「老いらくの恋」の歌は万葉集にもあった!?

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万葉集・老いらくの恋

前に「川田順の老いらくの恋」や「斎藤茂吉の老いらくの恋」「良寛の老いらくの恋」「一休の老いらくの恋」の記事を書きましたが、万葉集にも「老いらくの恋」の歌があったのをご存知でしょうか?

1.万葉集にある「老いらくの恋」の歌

(1)大伴坂上郎女(さかのうへのいらつめ)の歌

黒髪に 白髪交じり 老ゆるまで かかる恋には いまだ逢はなくに

これは「黒髪に白髪が交じる老年の今日まで、これほどの恋にはいまだ出逢ったことがありません」と、老年の身になって出逢った恋への戸惑いと喜びが素敵に表現された一首です。

万葉集の時代は女性などは三十歳を過ぎればもう恋愛の適齢期を過ぎていると思われていたようで、それゆえに恋心を胸に秘めて思い悩む女性も多かったのではないでしょうか。

<大塚ひかりの超訳>

黒髪に白髪が交じって老いるまで、こんな激しい恋はしたことがない

(2)大宰府大監大伴宿禰百代(だざいのだいげんおほともすくねももよ)の歌

事もなく 生き来しものを 老いなみに かかる恋にも 我れは逢へるかも

「今まで平穏無事に生きてきたのに、年よりだてらに、私はこんな苦しい恋を経験するはめになってしまったよ。」という意味です。

誰のことを念頭に置いて詠まれた歌なのかははっきりしませんが、老境の身で出会った恋の戸惑いと喜びが素敵に表現された一首です。

<大塚ひかりの超訳>

平穏無事に生きてきたのに、年老いて、こんな恋に巡り逢うとは

(3)沙弥満誓(さみまんぜい)の歌

ぬばたまの 黒髪変はり 白(しら)けても 痛き恋には あふ時ありけり

「髪がすっかり白くなる年になっても、まだつらい恋に会うということがあると思い知りました」という意味です。

<大塚ひかりの超訳>

黒髪が白髪に変わっても、つらい恋に出逢う時はあったのですね

(4)石川女郎(いしかわのいらつめ)の歌

古(ふ)りにし 媼(おみな)にしてや かくばかり 恋に沈まむ 手童(たわらは)のごと

「もう分別のつく老女だと思っていたのにこんなにも恋に沈んでいます。まるで幼女のように」という意味です。

この歌は大津皇子の侍女の石川女郎が大伴宿禰宿奈麿(おおとものすくねすくなまろ)に贈った恋歌です。

<大塚ひかりの超訳>

年取った婆さんなのに、こんなにも恋に沈むものなのか、幼子のように

(5)磐姫皇后(いはのひめのおほきさき)の歌

ありつつも 君をば待たむ 打ち靡く わが黒髪に 霜の置くまでに

「ここに居続けてあなたを待っていよう。長く靡くこの黒髪に霜が置くようになるまででも」という意味です。

結局迎えにも行けず死ぬことも出来ず、年老いて白髪になるまでここであなたを待っているしか出来ない、というちょっと大袈裟で怨み節にも似た感じもしますが、これもそれだけ夫である仁徳天皇への愛情が深い証拠なのでしょう。

そして実際に磐姫皇后は難波の宮に帰ることなく仁徳天皇を恋焦がれながら亡くなります。

(6)詠み人知らず

①みどり子(こ)の ためこそ乳母(おも)は 求むといへ 乳(ち)飲めや君が 乳母求むらむ

「赤子のためにこそ乳母(うば)を求めるものと言いますが、自分が乳を飲むために、あなたは乳母をお求めになっておられるのでしょうか」という意味です。

<大塚ひかりの超訳>

乳母は赤ちゃんのために雇うものでしょ?あなたはおっぱい飲みたいの?乳母みたいな年の私を求めるなんて

②悔しくも 老いにけるかも わが背子(せこ)が 求むる乳母(おも)に 行かましものを

「悔しいけれど老いてしまいましたわ。若ければ、あなたが求める乳母になっておっぱいをあげに行きたいのですが」という意味です。

<大塚ひかりの超訳>

ほんと残念。年取っちゃって。もっと若ければ、あなたが求める乳母になって、あなたの元に行ったのに

2.万葉集の相聞歌をモチーフにした小椋佳の歌

小椋佳

小椋佳が作詞・作曲した「老いらくの恋相聞歌万葉集8首を詠う」(2013年発表)という歌があります。「闌<TAKENAWA>」というアルバムに収録されている異色の歌です。

黒髪に白髪交じり 老ゆるまで
かかる恋には いまだ逢はなくに
ありつつも君をば待たむ うち靡(なび)く
我が黒髪に 霜の置くまでに

小半(こなから)の 酒に温もり おおらかな
万葉人の 心映え 胸に宿して
この一夜 歳を忘れて 恋を歌おう

久方の月夜を清み 梅の花
心開けて 我が思へる君
久方の雨も降らぬか 雨障(つつ)み
君にたぐひて この日暮らさむ

散る桜 残る桜も 散る桜
古人(いにしえびと)の 達観は まだ先の事
この一夜 年甲斐もなく 恋に耽(ふけ)ろう

鳰鳥(にほどり)の潜(かづ)く池水 心あらば
君に我が恋ふる 心示さね
外(よそ)に居て恋ひつつあらずば 君が家の
池に住むといふ 鴨にあらましを

恋ゆえか 若やぎ見せて その笑顔
よしや運命 ありとせば ただ感謝の句
この一夜 歳も悦び 恋を綴ろう

事もなく生き来しものを 老いなみに
かかる恋にも 我れは逢へるかも
ぬばたまの黒髪変わり 白けても
痛き恋には 逢う時ありけり
事もなく生き来しものを 老いなみに
かかる恋にも 我れは逢へるかも



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