興味のある作家として村上を挙げ、「世界中の人が彼のことを日本人と考えることができません。国を超えた作家です。現時点で村上春樹は現代文学の中で非常に関心を引く何かを象徴しています」と述べています。

アメリカの小説家ジェイ・マキナニーは、「村上は都会で暮らす普通の人の日常を巧みに描く。日本を舞台にしていても、登場人物がニューヨークやストックホルム、ミラノで生活していたって、何ら違和感がないのが特徴だ。世界中で同じように読むことができる」と評価しています。

(3)村上春樹に批判的な作家や批評家の存在

村上の作風は、欧米語に翻訳する上での障壁が低く、世界中の幅広い読者に受け入れられてきた反面、その文体や作風に批判的な作家や批評家も少なくありません。

2.ノーベル文学賞の歴史とエピソード

(1)川端康成と三島由紀夫

1968年に川端康成(1899年~1972年)が日本人として初めてノーベル文学賞を受賞しましたが、選考過程において三島由紀夫(1925年~1970年)が最有力候補でしたが、川端康成(69歳)の方が三島由紀夫(43歳)より年長で、日本ペンクラブ会長としての長年の功績もあることを忖度して川端への授賞が決定したそうです。

(2)2012年受賞者の中国の農民作家・莫言(モオ・イエン)

この授賞については、「スウェーデンが中国から90億スウェーデン・クローナ(約1,160億円)の投資を受ける見返りに、アカデミーが文学賞の魂を売り渡したのではないか」とダーゲンス・ニュヘテル紙が報じたことがあります。

日本の村上春樹ではなく、中国の莫言を強く推したと見られるアカデミーの中国文学担当のヨーラン・マルムクヴィスト氏が、莫言の数作品を自らスウェーデン語に翻訳して会員に配布した上で、出版社から出版する予定だったそうです。

莫言がノーベル文学賞を受賞すれば、翻訳作品がヒットするのは確実で、マルムクヴィスト氏には高額の翻訳料が転がり込む疑惑が指摘されました。

なお、莫言は中国籍で、中国共産党政府による「検閲」を容認しており、「共産党体制側の作家」との批判も受けています。

(3)2019年受賞者のオーストリア人作家ペーター・ハントケへの批判

2019年は、2018年に選考機関のスウェーデン・アカデミーの関係者の不祥事(セクハラスキャンダル)を理由に発表延期となったため、2018年度分と2019年度分が発表されました。

2018年度分はポーランドの女性作家オルガ・トカルチュクで、2019年度分がオーストリア人作家ペーター・ハントケでした。

ペーター・ハントケは、1990年代の旧ユーゴスラビア紛争で一貫してセルビアを支持し、「人道に対する罪」で訴追されたセルビア人の故ミロシェビッチ旧ユーゴ元大統領を擁護したそうです。過去にセルビア人によるイスラム教徒虐殺を否定したり、セルビアをナチス・ドイツで迫害されたユダヤ人と重ねたりする発言を行い、物議を醸したこともあるそうです。

授賞発表後、ミロシェビッチ政権下で弾圧されたイスラム教徒のアルバニア人が多い国々から批判が噴出しました。アルバニアのラマ首相はツイッターで「ノーベル賞のために吐き気を覚えるなんて考えられない」と強い調子で選考に抗議しました。

表現の自由擁護を進めるアメリカの団体「ペン・アメリカ」は「(アカデミーが)歴史的真実を切り取るために自分の公の声を使った作家を選んだことに唖然とする」と表明しました。

3.ノーベル文学賞の公平性に疑問

ノーベル賞の中でも「ノーベル平和賞」は昔から「政治性」を帯びており、それは最近も変わっていませんが、ノーベル文学賞にも政治的な影が忍び寄っている可能性はあります。

村上春樹が2009年に「エルサレム賞」を受賞した時の演説の中で、イスラエルによるガザ地区攻撃を「壁と卵」の比喩を使ってやんわり批判したことがありました。彼には政治的メッセージを発信する意図はなかったようですが、イスラエル政府は内心不愉快だったかもしれません。

私はノーベル文学賞の「政治性」よりも、「公平性」に問題があるような気がしてなりません。ノーベル文学賞の「授賞基準」とは一体何でしょうか?

2018年に長年にわたる不祥事が明るみに出た腐敗・堕落した「スウェーデン・アカデミー」の選考委員や関係者の個人的嗜好や利益が優先されるのでしょうか?もう少し、「客観的で納得性のある公平な基準」があるはずです。もしなければおかしいと思います。

過去14年間にノーベル文学賞を受賞した作家やジャーナリスト、あるいはボブ・ディランのようなシンガーソングライターが、いずれも村上春樹よりも世界中の人々に愛される優れた文学作品を残しているのでしょうか?

私はどうしても首を傾げざるを得ません。どういう理由かわかりませんが、どうも「村上外し」があるような気がしてなりません。

余談ですが、ノーベル文学賞を選考する「スウェーデン・アカデミー」の会員(定員18人)は「終身制」で、制度上自らの意思で辞任することはできず、死亡するまで会員の補充は行われないそうです。アカデミーの意思決定を行うには最低12人の出席が必要となっています。

数年前から会員のうち2人が「活動を停止」しており、2018年の不祥事への甘い対応に抗議して、前事務局長を含む3人が「辞任を表明」したことから、活動中の会員は13人となりました。あと2人が「辞任を表明」すれば、アカデミーは機能停止に追い込まれます。

やはり、認知症などの「老害」と「権力は腐敗する」ということを考慮して、規約を改正して若返りを図るべきだと私は思います。

4.村上春樹とは

村上春樹(1949年~ )は、兵庫県出身の小説家・翻訳家です。早稲田大学在学中から「ジャズ喫茶」(夜間は「ジャズバー」)を開業し、大学は7年かかって1975年に卒業しています。

1979年に「風の声を聴け」で文壇デビューし、芥川賞候補に3度なりましたが、「短編・中編小説」から「長編小説」に転じたこともあって結局受賞できませんでした。

「ノルウェイの森」「ねじまき鳥クロニクル」「海辺のカフカ」「1Q84」「騎士団長殺し」などの作品があります。