カブトムシの魅力は、何と言ってもオスのあの立派な角でしょう。子供の頃、私が夢中になったのもまさに立派な角を持ったオスでした。そういうわけで、メスしか捕まえられなかった時はがっかりしたものです。
ところで、カブトムシのオスにはどうして角があるのでしょうか?また、メスには角が無い理由は何でしょうか?
今回はこれについてわかりやすくご紹介したいと思います。
なお、カブトムシについては「カブトムシにまつわる思い出話。累代飼育にも挑戦!」「カブトムシの有機農法。秘められた生態をわかりやすくご紹介します」という記事にも詳しく書いていますので、こちらもぜひご覧ください。
1.カブトムシのオスに角がある理由
(1)エサ(樹液)の奪い合いや縄張り争いに負けない為に必要
クヌギやコナラなどの樹液に、カブトムシが1匹だけのときは、ほかの虫が小さいために、けんかにはなりません。カブトムシは、樹液のよく出る一番いいところで、ゆっくりと舐めていればいいのです。
しかし、別のカブトムシや、クワガタムシ、スズメバチなどが出てくると、そうのんびりもしていられません。場所の取り合いで、けんかになってしまいます。このときに立派な角が役に立ちます。
カブトムシは、角を低くして、相手の体の下に入れます。そして、グイっと持ち上げて、相手をはね飛ばそうとするのです。相手は、脚をふんばり、爪を木にひっかけて、抵抗します。この力比べに負けたものは、その木から追い出され、樹液にはありつけないというわけです。
カブトムシのような昆虫の世界もなかなか厳しいものです。まさに「弱肉強食」ですね。
カブトムシのオスの角が長い長い歴史の間に「進化」した結果で、逆に「短い角のカブトムシが絶滅」していき、今の「大きい角があるカブトムシが生き残った」ともいえるようです。
(2)メスを獲得するためにほかのオスと戦って勝つために必要
このような立派な角を持った強いカブトムシはメスにも人気があります。強いオスがメスを獲得するための戦いに勝利し、より優れた子孫を残すことになります。
2.カブトムシのメスに角が無い理由
メスの一番大事な仕事は、卵を産むことです。強くて大きなオスと出会うことが何よりも重要で、けんかなどをしていては、いい卵が産めなくなってしまいます。
メスは角で餌の奪い合いをしている場合ではなく、強いカブトムシのオスと出会い、卵を産むために特化された結果、角が必要なかったのではないかといわれています。
3.「前蛹」(蛹になる前)の時期に遺伝子の影響でオスに角が生えることが研究で判明
カブトムシは完全変態といって「卵→幼虫→蛹(さなぎ)→成虫」のように成長する昆虫です。一方、バッタなどは不完全変態といい「卵→幼虫→成虫」と成長し、カブトムシなどとは違って蛹の時期がありません。
カブトムシは、この幼虫から蛹のあいだ(前蛹期)に遺伝子の影響でオスには角が生え、メスには生えないようになると最近の研究結果でわかりました。
2019年に、基礎生物学研究所(愛知県岡崎市)などの研究グループが「カブトムシの角にオスとメスの違いが現れる時期を明らかにした」と発表しました。
この時期にメスだけが持つ遺伝子を働かなくなるようにしたらメスにも立派な角が生えたということです。研究論文は米科学誌プロスジェネティクス電子版に掲載されました。
オスの立派な角は広く知られていますが、その角を作るための遺伝子が働き始める詳しい時期は不明でした。これは、カブトムシが土中で幼虫から蛹を経て成虫になるため、角の元になる組織の変化を土中で詳しく観察することが難しいことが大きな要因でした。
カブトムシの幼虫が蛹になる前には「前蛹(ぜんよう)」と呼ばれる時期があり、角の性差が現れるのはこの時期と推測されていました。しかし、カブトムシのこうした成長過程は土の中で進むために詳しいことは分かっていませんでした。
研究グループは、土を使わずにプラスチックの透明な試験管内で幼虫を観察する方法を考案。この試験管内に幼虫を多数入れて詳しく調べました。
その結果、幼虫が前蛹になる時に首を振る特徴的な行動をすることが分かり、この行動を指標に前蛹が始まる時期を特定することが可能になりました。そしてカブトムシの前蛹期間はメスでは 129±4.3時間、オスは 131±4.7時間で、角の性差をもたらす遺伝子が働く時期と、角の性差をもたらす遺伝子が働くタイミングは前蛹開始の約29時間後であることが判明しました。
研究グループはまた、カブトムシの性を決める遺伝子(トランスフォーマー遺伝子)も特定し、メスの幼虫でトランスフォーマー遺伝子が働かないようにすると、メス化が阻害されてオスと同様に立派な角が形成されました。