日本語の面白い語源・由来(き-④)ギザギザ・教養・帰国子女・傷・気障

フォローする



ノコギリの刃

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.ギザギザ/刻刻(ぎざぎざ)

ギザギザの葉

ギザギザ」とは、のこぎりの歯のような刻み目、また、そのような刻み目が続いているさまのことです。「刻刻」とも書きます。

ギザギザは、「きざむ(刻む)」の語幹「きざ」を重ねた「キザキザ」が転じた語です。
「キザキザ」は細かく切り刻む様子をいった語で、江戸時代の浄瑠璃『傾城酒呑童子』に例が見られます。

これが切り刻んだ後の状態をいうようになり、明治時代以降、濁音化して「ギザギザ」となりました。濁音化後の「ギザギザ」は、夏目漱石の『虞美人草』でも見られます。

ギザギザの語源には、日本で硬貨の縁にギザギザをつけるにあたり、相当する言葉がなかったため、「布を縫い縮めて寄せたひだ」も意味する英語の「gather(ギャザー)」を使い、硬貨の縁のギザギザを「ギャザ」と呼ぶようにし、いつしか「ギザギザ」になったという説もあります。しかし、このギャザー説は雑学の世界で作られた俗説です。

縁にギザギザがつけられた日本硬貨は、古いものでは昭和23年(1948年)の発行の穴のない五円玉や、昭和26年(1951年)から昭和33年(1958年)まで製造された十円玉(いわゆる「ギザ十」)です。

穴無し五円玉ギザ十

現在多く流通している日本硬貨では、五百円玉・百円玉・五十円玉にギザギザがあり、十円玉・五円玉・一円玉にはギザギザがついていません。これは、目が不自由な方でも硬貨のギザギザを触って区別ができるようにするためです。

古い五円玉や十円玉にギザギザがつけられたのは、当時は一円札や十円札もあるなど「高額硬貨」だったためです。

余談ですが、一円札や十円札については「少額紙幣の思い出とお札の肖像になった歴代の人物にまつわる話を紹介」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

2.教養(きょうよう)

教養

教養」とは、学問・知識・芸術・精神修養などを通して養われる品位や心の豊かさ、理解力のことです。また、その手段としての精神活動も意味します。

教養は、明治初期に「education」の訳語として伝わったものです。

しかし、その訳語には「教育」が当てられ定着したことで、教養の意味での使用は廃れ、大正時代以降に「culture(カルチャー)」の訳語という意識で、現在使われているような、教育の内面的な成果を表す言葉になっていきました。

古く、中世の文献にも「教養」の語は見られます。
しかし、室町時代の辞書『伊京集』で「仏事」と説明されているように、その頃の「教養」は死者の後世を弔うことを意味する「孝養」の別表記として使われていたもので、現在使っている「教養」への繋がりが見られないため、別語として捉えるべきです。

「教養」に相当するギリシア語は“パイデイア”であり、意味は「子供が教育係に指導されて身についたもの」のことです。英語ではcultureで「粗野な状態から耕された、人の手を経たもの」、ドイツ語ではBildungであって「つくられたもの」のことです。それぞれに教養の捉え方に対する文化的な差があります。

また「教養」は、伝統的に西欧の高等教育で扱われてきている「リベラル・アーツ( liberal arts)」に相当するものとしても捉えられます。これもギリシア時代の自由人のための学問に起源を発します。

しかし、現代の日本では「パンキョウ」(一“般教”養)という語に代表されるように、大学の専門課程よりも前の課程(教養課程)で習得されるべき広範な一般的基礎知識を指す場合が多いようです。

ちなみに東京大学では、専門課程も含めた「教養学部」があります。この学部は、総合的なものの見方・考え方・柔軟な理解力・思考力などの実践力を身に付けたジェネラリストを養成するのが目的です。

余談ですが、「教養小説」という言葉があります。「教養小説」とは、ドイツ語の「Bildungsroman」の訳語です。Bildung(教養)は「自己形成」を意味しています。ドイツで成立した小説の一ジャンルで、伝記の形式を取りながら、若者である主人公が様々な体験を積み重ねながら成長し、人間形成し、人格を発展させて行く過程を描き、人間的価値を肯定する小説です。

ゲーテの「ヴィルヘルム・マイスターの徒弟時代」と「ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代」がその源流と言われています。

これについては、「大河小説と教養小説」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

3.帰国子女(きこくしじょ)

西田ひかる高田万由子

「帰国子女」と言えば、西田ひかるさんや高田万由子さんなどが有名ですね。

帰国子女」とは、親の仕事の関係などで長年海外で生活し帰国した学齢期の子供のことです。

最近は英語の堪能な「帰国子女」の女子アナが、よく活躍していますね。

子女には二通りの意味があり、「良家(りょうけ)の子女」という際の「子女」は「娘」や「女の子」を意味しますが、「帰国子女」の「子女」は子供の総称で、「子」が「息子」、「女」が「娘」を表しています。

「子」が「息子」を表すのはおかしいようにも思えますが、「子」が「男」を表す言葉には、「娘(むす+め)」に対する「息子(むす+こ)」、「乙女(をと+め)」に対する「男(をと+こ)」、「王女」に対する「王子」などがあり、帰国子女の「子女」だけが特段変わった表現というわけではありません。

4.傷(きず)

傷

」とは、切ったり打ったりして皮膚や肉を損ずること、またその部分のことです。精神的な痛手、物の損じたところ、不名誉なことにも用います。欠点。疵。瑕。

傷の語源には、「キリスリ(切擦)」の略「キリサク(切り裂く)」が転じた説「キザム(刻む)」と同源説「キルカサ(切瘡)」の中略「キサ」が転じたなど多くの説があり、「キル(切る)」「キザム(刻む)」に通じると思われますが未詳です。

皮膚の損じたところ以外の意味で「傷」が使われた例は古くからあり、『源氏物語』や『平家物語』でも「欠点」「恥」「不名誉」の意味で「傷」が使用されています。

5.気障/キザ(きざ)

気障

キザ」とは、服装や態度、言動などが気取っていて、嫌味であること、また、そのさまや、その人のことです。

キザは、漢字で「気障」と書くように、「気障り(きざわり)」を略した言葉です。
江戸の遊郭で使われていた言葉でしたが、近世後半から一般に広まり流行しました。

本来、キザは心配事や気にかかることを表す言葉でしたが、気持ちに差し障りが生じる意味に発展しました。
そこから、相手の言動を不快に感じることや、気に障るさまを意味するようになり、気取っていて嫌味に感じる言動やその人を「キザ」と言うようになりました。