「川端康成」と「大宅壮一」の講演を聞いて知った二人の対照的な個性とエピソード

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大宅壮一

小説家でノーベル文学賞を受賞した川端康成(1899年~1972年)とジャーナリストでノンフィクション作家・評論家の大宅壮一(1900年~1970年)は、私が通っていた高校の大先輩です。お二人は大正初期の「旧制中学」の時代です。

私が高校に入学した年は、学校創立70周年に当たっていたため、記念式典が開かれました。その時、特別講演をしたのが、川端康成と大宅壮一でした。

1.大宅壮一

大宅壮一は、現在評論家として活躍している大宅映子さんの父親です。彼は「テレビというメディアは非常に低俗なものであり、テレビばかり見ていると人間の想像力や思考力を低下させてしまう」という意味の「一億総白痴化」という流行語を生みだしたり、「戦後、学制改革で全国各地に急増した地方国立大学」のことを「駅弁大学」と呼んで揶揄したりして有名でした。

最初に登壇したのは大宅壮一でした。彼の話で印象に残っている話が三つあります。

彼は醤油屋の息子でしたので、学校から帰った後、家業の手伝いとして「配達」にも行きました。その時、彼は「英単語カード」を持ち歩き、配達が終わっても、完全に覚え終わるまで帰らなかったそうです。

もう一つは、「教育勅語」に関するものです。中段の「臣民の道」を説く部分に「國法ニ遵(したが)ヒ 一旦緩急アハ 義勇公ニ奉シ・・・」とありますが、「一旦緩急あれば」は文法上誤りで、「一旦緩急あば」が正しいのではないかと教師に訴えたそうです。

天皇の勅語に文句を付けたのですから、当然のことながら、「即却下」されたそうです。実は私も、この文章は、文語体なのにここだけ現代文のようで変だなと思っていました。

そこで私も後で調べてみました。その結果、この部分は単純な仮定の「未然形」ではなく、「一旦国難のような有事があれば必ず」という必然の「已然形(いぜんけい)」だということがわかりました。「仰ば尊し」が「仰ば尊し」でないのと同じです。「海ゆば」のような場合は、「未然形」なので、これでよい訳です。

最後は、川端との大学生時代の交友関係の中で「川端は、よく借金をしに来た」と話したことです。これは少し意外な感じがしました。

2.川端康成

次に川端康成が登壇しました。彼について印象に残っていることが三つあります。

彼は話を始める前に、演台に置かれた水差しからコップに水を入れ、一口飲みました。よほど喉が渇いていたのかも知れませんが、最初に水を飲む人はあまり見たことがありません。

彼は、旧制中学に首席で入学して新入生代表で挨拶をしたようですが、極度の「あがり症」だったようです。そこで、大勢の前で話す緊張を和らげる意味で水を飲んだのかも知れません。そして、「ふるさとの水はやはりおいしい」と感想を述べました。

大宅壮一は、評論家らしく大きな声で、ユーモアを交えて笑いを取るような話でしたが、川端康成は小さな声でぼそぼそ話すような感じでした。

そして、最初に「先ほど、大宅君が何をしゃべったか知りませんが、彼の話は全部うそですからね。」と、苦笑交じりに話したことです。これは「借金」の話のことかなと感じました。

話の中身で印象に残ったのは、彼が寄宿舎に入った時の話です。夜に星空が見たいために、他の寮生の邪魔にならないように、一人廊下の方に寝床を移したという話でした。「孤独なロマンチスト」のような印象を受けました。

もう一つ、講演が終わってから、昼休みに私たち生徒がプールサイドの芝生で休憩している所へ、彼が校長に案内されて50mの屋外プールにやって来ました。

このプールは、川端康成や大宅壮一が生徒のころに、生徒も勤労奉仕で動員されて穴を掘り、近くの川から水を引いて作ったものです。「日本最初の競泳用プール」です。

このプールで、同中学の体育教師杉本伝(つとう)氏によって日本最初の「クロール泳法」が完成され、卒業生から高石勝男などのオリンピック選手を輩出したのです。

彼はその頃のことを思い出しているのか、じっと遠くを見つめるような目をして、しばらくの間黙ったまま立ち尽くしていたのが印象に残っています。彼が「黙って人を凝視する癖」があることで有名なのを知ったのは、その後のことです。

彼のこの癖にまつわる面白いエピソードがあります。

泥棒が彼の自宅に押し入ったところ、布団の中の彼の「凝視」にぎょっと驚き、「だめですか?」と言って逃げ出したことがあるそうです。

彼が大学時代に下宿していた家主のおばあさんが、家賃の催促に来た時、彼はじっと黙っていつまでも座っているだけで、おばあさんを退散させたこともあるそうです。

「目は口程に物を言う」というのか、「無言の圧力」「無言の威圧」というのでしょうか?

それとも、変に強盗に恐れをなしてびくびくしたり、家主にいい加減な滞納の言い訳をしたりせず、相手の心の中を見透かすように、相手を凝視して黙って平然としている所が不気味に思われたのでしょうか?



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