前回まで、「ホトトギス派の俳人」16人(「ホトトギス派の俳人(その16)杉田久女:虚子との確執で有名な悲運の女流俳人」など)と「ホトトギス派以外の俳人」14人(「ホトトギス派以外の俳人(その14)長谷川かな女:大正期を代表する女流俳人」など)を紹介する記事を書いてきました。
ホトトギス派は、「客観写生」「花鳥諷詠」「有季定型(季語のある定型俳句)」を旨としましたが、それに飽き足りない俳人たちが、「無季俳句」や「自由律俳句」などを標榜する「新興俳句運動」を起こしました。
私は、「新興俳句運動」を全否定するつもりはなく、それなりの歴史的意義はあったと思います。しかし、私はやはり季節感溢れる「季語」を詠み込んだ「定型俳句」に魅力を感じます。
そこには、現代の私たちの生活から失われつつある(一部はほとんど失われた)季節感が溢れており、「懐かしい日本の原風景」を見るような気がします。
そこで今回から、「二十四節気」に沿って季節感あふれる「季語」と俳句をご紹介していきたいと思います。
なお、前に「季語の季節と二十四節気、旧暦・新暦の季節感の違い」という記事も書いていますので、ぜひご覧下さい。
「冬」は旧暦10月~12月にあたり、「初冬」(立冬・小雪)、「仲冬」(大雪・冬至)、「晩冬」(小寒・大寒)に分かれます。
今回は「晩冬」(小寒・大寒)の季語と俳句をご紹介します。
・小寒(しょうかん):新暦1月5日頃です。「十二月節」 寒の入りで寒気が増してきます。
・大寒(だいかん):新暦1月20日頃です。「十二月中」 冷気が極まって最も寒さが募ります。
1.時候
(1)あ行
・明日の春(あすのはる):冬も終わりに近づき、春の気配が漂う感じ
・梅初月(うめはつづき):陰暦12月の異称。「梅が咲き始めるころの月」の意
・乙子月(おとごづき):陰暦12月の異称
・弟月(おととづき/おとごづき/おとづき/おとうづき):陰暦12月の異称
・親子月(おやこづき):陰暦12月の異称
(2)か行
・鵲巣をくいそむる(かささぎすをくいそむる):七十二候の一つ。小寒の第二候。陽暦1月10日から14日頃
・鵲巣をくう(かささぎすをくう):七十二候の一つ。小寒の第二候。陽暦1月10日から14日頃
・鵲初めて巣くう(かささぎはじめてすくう):七十二候の一つ。小寒の第二候。陽暦1月10日から14日頃
・下冬(かとう):末の冬
・寒きびし(かんきびし):冬の厳しい寒さのこと
・寒九(かんく):寒に入ってから9日目。1月13日ごろ
湯に透きて 寒九の臍の のびちぢみ(加藤楸邨)
・寒四郎(かんしろう):寒の入りから4日目。麦の厄日とされており、晴れればその年は豊作といわれた
・寒中(かんちゅう):寒の入りから寒明けまでの約30日間。寒の内。また、冬の寒さの厳しい期間
・寒土用(かんどよう):春夏秋冬それぞれに土用はあるが、普通、土用といえば夏の土用のことである。寒土用は立春前の18日間。寒さの厳しい時期である
・寒の入り/寒の入(かんのいり):一年のうちでいちばん寒さがきびしい時期に入る日のこと。1月6日ごろにあたり、この日から立春前日(節分)までの約30日間を寒という
月花の 愚に針立てん 寒の入り(松尾芭蕉)
晴天も 猶つめたしや 寒の入(杉山杉風)
猶白し 寒に入る夜の 月の影(蝶夢)
うす壁に づんづと寒が 入りにけり(小林一茶)
よく光る 高嶺の星や 寒の入り(村上鬼城)
きびきびと 応(こた)ふる寒に 入りにけり(松本たかし)
