鬼滅の刃・胡蝶しのぶのモデル!「渡り蝶」アサギマダラの不思議な世界。

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アサギマダラ

皆さんは「アサギマダラ」(上の画像)という蝶をご存知でしょうか?

あまり見かけない蝶ですが、一見すると特に変わった蝶とも思えません。しかし実はこの体重0.5グラムにも満たないアサギマダラは、「渡り鳥」ならぬ海を越えて飛ぶ「渡り蝶」という非常に珍しい蝶なのです。

このアサギマダラは、「鬼滅の刃」のキャラクターの一人である美女剣士「胡蝶しのぶ」の蝶のモデルでもあります。

胡蝶しのぶ

以前は鬼を殺すためには特別な刀(日輪刀)で首を切るのが主流でした。しかし「胡蝶しのぶ」は華奢な身体で首を切り落とすほどの筋力はありません。劣等感を抱きつつも、薬学の知識を使い藤の花から毒を抽出した鬼を殺す毒を開発します。そして「華麗に舞い、毒で鬼滅」するのです。その今までにない毒の効果もあり彼女は柱へと昇進します。

他にも胡蝶の私邸である蝶屋敷で医学の知識も使い、負傷した鬼殺隊員を治療しています。そこではリハビリも行っており、より強くなることができる治療所です。鬼を殺すだけでなく隊員を救っている素敵な柱です。

11月20日付の朝日新聞DIGITALに次のような記事が出ました。

台湾で捕獲されたアサギマダラ

富山のチョウが台湾に飛来 「私も日本へ旅したい」、訪日望む台湾人

海を渡るチョウとして知られるアサギマダラが、富山県で放された約1カ月半後に、2千キロ以上離れた台湾の離島・澎湖諸島で捕獲された。羽にペンで記された標識番号で判明し、今月中旬に台湾メディアが相次いで報じた。コロナ禍で訪日が制限された台湾の人たちからは、「私もチョウのように日本へ行きたい」との声が上がっている。

このチョウの標識番号を管理する富山県自然博物園ねいの里によると、生態を調べるために9月25日に同県朝日町で放され、46日後の今月10日、南西に約2280キロ離れた澎湖諸島で捕獲された。台湾の捕獲者がネット上に標識番号を投稿したのを同園の登録調査員が確認したという。  アサギマダラは日本のほぼ全土に分布する。薄い藍色の羽を広げると10センチ前後で、寿命は1年とされる。春から夏に北へ移動し、夏から秋に南へ渡る。飛来先で産卵して次世代が再び別の地へ移動。生態調査を行うグループが日本各地にあり、過去には和歌山県で放された後、約2500キロ離れた香港で見つかったこともあるという。

1.アサギマダラとは

アサギマダラ(浅葱斑)は、チョウ目タテハチョウ科マダラチョウ亜科に分類される蝶の一種です。翅の模様が鮮やかな大型(成虫の前翅長は約5~6 cm)の蝶で、長距離を移動します。

翅の内側が白っぽく、黒い翅脈が走っています。この白っぽい部分は鱗粉が少なく、厳密には半透明の水色で、名前にある「浅葱」(青緑色の古称)は、この部分の色に由来します。

オスとメスの外見上の違いはあまりなく、外見で区別するのは困難です。

ほぼ日本全国に分布しており、 成虫は、春から夏にかけて南から北へ移動し、移動先で世代を重ねた後、秋になると南へ移動します。

東京都の高尾山では春~秋に見られ、5月、10月頃に最もよく見られます。

渡りをすることが判明したのは1980年頃のことで、より詳しい渡りの解明のため、現在もマーキング調査や追跡調査などがおこなわれています。

アサギマダラ・マーキング個体

2.アサギマダラの渡りの謎

アサギマダラが渡りをするということは分かっていますが、

  • なんのために長距離移動するのか?
  • どうやって海を越えるのか?
  • 海を渡るだけの体力をどこに蓄えているのか?
  • 見知らぬ土地の方角がどうして分かるのか?

