ツツジは日本人にとって、園芸品種の「ヒラドツツジ」や「キリシマツツジ」など庭木として馴染み深い植物ですが、京都府長岡京市の長岡天神や長野県岡谷市の鶴峯公園などツツジの名所も各地にあります。
毎年4月初旬に行われるゴルフの祭典「マスターズ」の開催コースであるオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブの13番ロングホールのグリーン周りのアザレア(Azalea)も見事なものです。
また、山野を歩くと見かける薄紫色のミツバツツジも清楚な感じがして、私は大好きです。
ところで、ツツジはなぜ漢字で「躑躅」と書くのでしょうか?また和名である「つつじ」の語源は何でしょうか?
1.ツツジはなぜ漢字で「躑躅」と書くのか
ツツジは漢字で「躑躅」と書きますが、「見る人が足を止めるほど美しい」ことに由来すると言われています。「躑」と「躅」はいずれも、たちどまる、たたずむ、の意です。
なお、「躑躅」の音読みは「テキチョク」で、「躑」の訓読みは「たちもとおる」(立ち徘徊る)で、ある場所から動けなくなる様子を表します。「躅」の訓読みは「ふむ」で、立ち止まることです。
5~6世紀の中国の学者陶弘景(とうこうけい)(456年~536年)は、「羊躑躅(ようてきちょく)」という植物について、「羊がその葉っぱを食べると、『躑躅』して死んでしまう」と述べています。「馬酔木(あせび)」にも似ていますね。
つまり、ツツジには動物を動けなくしてしまうような毒があるのです。このツツジの「毒性」から、ツツジにこの漢字をあてたという説もあります。こちらの方が語源的には説得力があります。
ただし、全てのツツジが毒を含んでいるわけではなく、特に強い毒性を持つのは「レンゲツツジ」です。「羊躑躅」は、レンゲツツジのことです。
一方、16世紀の中国の学者である李時珍(りじちん)(1518年~1593年)は、その著書『本草綱目(ほんぞうこうもく)』の中で、有毒の「羊躑躅」のほかに、子供が食べても大丈夫な「山躑躅(さんてきちょく)」があることを紹介しています。こちらは、日本で言う「ヤマツツジ」です。
「レンゲツツジ」(下の画像・左)と「ヤマツツジ」(下の画像・右)の違いは、「レンゲツツジ」の花の方は細く先が尖っているのに対し、「ヤマツツジ」の花の方は丸みがあることです。
ところで、日本には「ヒツジツツジ」という言葉が一般には存在しません。その理由は、たぶん明治になるまでの日本では、羊はあまり一般に馴染みのある動物ではなかったからでしょう。日本では、つぼみの様子が蓮華に見えることから「レンゲツツジ」と名付けられました。
2.和名の「つつじ」の語源
花が筒状になっていることから「ツツジ」とつけられたという説があり、その他にも、花が連なって次々咲いていく様子から「続き咲き木(ツヅキサキギ)」が語源となり変化していったという説、つぼみの形が女性の乳頭に似ていることから「垂乳(タルルチチ)」の略転という説や、「綴り茂る(ツヅリシゲル)」がもとになったという説もあります。
3.ツツジについて
(1)ツツジとは
古くから栽培されるツツジは、日本人に最も親しまれている植物の一つと言えます。
ツツジの名は、一般的にはサツキを除く、半常緑性の「ヤマツツジ(山躑躅)」の仲間(ツツジ属ヤマツツジ節)の総称として使われますが、落葉性の「レンゲツツジ(蓮華躑躅)」や常緑性で葉にうろこ状の毛がある「ヒカゲツツジ(日陰躑躅)」などを加えることもあります。
「ヤマツツジ」の仲間は、アジア東部に約90種が分布します。日本には花の美しい「ヤマツツジ」や「キシツツジ」、「モチツツジ」、「サツキ」など17種ほどが自生します。
江戸時代中期に、‘本霧島’や‘白琉球’、‘大紫’など現在でも栽培される数多くの園芸品種が作出されました。また、「クルメツツジ」は江戸末期に作出され、明治から大正にかけて多くの品種が作られています。
栽培されるツツジは、日本に自生する野生種をもとに改良されていますので、いずれも栽培は容易です。鉢植えでも庭植えでも楽しむことができます。
(2)ツツジの特徴
ツツジ属の植物は低木から高木で、葉は常緑または落葉性で互生、果実は蒴果です。4月の春先から6月の初夏にかけて漏斗型の特徴的な形の花(先端が五裂している)を数個、枝先につけます。また合弁花類です。
ツツジ属の花の花弁には斑点状の模様が多く見られます。これは「蜜標」(ガイドマーク)で、蜜を求める昆虫に蜜のありかを示している模様であることがよく知られています。蜜標によって花に潜り込む昆虫による受粉ができるように雄蕊がついており、雌蕊の柱頭は蜜標のある方に曲がっています。
人間でも花を上手に採ると花片の下から蜜を吸うことができますが、多くの種に致死性になりうる毒成分の「グラヤノトキシン」などが含まれ、特に多く含む「レンゲツツジ」は庭木として利用されることもあるので注意しなければなりません。
中毒症状としては、嘔吐、痙攣、下痢などを起こします。園芸用として交雑種が多く安全な種との見分けは、専門家でもないかぎり不可能で、児童などが中毒を起こす報告がされています。
交雑種が多く毒の含有量も様々ですが、「ネジキ」の場合、牛は体重の1%の摂取で死ぬと言われています。