朝々の さすがに寒に 入りにけり(星野立子)
・寒の内(かんのうち):寒の入り(小寒の日)から、立春の前日までをいう。単に寒とも寒中ともいう。太平洋側はからりと晴れる日が続き、日本海側は鉛色の雪雲に覆われる。大寒、小寒など、類季語は微妙に配されているので、体感を踏まえつつ用いたいもの
干鮭も 空也の痩せも 寒の内(松尾芭蕉)
のら猫の 声もつきなや 寒のうち(浪化)
海老焼きて やまひに遊ぶ 寒の内(三浦樗良)
薬のむ あとの蜜柑や 寒の内(正岡子規)
美食して 身をいとへとや 寒の内(村上鬼城)
・季冬(きとう):冬の終わり。晩冬
・厳寒(げんかん):冬の厳しい寒さのこと。強い北風の日が続くと、寒さはいっそう増し北国では吹雪や凍結などにより、日常の生活にも支障をきたすことになる。身も心も刺すような厳しい寒さをいう
・厳冬(げんとう):冬の、寒さが最もきびしいころ。また、寒さのきびしい冬
・極寒(ごくかん):きわめて寒いこと
・極月(ごくげつ):陰暦12月の別称
・酷寒(こっかん):厳しい寒さ。ひどい寒さ
(3)さ行
・しばれる:北海道、東北地方で、きびしく冷え込んだときに使う言葉
・凍れ(しばれ):北海道や東北地方の方言で、冬の猛烈な寒気で身も凍るようなことをいう
・小寒(しょうかん):二十四節気のひとつ、陰暦12月の節で冬至の後15日、太陽暦の1月5日頃に当たる。寒の入りの日で寒さが本格化してくる
小寒や 枯草に舞ふ うすほこり(長谷川春草)
・除日立春(じょじつりっしゅん):陰暦で正月になる前に立春になること
・師走(しわす):陰暦12月の異称だが陽暦でも使われる。語源については諸説あるが、この月には師(僧)が仏事などで忙しく走り回ることから、というのが一般的
月白き 師走は子路が 寝覚かな(松尾芭蕉)
旅寝よし 宿は師走の 夕月夜(松尾芭蕉)
雪と雪 今宵師走の 名月か(松尾芭蕉)
何に此 師走の市へ 行烏(松尾芭蕉)
中ゝに 心をかしき 臘月(しわす)哉(松尾芭蕉)
銭湯の 朝かげきよき 師走かな(広瀬惟然)
・末の冬(すえのふゆ):陰暦12月の異称
・節分(せちぶ/せつぶん):本来は季節の変り目をいうが、今は立春の前日のみをいう。2月3日頃である。
この日は、年神が入れ替わる節であり、入れ替わりの隙をついて鬼が入り込もうとするので豆をまいて鬼を追い払う。各地の神社仏閣では追儺の鬼踊りや鬼を追う豆まきなどが行われ、多くの参詣人でにぎわう。冬の最後の日であり、春を迎える行事でもある
舟うるや 声もたからか 節分の夜(池西言水)
節分や よい巫子誉むる 神楽堂(黒柳召波)
節分や 肩すぼめゆく 行脚僧(あんぎゃそう)(幸田露伴)
節分や ざくざくとふむ 夜の雪(原石鼎)
節分の夜の 瞳にたかし 嶺の星(原石鼎)
節分や 豆腐を買へる 厨口(くりやぐち)(原石鼎)
・節替り(せつがわり):季節の移り変る時・季節の変わり目の意で、後冬から春への変り目、特に立春の前日のこと
(4)た行
・大寒(だいかん):二十四節気の一つ。陽暦の1月21日ごろにあたり、このころから立春までの間が、一年のうちで最も寒さが厳しい
大寒の 大々とした 月よかな(小林一茶)
大寒や あぶりて食(くら)ふ 酒の粕(村上鬼城)
大寒や 下仁田の里の 根深汁(村上鬼城)
大寒や 水あげて澄む 莖(くき)の桶(村上鬼城)
大寒の 埃の如く 人死ぬる(高浜虚子)
薬のんで 大寒の障子を 見てゐる(臼田亜浪)
