桐と言えば、かつては婚礼家具の定番だった「桐箪笥」や「桐下駄」、「桐の箱」あるいは桐材を使った「琴」などがすぐに思い浮かびますが、桐の木や桐の花、桐の実を見たことのある人は少ないのではないかと思います。
私もめったに見かけない木ですが、たまたま高槻市内をゆっくり散歩するようになって、「あくあぴあ芥川」の近くに4~5本の桐の木があるのを見つけました。ちょうど花盛りの時期で、淡い紫色の花が鈴なりに咲いており、遠くからでも大変目立ちました。
1.桐の木・桐の花・桐の実
桐は「シソ目キリ科」の落葉高木です。高さは10m~15mになります。樹皮は灰白色で、葉は大型の広卵形で長い柄を持ち対生です。
4月中旬から5月にかけて、薄紫色の鐘状の花が円錐状に集まって咲きます。
実は熟すと殻が裂け、翼を持ったたくさんの種子が飛び散りす。
材は白く、軽くて割れや狂いが少なく、研磨すれば光沢が出るので、箪笥・下駄・琴などに利用されています。
2.桐にまつわることわざ・俳句
(1)ことわざ
「桐一葉(きりひとは)落ちて天下の秋を知る」があります。「一葉(いちよう)落ちて天下の秋を知る」とも言います。これは「淮南子(えなんじ)」説山訓にある言葉が由来です。
(他の木より早く落葉するあおぎりの葉の一枚が落ちるのを見て、秋が来たのを知る意から)わずかな現象を見て、その大勢を予知することのたとえです。
(2)俳句
①「桐の花」(夏の季語)
・大空やみなうつむいて桐の花(原 石鼎)
・虚無僧に犬吠えかかる桐の花(夏目漱石)
・花桐や二条わたりの夕月夜(内藤鳴雪)
・桐咲けり天守に靴の音あゆむ(山口誓子)
・花桐にカステラ甘き露台かな(久米正雄)
・町古りぬただ華やかに桐の花(佐藤春夫)
②「桐の実(實)」(秋の季語)
・桐の實や干鯵をまた乾かさむ(石田波郷)
・から~に桐の実かれし小窓哉(寺田寅彦)
・桐の実のおのれ淋しく鳴る音かな(富安風生)
・桐の実の鳴らんと仰ぐ鳴りにけり(石田波郷)
③「桐一葉」(秋の季語)
秋の初め、風も吹かないのに大きな桐の葉がふわりと落ちることがあります。これを「桐一葉」または単に「一葉」と言います。
・我宿の淋しさおもへ桐一葉(松尾芭蕉)
・桐一葉日當りながら落ちにけり(高浜虚子)
・西向の解剖室や桐一葉(寺田寅彦)
・胃洗うて病院桐の秋濶(ひろ)し(飯田蛇笏)
・夏痩の骨にひゞくや桐一葉(正岡子規)
・線香を干した所へ桐一葉(芥川龍之介)
3.家紋・勲章・花札・異名
(1)家紋
桐の家紋は、「桐紋(きりもん)」または「桐花紋(とうかもん)」と呼ばれます。
3本の直立する花序と3枚の葉から構成されるのが基本的図案です。花序につく花の数が3-5-3の「五三桐(ごさんのきり、ごさんぎり)」が一般的ですが、5-7-5の「五七桐(ごしちのきり、ごしちぎり)もあります。
室町幕府のほか皇室や豊臣政権など様々な政権が用いており、現在は日本国政府の紋章として用いられています。
(2)勲章
桐の勲章は、「桐花章」(桐花大綬章)です。1888年に「旭日章(きょくじつしょう)」の最上位として追加制定されたのが初めで、名称は「勲一等旭日桐花大綬章」でした。2002年からは「旭日大綬章及び瑞宝大綬章を授与されるべき者のうち、功績または長年にわたる功労が特に優れた者に授与される勲章」として、旭日章より上位ながら別個の勲章となりました。
(3)花札
花札で12月に当たる札が「桐に鳳凰」です。
桐の花は現在の暦で4月~5月に咲く(旧暦で夏の季語)のに、12月の札になったのは、「ピンキリ(ピンからキリ)」の「キリ」の洒落だからです。
(4)異名
①「琴」の異名:胴に桐材を用いるため、このように呼ばれます。
②「大判」「小判」また「金銭」の異名:大判・小判には桐紋の極印(ごくいん)を打ってあるので、こう呼ばれます。