皆さんは「トマトはなぜ赤いのか?」と考えたことはありませんか?
この問題に限らず、小学生の頃は誰しも「なぜだろう」と疑問を持つことが多かったと思います。
しかし中学・高校と進み大人になるにつれて、勉強や仕事が忙しくなって、そのようなことを忘れてしまいます。
そこで今回は、トマトが赤い理由についてわかりやすくご紹介したいと思います。
1.トマトが赤い理由
答えは、赤色の色素「リコピン」(リコペン)を含むからです。
実はトマトには、黄色、オレンジ、ピンク、赤などの果実があり、必ずしも赤くなるわけではありません。
トマトは、種の分類上はナス目ナス科ナス属トマト種の植物で、ナスやピーマンの仲間です。
南アメリカ大陸のアンデス山脈で生まれたトマトは、大航海時代にヨーロッパへ、江戸時代初期には日本へも伝わり、現代では世界中で食べられています。品種の数は、日本で登録されているだけでも770種(2022年6月現在)、世界では1万種以上もあるそうです。
それだけたくさんの品種があれば、大きさや形、味はさまざまです。トマトといえば、真っ先に赤色が浮かびますが、実際は紫色に赤色、オレンジ色、黄色、緑色と、色とりどりのトマトが育てられています。
日本で一般的なトマトの色はピンク(冒頭の写真)ですが、ミニトマトの果実は鮮やかな赤色(下の写真)です。
両者の違いは「果皮色の違い」で、ピンクのトマトは表面の薄い果皮が無色なのに対し、赤色トマトでは黄色なのです。
ただし、ミニトマトには黄色やオレンジ色の品種(下の写真)もあります。
トマトの果実の色素には、緑色の「葉緑素(クロロフィル)」の他、赤色の「リコピン」やオレンジ色の「β-カロテン」、紫色の「アントシアニン」など色素がありますが、果皮と果肉のこれらの色素構成により果実の色が決まります。
つまり、「果実の色」は、「果肉の色」と「果皮の色」の組み合わせによって決まるのです。
一般にトマトの果実は開花後70~90日程度で着色しますが、実際には開花後日数が問題ではなく、毎日の平均気温を加算していった「有効積算気温」が重要です。
つまり夏は早く、冬は遅く着色します。大玉タイプの品種では「有効積算気温」が1200℃程度で着色するものが多いようです。この時期までに果実中の葉緑素(クロロフィル)が減少し、かわりに赤色のリコピンなどの色素が増加してくるのです。
最近は変わりもののトマトが増えました。色や形が実に変化に富んでおり、カラフルなトマトも多く、中にはゼブラ模様のトマトまであります。
2.果実が赤いトマトのトマトにとってのメリット
赤い色は波長が長く、遠くからでもよく目立ちます。
赤く着色することにより、トマトを食べる鳥類に、見つけてもらいやすく、トマトの種を遠い場所まで運んでもらえる機会が増えます。そのため、種子が成熟する時期に着色するものと考えられています。
つまり、果実が赤いと自然界の中で効率よく繁殖することができるというわけです。
トマトをはじめ動植物は、自然界の中で生き延びて、子孫を繁栄させるのが最も重要なことです。
トマトの果実の色が赤くなることが、このミッション達成に役立っているのがわかります。
このように、赤い色が遠くからでもよく目立つことは、私たちの普段の生活の中でも使用されています。
信号がわかりやすい例で、最も重要な「止まれ」を赤色にしているのは、遠くからでもよく目立つ色だからとされています。
3.果実が赤いトマトの人間にとってのメリット
果実が赤いトマトは、赤色の色素「リコピン」を含むからですが、リコピンは、トマトを野菜として食べている私たち人間にも、栄養素の面で重要な働きをしています。
リコピンは、動物や植物に含まれる赤・黄・オレンジ色の色素「カロテノイド」の1つです。β-カロテンもカロテノイドの仲間ですが、リコピンは特に「抗酸化力」(抗酸化作用)が強いといわれています。
「抗酸化力」とは、細胞にダメージを与える物質「活性酸素」を取り除く力です。ビタミンやポリフェノールなどが抗酸化力の高い物質(抗酸化物質)として知られていて、最近の研究では、花粉症や気管支喘息の症状を軽くする可能性があることも分かっています。トマトのほか、スイカやアンズ、マンゴーなどもリコピンを含みます。
人の体内には一定の割合で酸化力の強い「活性酸素」(*)が発生しています。この活性酸素が、体内の細胞を酸化させてしまうのです。
(*)活性酸素は、「普通の酸素に比べて酸化する力が強くなったもの」で、我々が呼吸で取り入れた酸素の一部から作られます。免疫機能を高めたり、細胞伝達、排卵・受精などの生理活性物質として作用したりしています。その一方で、過剰に産生されるとその酸化ストレスによって人体にさまざまな悪影響を及ぼすとされています。過剰に産生された活性酸素は皮膚細胞を傷付けることがあり、シミ、しわ、たるみなどが生じ、肌や美容にも大きな悪影響を与えることがあります。
細胞を酸化させるというのは、細胞を錆びさせてしまうともイメージできます。細胞が錆びると、働きが悪くなり、生活習慣病等の発生につながってしまいます。
リコピンの抗酸化作用は、この細胞が錆びる働きを抑え、動脈硬化などの生活習慣病予防やアンチエイジングの効果が期待できます。
ところで、赤色のトマトも、花が咲き終わって果実をつけたばかりの頃は緑色です。これは、果実が葉と同じように葉緑体を持ち、その中に葉緑素を含むからです。果実が成熟するにつれて葉緑素が分解されて、その代わりにリコピンがたくさん合成されるため、だんだん緑色が薄くなって赤色が強くなっていくのです。
トマトが旬をむかえる7~8月は、紫外線が強く、暑さで食欲をなくしがちな時期です。リコピンは、紫外線を浴びることで増えた活性酸素を減らしてくれますし、赤色は食欲をアップさせる色といわれます。夏に疲れを感じたときや食欲がないときは、赤色のトマトを食べて元気になりたいものですね。