霜とけて 大寒こゝに 終りけり(原石鼎)
大寒や しづかにけむる 茶碗蒸(日野草城)
大寒の 残る夕日を 市の中(石橋秀野)
大寒の 一戸もかくれ なき故郷(飯田龍太)
大寒の 天の一角 昏(く)れあます(高田正子)
・年の内の春(としのうちのはる):節分は陽暦、旧正月は陰暦のため、閏月があると正月の前に節分があること
・年の春(としのはる):節分は陽暦、旧正月は陰暦のため、閏月があると正月の前に節分があること
・鶏交みす(とりつるみす):七十二候の一つで、大寒の第一候。陽暦1月21日から25日頃
・鶏交み初む(とりつるみそむ):「鶏交みす」に同じ
(5)な行
・鶏初めて交む(にわとりはじめてつるむ):七十二候の一つで、大寒の第一候。陽暦1月21日から25日頃
・年内立春(ねんないりっしゅん):年が明けないうちに立春を迎えること。太陽暦では、2月4日頃が立春にあたるが、旧暦では正月の前後に立春を迎えたことによる
春や来し 年や行きけん 小晦日(松尾芭蕉)
十五日 春やのしこむ 年の暮(内藤丈草)
年の内に 春は来にけり いらぬ世話(小林一茶)
年の内へ 踏み込む春の 日足かな(北村季吟)
去年(こぞ)に似て どこやら霞む 年の内(上島鬼貫)
(6)は行
・春風近し(はるかぜちかし):晩冬に春の訪れを待ち焦がれること
・春近し(はるちかし):寒さも峠を越して、春が訪れようとする感じをいう。「春待つ」には心持ちが入るが、春近しはその季節の感じを詠む場合が多い
春近く 榾(ほた)つみかゆる 菜畑哉(武井亀洞)
口明けて 春を待つらん 犬はりこ(小林一茶)
小説を 草して独り 春を待つ(正岡子規)
・春遠からじ(はるとおからじ):晩冬に春の訪れを待ち焦がれること
・春遠し(はるとおし):晩冬に春の訪れを待ち焦がれること
・春隣(はるとなり):晩冬には寒さが緩む日が多く、春の訪れを感じることが多くなる。春の隣は春が近いということ。春がもうすぐそこまで来ていること。春の気配。春を待ちわびる気持ちに立った季語
一吹雪 春の隣と なりにけり(前田普羅)
ほどけたる 雪に日溢(あふ)れ 春隣(日野草城)
借りし書の 返しがたなし 春隣(松本たかし)
鳥笛は 息のなきがら 春隣(長谷川櫂)
銀鼠 色の夜空も 春隣り(飯田龍太)
・春隣る(はるとなる):晩冬に春の訪れを待ち焦がれること
・春の急ぎ(はるのいそぎ):晩冬に春の訪れを待ち焦がれること
・春まぢか(はるまぢか):晩冬に春の訪れを待ち焦がれること
・春待月(はるまちづき):陰暦12月の別称
・春やは遠き(はるやはとおき):晩冬に春の訪れを待ち焦がれること
・春を急ぐ(はるをいそぐ):冬も終わりに近づき、春の気配が漂う感じ
・春を隣(はるをとなり):冬の終り、春の近い訪れを待つ心
・晩冬(ばんとう):陰暦12月の異名。冬の最後の月のこと。小寒(1月5日頃)から立春の前日(2月3日頃)の一ヶ月。厳しい冬の果ての風情と、かすかな春の到来を感受できる頃
・日脚伸ぶ(ひあしのぶ):年も明けて、少しずつ日が長くなること。一月も終わりの頃になると、日が長くなったなあという感慨にとらわれることがある。冬木の芽もしだいにふくらみ、春が近いことを感じる
・冬送る(ふゆおくる):長く辛い冬がやっと終わること。喜びの気持ちが籠もる
・冬惜しむ(ふゆおしむ):過ぎゆく冬を惜しむこと。陰暦では年を惜しむと同義になる
障子あけて 部屋のゆとりを 冬惜しむ(富田木歩)
