昔から「セミの寿命は1週間」「地中で7年過ごす」と言われて来ました。
「空蝉(うつせみ)」という言葉は、もともと「うつしおみ」から転化したもので、「この世に現に生きている人。この世」「セミの抜け殻。セミ」の意味ですが、ともに「はかないもの」というイメージがあります。
1.「セミの寿命は1週間」という「常識」
私が子供の頃、アブラゼミやニイニイゼミを捕まえて虫籠に入れて飼ったことがありますが、1週間もしないうちに死んでしまいました。
クマゼミが憧れの的で、何度も捕まえようとしましたが、すばしこくて捕まえることができませんでした。「鳥もち」を使う方が捕まえやすかったのでしょうが、透き通った翅に鳥もちが付くと汚れるので、捕虫網しか使いませんでした。
ところで成虫のセミの寿命が1週間と言われていることに疑問を持ち、多数の成虫を捕獲して、油性ペンでセミの翅に番号をマーキングして放し、再びマーキングを付けたセミを採集するという野外調査の方法で、寿命が平均1カ月程度であることを実証してみせた岡山県の高校生がいます。
この高校生は、笠岡高校サイエンス部3年の植松蒼さんで、2019年5月に広島大学で開かれた「中四国地区三学会合同大会」で報告し、高校生の部(動物分野)で最優秀賞を受賞しました。
彼は2016年7月中旬から9月中旬にかけて、笠松市内の住宅地や雑木林など4ケ所で、ほぼ毎日この調査を繰り返し、アブラゼミ、クマゼミ、ツクツクボウシなど計863匹にマーキング、15匹を再捕獲し、4匹を再再捕獲しました。
その結果は、アブラゼミ、クマゼミ、ツクツクボウシの3種で10日以上の生存を確認し、最長生存確認記録は、アブラゼミが32日間、クマゼミが15日間、ツクツクボウシが26日間だったそうです。
なお、植松蒼さんは現在、調査の精度を上げるために、セミの鳴き声の波形を専用ソフトで解析し、それぞれの個体を把握する方法の確立を目指しているそうです。
以前から「1ケ月くらい生きる」ということは言われていましたが、このように野外調査で実証したことは大変意義のあることだと思います。「常識を疑うことは科学の基本」ということを再認識する出来事でした。
蛇足ですが、高槻市の「あくあぴあ芥川」では、「あくあぴあ部活プロジェクト」として「ハグロトンボ」にマーキングして、生態や活動場所、活動範囲などを調べる「ハグロトンボしらべ隊」という調査活動が何年か前から行われています。
2.「セミの地中での生活は7年」という「常識」
昔は「セミが地中で幼虫として過ごす期間は約7年」と言われていました。
しかし現在では、種類によって異なり、ツクツクボウシは1~2年、ミンミンゼミが2~4年、アブラゼミ・ヒグラシ・エゾゼミは3~5年、クマゼミ・ニイニイゼミは4~5年と言われています。なお海外には、地中で17年間とか13年間も過ごし、周期的に大発生する「17年ゼミ」や「13年ゼミ」という「周期ゼミ」もいます。
セミは人工飼育が難しい昆虫ですが、最近は人工飼育技術の進歩により、種類ごとに正確な年数がわかってきたようです。
種類によって年数にばらつきがあるのは体長の大小に関係があるのかもしれませんが、小さなニイニイゼミが大きなクマゼミと同様に4~5年となっていますので、一概には言えないようです。
また同じ種類でも年数にばらつきがあるのは、セミの幼虫は木の根から樹液を吸って生活していますが、栄養の良い樹液がたっぷり吸える木の根に取り付いた幼虫は早く成虫になり、そうでない幼虫は長い年月がかかるということのようです。
「セミの一生」を考えると、地中での幼虫としての生活と、地上での成虫としての生活の合計ですが、地中でゆっくり幼虫生活を満喫したセミが幸せなのか、早く地中生活から脱して地上に出たセミが幸せなのか微妙なところです。
「人間の一生」に例えれば、「細く長く生きる」のか、「太く短く生きるのか」の違いのようにも見えます。あるいは、「長く独身生活を満喫した人」と「若くして結婚し、子育てや住宅ローンで苦労した人」に例えることもできます。
どちらがよいかは、それぞれの人生観(セミ生観?)というか判断ですが・・・
3.セミの羽化の時刻(私の個人的経験談)
私は子供の頃、母から「夏の早朝に、ミカンの木にいた白い翅のセミをつかまえてきて、家の簀戸に止まらせて『透明な翅の帷子蝉(カタビラゼミ)』になるのを見た」という話を聞きました。
それで私も「セミの羽化」を見たくて、早朝(6時前だったと思います)に近くの野見神社へ行って探したことがあります。しかし、地面に小さい穴がたくさん開いているだけで、セミの羽化している様子はありません。やはりもっと早い時刻でないとダメなのだと思ってあきらめ、そのままになっていました。
その後、大人になってから、夏の暑い夜(8時ごろ)、自宅の庭に出て何気なく山吹の茂みを見ていると、葉の先に何か茶色の小さな虫が止まっています。近づくと、セミの抜け殻のようでした。しかし、よく見るとそれがゆっくり動くのです。これはセミの幼虫が山吹の葉先で羽化を待っている所でした。
セミは「不完全変態」なので、「幼虫」から「蛹(サナギ)」を経ずに「成虫」になります。ですから、幼虫はよく見かける「セミの抜け殻」と見分けがつかないぐらい(背中が割れていないだけの違い)です。
興味が湧いて来たのでその数日後、市民グランドの南側の雑木林に夜8時ごろ行ってみると、ケヤキの木々にたくさんのクマゼミの幼虫が登り始めていました。また地上を見ると、今しがた地中から這い出してきたと思われる幼虫がたくさん蠢(うごめ)いていました。
その後、野見神社に回ると、桜の木の枝に羽化したばかりの白い翅のクマゼミがぶら下がってじっとしているのを見つけました。明け方まで翅が乾くのを待ってこのようにしているのだと知りました。
私も母から聞いた話で「セミの羽化は早朝」という先入観を持っていました。先日テレビの「サザエさん」でも、似たような話が出ていました。タラちゃんがセミが出て来るのを見たいといって何度も早起きするのですが、どうしても見つけられません。後日、三河屋の御用聞きの三郎君から「セミの羽化は午後7時~8時ごろ」だと聞かされて、納得します。
母が見つけた「白い翅のセミ」も前夜に羽化して、翅が乾くのをずっと待っていたのでしょう。やはり、常識や先入観は誤りも多いので、実際に自分の目で確かめることが大切だと改めて感じました。