前に「日本の過大なノルマ」や「ノルマ主義是正の動き」についてに記事を書きましたが、それでは「ノルマ主義」を廃止したり脱却した企業の経営はどうあるべきなのでしょうか?
今回はこれについて考えてみたいと思います。
1.数字を作るより顧客(ファン)を作る
ノルマ主義に陥ると、どうしても無理な営業姿勢が起きてしまいます。会社の営業方針に沿って商品を売り込みます。
かつて野村証券の「推奨銘柄」というのがありました。営業マンは会社が掲げた推奨銘柄を顧客にがむしゃらに売り込むことになります。その結果、多くの顧客がその推奨銘柄を買うため、株価は上昇します。
しかし、これは一歩間違えば相場誘導・相場操縦のようなことになります。
よく「あなたにだけ急騰銘柄を教えます」という運用コンサルタント(?)の広告を今でも見かけますが、これなども短期間に特定の銘柄を多数の顧客に買わせて株価を吊り上げ、その裏で自分は売り抜けるという詐欺的手法です。その結果、株価は急落して多くの顧客が損失を被ることになります。
これとは反対のケースが、私が会社の先輩から聞いた話です。バブル華やかなりし頃にゴルフ会員権を買おうとした先輩が、懇意にしている会員権業者から「今はゴルフ会員権を買わない方がよいので、知り合いの人には売らない」と断られたという話です。この話は「バブル時代」の記事に詳しく書きました。
銀行がバブル時代に地主に「ワンルームマンション建設資金融資」を盛んに行っていた頃、「貸さない親切もある」と言って、顧客に過大な融資を断った銀行もあったようです。これは何も「ワンルームマンション建設資金融資」に限らず、手張り過ぎの事業の借入について共通して言えることだと思います。
顧客との信頼関係を築けば、その顧客はファンになります。当面の数字は作れなくても、末永くその会社のファンとなるはずです。
2.上意下達関係から信頼関係へ
会社の中の上司と部下の関係についても、上下関係は厳然と存在しますが、そこに信頼関係が存在しなければ、真に心の通い合った人間関係は構築できません。
前に「1on 1」の記事を書きましたが、そういったコミュニケーションを取らない上司は、部下の信頼を得ているとは言えません。
3.管理から部下の成長の動機付けへ
ノルマを廃止した企業においては、「営業目標数値管理」というのはなくなるはずです。したがって、今後上司は部下の成長の動機付けに力点をシフトする必要があると思います。これには上記の「1on1」というコミュニケーションも非常に有効です。
ただ現実には、従業員の自主性を尊重しつつ各自が個人目標を達成することで、組織全体の目標達成や従業員の勤労意欲向上を図るやり方である「MBO(management by objyectives)」(目標管理)を取り入れることになると思われます。
そうすれば部下は、上からの押し付けでなく、自発的に自社の商品の特長やセールスポイントを勉強し、それぞれの顧客に最適の商品を販売するようになるのではないでしょうか?
ノルマを廃止した場合、人事評価をどうするかという課題は残りますが、ノルマ廃止で企業経営を成功させるためには、公平で納得性のある新システム構築が不可欠だと思います。
4.トヨタの営業マンの「ちょっといい話」
私が知人から聞いたトヨタの営業マンの話をご紹介します。
知人の勤めている会社は、マツダと関係が深いので、マイカーはマツダに決めていたのですが、ある時トヨタの営業マンから「カムリ」を勧められたそうです。
その営業マンは、対話している中で、知人が勤務している会社の関係上、トヨタの車を購入することは難しいことに理解を示します。それでも、「一度試乗だけで結構ですので『カムリ』の良さを実感していただきたい」と試乗を勧めます。
その熱意にほだされて、知人はカムリに試乗してその良さを体感できたと言います。押し付けがましくない営業マンの態度とトヨタの車の良さを知って気分が良かったそうです。
そして最後に、「いつかトヨタの車を買っていただける日が来たら、ぜひご検討ください」と話したそうです。しつこいセールスは一切なかったので、清々しい気分だったそうです。
営業マンはこうあるべきだと私も思う「ちょっといい話」でした。