・冬終る(ふゆおわる):長く辛い冬がやっと終わること。喜びの気持ちが籠もる
・冬さぶ(ふゆさぶ):冬の寒さもたけなわという感じ
・冬去る(ふゆさる):冬が終ることで、長い暗い冬から解放される喜びがある
・冬尽く(ふゆつく):冬が終わること。「尽きる」ということばに、長く厳しい冬がやっと終わるという気持ちが込められている。そして、もう間もなく訪れる春を、こころ待ちにする喜びが滲む
・冬の限り(ふゆのかぎり):冬が終ることで、長い暗い冬から解放される喜びがある
・冬の名残(ふゆのなごり):長く辛い冬がやっと終わること。喜びの気持ちが籠もる
・冬の春(ふゆのはる):節分は陽暦、旧正月は陰暦のため、閏月があると正月の前に節分があること
・冬の別れ(ふゆのわかれ):冬が終ることで、長い暗い冬から解放される喜びがある
・冬果つ(ふゆはつ):長く辛い冬がやっと終わること。喜びの気持ちが籠もる
・冬深し(ふゆふかし):一年で寒さの最も極まる時期のこと。積もった雪や北風に吹かれる枯れ草、防寒着に身を包む人々など、どこを見ても冬真っ盛り。春が待たれる日々である
冬深し 手に乗る禽(とり)の 夢を見て(飯田龍太)
冬深し 柱の中の 濤(なみ)の音(長谷川櫂)
・冬深む(ふゆふかむ):冬の寒さもたけなわという感じ
・冬行く(ふゆゆく):冬が終ることで、長い暗い冬から解放される喜びがある
(7)ま行
・末冬(まつとう):「末の冬」に同じ
・真冬(まふゆ):冬のさなか
・三冬月(みふゆづき):陰暦12月の異称。
・み冬尽く(みふゆつく):三ヵ月の冬が終ることで、長い暗い冬から解放される喜びがある
(8)や行
(9)ら行
・臘月(ろうげつ):陰暦12月の異称。
(10)わ行
・私大(わたくしだい):青森県や秋田県で、陰暦12月が小の月で29日までしかない年に、翌元日をもって大晦日としたこと。2日を正月元日にあてる。
2.天文
(1)あ行
・雨氷(うひょう):過冷却された雨滴のこと。それが、樹木や岩などに付着することによって氷の結晶となる
・大雪(おおゆき): 雪が大量に降ること。 また、大量に降り積もった雪。 豪雪
大雪の 山をづかづか 一人哉(小林 一茶)
(2)か行
・風花(かざはな/かざばな/かぜはな):晴れた空を雪がひとひらずつ舞い落ちてくること。雪になるかなと思っているうちに何時の間にかに止んでしまっている。上州地方では、吹越(ふきこし)と言っている。儚く美しい光景である
風花や 山下りて来る 二三人雨(石田雨圃子)
風花の 今日をかなしと 思ひけり(高浜虚子)
風花や あるとき青き すみだ川(久米三汀)
風花や 胸にはとはの 摩擦音(石田波郷)
風花や 一生かけて 守る人(長谷川櫂)
・冠雪(かむりゆき):門柱・電柱などに積もって、笠状になった雪
・寒九の雨(かんくのあめ):寒九(寒に入って九日目)に降る雨。豊作の兆 (きざし) として喜ばれる
・寒の雨(かんのあめ):寒の内(寒の入から立春の前日まで)に降る雨をいう。冷え込みがきつくなれば、雪に変わる雨である
雁騒ぐ 鳥羽の田づらや 寒の雨(松尾芭蕉)
・木花/木華/樹華(きばな):樹氷の別称
・霧の花(きりのはな):樹氷の別称
・小米雪(こごめゆき):小米の粒のように細かく、さらさらと降る雪。粉雪
・粉雪(こなゆき):粉のようにさらさらとした雪
・小雪(こゆき):少し降る雪。少しの雪
(3)さ行
