旧制高校の寮歌には青春の心意気と哀調が溢れていた!バンカラ・ストームも紹介

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日本寮歌祭

私が小学生だった1961年に小林旭が歌った「北帰行」が大ヒットし、ラジオでもよく流れていました。この元歌は旧制旅順高等学校の愛唱歌です。

また1978年にNHK[みんなのうた」で芹洋子が歌った「坊がつる讃歌」の原曲は、広島高等師範学校山岳部の「山男の歌」です。

それから、「日本寮歌祭」などでもお馴染みの「嗚呼玉杯」は旧制一高の寮歌です。私はサラリーマンになってからだっと思いますが、加藤登紀子の「日本寮歌集」というLPレコードを買って、たくさんの寮歌を聞きました。

ちなみに「日本三大寮歌」と呼ばれるのは、旧制三高の「逍遥の歌」、旧制一高の「嗚呼玉杯」、北大予科の「都ぞ弥生」です。

余談ですが、「日本寮歌祭」は1961年に第1回が開催されましたが、参加者の高齢化で運営が次第に困難となり、2010年の第50回で打ち切りとなりました。

1.印象深い寮歌

(1)北帰行

この歌は、東京から寒さの厳しい満州に帰る若者の挫折感・さびしさがよく出ています。作曲者の宇田博氏は、旧制一高の受験に失敗し、満州国新京にあった建国大学予科に入学しますが半年で退学となり、1940年に開校したばかりの旅順高等学校に入学します。

しかし戦時体制下の新設校の同校には「蛮カラ」で自由な校風はなく、生活指導の教官に目を付けられていたそうです。後に退学処分となった時、同校への訣別の歌として友人たちに残したのがこの歌です。

原曲の歌詞では、満州各地の学校で体験した強圧的な体制への憤懣と、容れられない己の存在を嘆く心情が率直に吐露されています。

(2)坊がつる讃歌

独特の哀調を帯びたメロディーが印象に残っています。ダークダックスの歌った「山男の歌」の軽快で明るい調子とは全く違うものです。

(3)嗚呼玉杯

これは、自治の理想と天下国家を担う使命感に燃えるエリートの心意気を歌ったものです。

この歌にちなんで書かれた佐藤紅緑の「ああ玉杯に花うけて」という少年向け小説やそれを原作とした映画も有名です。余談ですが佐藤紅緑の息子はサトウハチローで娘は佐藤愛子です。

歌詞は難解なところもありますが含蓄に富んでおり、私は加藤登紀子の「日本寮歌集」を聞いて暗唱したものです。

①嗚呼(ああ)玉杯に花うけて 緑酒(りょくしゅ)に月の影宿(やど)
治安の夢に耽(ふけ)りたる 栄華(えいが)の巷(ちまた)低く見て
向ケ岡(むこうがおか)にそそり立つ 五寮の健児(けんじ)意気高し

②芙蓉(ふよう)の雪の精をとり 芳野(よしの)の花の華(か)を奪い
清き心の益良雄(ますらお)が 剣(つるぎ)と筆とをとり持ちて
一たび起たば何事か 人世の偉業成らざらん

③濁れる海に漂(ただよ)える 我国民(わがくにたみ)を救わんと
逆巻く浪をかきわけて 自治の大船勇ましく
尚武の風を帆にはらみ 船出せしより十二年

④花咲き花はうつろいて 露おき露のひるがごと
星霜移り人は去り 舵とる舟師(かこ)は変るとも
(わが)のる船は常(とこし)えに 理想の自治に進むなり

⑤行途(ゆくて)を拒むものあらば 斬りて捨つるに何かある
破邪の剣を抜き持ちて 舳(へさき)に立ちて我呼べば                   魑魅魍魎(ちみもうりょう)も影ひそめ 金波銀波の海静か

2.バンカラ(蛮カラ)・ストームなど旧制高校にまつわる話

私が高校生の時、先輩の一人が「蛮カラ」旧制高校生をまねて、「裸足に下駄履き」「弊衣破帽」「腰に手ぬぐい」をぶら下げた格好で通学していました。

旧制高校生は、「エリート」で、それぞれの学校がある街の人からも尊敬されていたそうで、ストームのようなバカ騒ぎも、青春の熱気として許容されていたようです。

ストーム(storm)は、「バンカラ」(「ハイカラ」の反対で、粗野で野蛮な身なりや言動)の一種で、ドイツ語読みで「スツルム(Sturm)」と呼ばれることもあったそうです。

「バカ騒ぎ」が基本で、歓迎ストーム・返礼ストーム、街に出て放歌高吟して気勢を上げる街頭ストーム、巨大な火を焚きそれを囲んで行うファイアーストーム、夜中に新入生を起こして入学の抱負などを言わせ、上級生が説教を垂れる説教ストームなどがありました。

無理やり饗宴に他者を巻き込んでいくストームには、「俺たちはこんなに楽しいのだから、お前たちも一緒に楽しもう」といった「連帯意識」「ゲマインシャフトの精神」が底流にあったようです。


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