・細雪(ささめゆき):こまかい雪。また、まばらに降る雪
細雪 妻に言葉を 待たれをり(石田波郷)
・ざらめ雪/粗目雪(ざらめゆき):積もった雪の表面が一旦融け、また凍ってざらめ状になったもの
・しづり:杉の木の枝などに積もった雪が、雪自体の重さで垂れ落ちること。雪が湿っていて重ければそのまま枝を折ってしまうこともある
・しづり雪(しづりゆき):樹木の枝葉などに降り積もった雪が落ちること
・湿雪(しっせつ/しめりゆき):水っぽく重たい雪。乾雪に対する語
・地吹雪(じふぶき):一度積もった雪が、強風でまた地面から吹き上げられること
・しまき:降る粉雪が、強い風にあおられる状態を言う。視界が極端に悪くなり、車の運転にも支障をきたす。吹雪と同様であるが、吹雪以上に風の強さが感じられる季語である
しまき来る 雪のくろみや 雲の間(あい)(内藤丈草)
・しまき雲(しまきぐも):雪しまきをおこす雲
・しまり雪/締まり雪(しまりゆき):きめの細かいしまった雪
・樹霜(じゅそう):大気中の水蒸気が昇華して樹木などに付着した、氷の結晶。霧氷の一種
・樹氷(じゅひょう):霧の粒が木の幹や枝に付着しそのまま凍った着氷現象をいう。気泡を含んでいるので雪のように白く、さまざまな形に変化する姿は「スノーモンスター」などと呼ばれ幻想的である。日本では蔵王の樹氷が有名である
製炭夫 樹氷鎧(よろ)へる 樹を背にす(臼田亜浪)
・樹氷原(じゅひょうげん):樹氷のできた原野
・樹氷林(じゅひょうりん):樹氷のできた林
・師走八日吹き(しわすようかぶき):陰暦十二月八日の雪を伴った強風
・新雪(しんせつ):新しく降もった雪
・積雪(せきせつ):地面に降り積もった雪。気象観測では、観測所の周囲の地面の2分の1以上が雪でおおわれた状態をいう
・節東風(せちごち):瀬戸内あたりで、陰暦の12月頃吹く東よりの風をいう。春の訪れが近いことを知らせる風
・雪華(せっか):雪の結晶、または雪の降るのを花にたとえたもの
・雪後の天(せつごのてん):雪の降り止んだ翌朝は、快晴無風の日に恵まれること
さえざえと 雪後の天の 怒濤かな(加藤楸邨)
・雪庇(せっぴ):山の急な傾斜面にできる雪の庇。山の稜線 (りょうせん) 上の風下側に庇 (ひさし) のように張り出した積雪
・雪片(せっぺん):雪のひとひら。雪の結晶体が互いにいくつか付着して、ある大きさになったもの
雪片の つれ立ちてくる 深空 (みそら) かな(高野素十)
・粗氷(そひょう):零度以下に過冷却した霧や雲の微細な水滴が、樹木や岩などに凍りついてできた透明または半透明の氷。樹氷より霧粒が大きいもの
(4)た行
・筒雪(つつゆき):電線などに凍りつき筒のようになった雪
(5)な行
・根雪(ねゆき):解けないうちに雪がさらに降り積もって、雪解けの時期まで残る下積みの雪
(6)は行
・氷晶(ひょうしょう):厳冬期の北海道や山岳地帯で見られるいわゆるダイヤモンドダスト。日光があたって美しく輝く
・氷塵(ひょうじん):厳冬期の北海道や山岳地帯で見られる大気中に出来る氷の結晶。晴れた日に空中に浮かび、日光がさすと七彩に輝く
・氷霧(ひょうむ):厳冬期の北海道や山岳地帯で見られるいわゆるダイヤモンドダスト。日光があたって美しく輝く
・風雪(ふうせつ):風が激しく吹き、雪がふりしきること
・衾雪(ふすまゆき):一面に白く降り積もった雪。降ってくる雪片がひじょうに大きい雪
・吹雪/雪吹(ふぶき):強烈な風を伴う降雪。北国の冬の厳しさの象徴であり、自然の猛威の一つ。視界ゼロということも珍しくなく、行き倒れれば死を招く
ひつかけて 行くや雪吹の てしまござ(向井去来)
むら雲の 岩を出づるや 雪吹の根(内藤丈草)
畑から 家鳩の立つ ふぶきかな(炭 太祗)
宿かせと 刀投げ出す 雪吹かな(与謝蕪村)
ぬけがけの 手綱ひかゆる 雪吹かな(黒柳召波)
雁高く 低く雪吹を めぐるかな(加藤暁台)
降り止めば 月あり月を 又ふぶき(高桑闌更)
灯ちらちら 疱瘡小家の 雪吹かな(小林一茶)
町近く 来るや吹雪の 鹿一つ(正岡子規)
今日も暮るる 吹雪の底の 大日輪(臼田亜浪)
橇やがて 吹雪の渦に 吸はれけり(杉田久女)
・べと雪(べとゆき):水気が多い雪
・暮雪(ぼせつ):夕方に降る雪。また、夕暮れに見る雪景色
(7)ま行
・水雪(みずゆき):水分をたくさん含んだ積雪
・深雪(みゆき):深く降り積もった雪
・深雪晴(みゆきばれ):雪が降り積もった翌朝に空が晴れわたること
・霧雪(むせつ):厳冬期の北海道や山岳地帯で見られるいわゆるダイヤモンドダスト。日光があたって美しく輝く
・六花(むつのはな/りっか):雪の別称。雪の結晶の六角形に由来
・霧氷(むひょう):気温が氷点下になった時に、水蒸気や霧が氷結して木の枝に白く 凍りついたもの。朝日や夕日に照らされて輝く様は多くの人を魅 了する
・霧氷林(むひょうりん):寒地や冬山で、樹木についた霧の水滴が凍り、遠望すると林に一面に白い花が咲いたように見える現象
・餅雪(もちゆき):餅のようなふわふわした感じの雪。綿雪
餅雪を しら糸となす 柳哉(松尾芭蕉)
(8)や行
・雪(ゆき):雪は春の花、秋の月と並んで冬の美を代表する。雪国と呼ばれる日本海沿岸の豪雪地帯では雪は美しいものであるどころか、白魔と恐れられる
たふとさや 雪降らぬ日も 蓑と笠(松尾芭蕉)
足あとは 雪の人也 かはかぶり(松尾芭蕉)
市人よ この笠売らう 雪の傘(松尾芭蕉)
馬をさへ ながむる雪の 朝(あした)哉(松尾芭蕉)
酒のめば いとゞ寝られぬ 夜の雪(松尾芭蕉)
我雪と おもへば軽し 笠のうへ(宝井其角)
花となり 雫となるや けさの雪(加賀千代女)
うつくしき 日和となりぬ 雪のうへ(炭 太祇)
灯ともさん 一日に深き 雪の庵(加舎白雄)
魚くふて 口なまぐさし 昼の雪(夏目成美)
寝ならぶや しなのゝ山も 夜の雪(小林一茶)
いくたびも 雪の深さを 尋ねけり(正岡子規)
農具市 深雪を踏みて 固めけり(前田普羅)
奥白根 かの世の雪を かがやかす(前田普羅)
降る雪や 明治は遠く なりにけり(中村草田男)
白馬の 眼繞(めぐ)る癇脈 雪の富士(中村草田男)
落葉松(からまつ)は いつめざめても 雪降りをり(加藤楸邨)
雪はしづかに ゆたかにはやし 屍室(石田波郷)
雪降れり 時間の束の 降るごとく(石田波郷)
雪の日暮れは いくたびも読む 文のごとし(飯田龍太)
雪国に 子を産んでこの 深まなざし(森澄雄)
高々と 筧(かけひ)を渡し 雪の庭(長谷川櫂)
榛の木(はんのき)の 影ながながと 雪の上(長谷川櫂)
火の色に ざらりと雪の こぼれけり(高田正子)
・雪明(ゆきあかり):積もった雪の反射で、夜も周囲が薄明るく見えること
・雪起し(ゆきおこし):北の地方で雪が降り出しそうな時に鳴る予兆のような雷のこと。地響きのような重い音がし、激しい雷光と雷鳴の後、雪が降り出す
納豆する とぎれやみねの 雪起(内藤丈草)
・雪男(ゆきおとこ):雪の夜に出るといわれる妖怪・化け物
・雪鬼(ゆきおに):雪の夜に出るといわれる妖怪・化け物
・雪女(ゆきおんな):雪国の伝説で、雪の降る夜、白い衣を着た女の姿で現れるという雪の精。雪娘。雪女郎
三日月の 櫛や忘れし 雪女(佐藤紅緑)
・雪風(ゆきかぜ):雪と風。また、雪まじりの風
・雪雷(ゆきがみなり):雪国での冬の雷の別称。雷を降雪の兆しと見たことに由来
・雪冠(ゆきかむり):門柱・電柱などに積もって、笠状になった雪
・雪国(ゆきぐに):雪の多い地方
・雪雲(ゆきぐも):雪を降らせる雲。俗に、乱層雲のこと
京までは まだ半空(なかぞら)や 雪の雲(芭蕉)
・雪曇(ゆきぐもり):雪雲のために空が曇ること
やはらかに 袱紗(ふくさ)折ったり 雪曇り(椎本才麿)
草臥(くたび)れて 烏(からす)行くなり 雪ぐもり(八十村路通)
雪ぐもり 見やる僧都の 御山かな(蝶夢)
崖 の上に 犬吠 (ほ) えたつる 雪曇(加藤楸邨)
・雪暗(ゆきぐれ):いまにも雪が降りそうな冬の空模様
・雪気(ゆきげ):雪が降り出しそうな空模様。雪の降りそうな気配
・雪景色(ゆきげしき):雪の降っている景色。また、雪が一面に降り積もった風景
・雪煙(ゆきけむり):積もっていた雪が風のために煙のように舞い上がること。また、その雪
・雪しぐれ/雪時雨(ゆきしぐれ):時雨ている状態でしだいに気温が下り、雪まじりになること。降り止んで日の射すこともある
・雪しまき(ゆきしまき/ゆきじまき):雪を伴った激しい風
・雪女郎(ゆきじょろう):雪国の伝説にある雪女、雪の精のこと。幾月も雪にとざされる豪雪地方では、迫りくる闇、吹雪の夜の風の音など、いろいろな自然現象がときに幻想となって現れたりする。雪夜に人を惑わすというその美しさ、恐ろしさが今も語り継がれている
あらはれて 見えよ芭蕉の 雪女(三圃)
かかる夜の 檐(のき)にや忍ぶ 雪女郎(臼田亜浪)
雪女郎 おそろし父の 恋恐ろし(中村草田男)
すいときて 眉のなかりし 雪女郎(森澄雄)
雪女郎 雪間の水の 音となり(長谷川櫂)
・雪空(ゆきぞら):雪が降ってきそうな様子の空。雪模様の空
・雪月夜(ゆきづきよ):雪のあるときの月夜
・雪浪(ゆきなみ):強風のため積雪面に波紋のような起伏ができること
・雪の声(ゆきのこえ):雪が窓などにあたる音
・雪の精(ゆきのせい):雪国で雪の夜に出るといわれる妖怪
・雪の花(ゆきのはな):雪を花にたとえていう語
・雪の雷(ゆきのらい):雪国での冬の雷の別称。雷を降雪の兆しと見たことに由来
・雪晴(ゆきばれ):何日も雪が降り続いたあとで、雲ひとつない青空に恵まれることがある。雪に反射したまばゆい光のなかで、屋根に積もった雪を家族総出で卸したり、子どもらが雪合戦に興じたりする
雪晴の 日ざしまともに 机かな(五百木瓢亭)
・雪紐(ゆきひも):塀や枝などに積もった雪が融けて滑り、紐のように垂れ下がったもの
・雪坊主(ゆきぼうず):雪国で雪の夜に出るといわれる妖怪
・雪催い(ゆきもよい):いまにも雪が降り出しそうな天気のこと。雲が重く垂れこめ、空気も冷え冷えとしてくる
・雪模様(ゆきもよう):いまにも雪が降りそうな冬の空模様
・八日吹き(ようかぶき):東北や山陰で、陰暦12月8日に吹く強風をいう。根拠はないが、12月8日には、決まって雪をともなったこの風が吹くとされた
(9)ら行
(10)わ行