といった、アサギマダラが渡りをする理由や渡りをすることができる能力についてまでは、まだはっきりと分かっていません。 様々な推測がありますが、解明されていない謎が、アサギマダラにはたくさんあります。

前に「ツバメやイヌの帰巣本能って本当にあるの?そのメカニズムとは?」という記事を書きましたが、アサギマダラも、「体内時計」や「太陽コンパス」「磁気コンパス」のような機能を持っているのかもしれません。

3.アサギマダラの生態

蝶は一生を、卵→幼虫→蛹(さなぎ)→成虫の順で成長します。 卵から孵化した幼虫は、五令幼虫まで成長した後、蛹になります。蛹になってから20日ほどで羽化し、成虫になります。

アサギマダラの寿命は羽化後4〜5カ月で、与えられたその生涯時間内で2,000kmを移動するのですが、彼らがどこで死んだかは特定しにくいようです。

それにしてもアサギマダラの一生はただただ飛び続ける運命なのでしょうか?海を渡った先に着地するのが目的というのではなく、想像を絶する距離を飛行しますが、その行為自体が目的なのかもしれません。

あるいはマグロが「泳ぎ続けなければ呼吸ができない」(*)ような、別の切実な理由があるのでしょうか?

(*)マグロは24時間泳ぎ続けています。 なぜなら泳ぐことで大量の酸素を取り入れられる仕組みの呼吸をしているから、止まると窒息して死んでしまうのです。

アサギマダラは温度にも超敏感で、高原で気温が19度以下になると、もはや飛ぶことが困難になるそうです。ということは、「常に適温を求めて移動することが生きていくのに必須」というわけで、アサギマダラは生きるための次の知恵を持っているそうです。
・空間移動の知恵・・・旅をして地球の空間を上手に活用している。
・時間選択の知恵・・・時期を的確に選んで渡っていく。
・物質利用の知恵・・・PA(ピロリジジンアルカロイド)物質など吸蜜植物を巧みに選んで生命と繁殖を維持している。
ということはやはり、「一生涯飛び続けるのがアサギマダラの宿命」といえるのでしょうか?

4.アサギマダラの食草

アサギマダラの幼虫

アサギマダラは幼虫(上の画像)時代に毒のある植物を食べることで毒化し、天敵から身を守っています。鮮やかな色は、天敵へ毒があることを知らせるためのものだと考えられています。

アサギマダラの幼虫は、ガガイモ科の仲間(キジョラン、オオカモメヅル、イケマなど)を食べて育ちます。 高尾山ではキジョランに幼虫の姿を見ることが多く、食痕のついた葉をよく探すと幼虫を発見できることがあります。

幼虫の食草となるガガイモ科植物はどれも毒性の強い「アルカロイド」を含んでいます。アサギマダラはこれらのアルカロイドを取りこむことで毒化し、敵から身を守っているのです。

アサギマダラの蛹

アサギマダラは幼虫・蛹(上の画像)・成虫とどれも鮮やかな体色をしていますが、これは毒を持っていることを敵に知らせる「警戒色」と考えられています。また、成虫のオスがよく集まるヒヨドリバナやフジバカマ、スナビキソウなどには、「ピロリジジンアルカロイド(PA)」が含まれ、オスは性フェロモン分泌のためにピロリジジンアルカロイドの摂取が必要と考えられています。

余談ですが、インド北部から東南アジア、インドネシアにかけて分布するアゲハチョウ科のカバシタアゲハ  (下の画像)は、翅の模様がアサギマダラによく似ています。これは毒を持つアサギマダラに擬態(ベイツ型擬態)することで、敵に食べられないよう身を守っているものと考えられています。

カバシタアゲハ

5.渡りの謎を解明する「マーキング調査」と「追跡調査」

「マーキング調査」とは、調査したい対象に印をつけ、その対象を追跡することで、行動の様子などを探る調査のことです。

アサギマダラのマーキング調査では、アサギマダラの翅(はね)に油性ペンで、調査地名、調査日、調査者名などの識別情報を記載します。 後日、印のついたアサギマダラを再調査することで、彼らの行動の過程を推測することができます。

アサギマダラは長距離を飛翔する蝶なので、マーキング調査と追跡調査を一人で行うことは難しく、誰かがマーキングした個体を他の誰かが見つけ、 マーキングした地域へ情報を提供したり、アサギマダラの調査団体などに情報を寄せることによって、調査結果が判明することが主なようです。

高尾山でも時折マーキングされたアサギマダラを見かけることがあり、福島県や愛知県でマーキングされたと思われる個体が見られたこともあったそうです。直線距離で200km以上飛んできたことになります。アサギマダラの移動性と飛翔力の強さが分かりますね。

アサギマダラの成虫は長年のマーキング調査で、秋に日本本土から南西諸島・台湾への渡り個体が多く発見され、または少数ですが初夏から夏にその逆のコースで北上している個体が発見されています。日本本土の太平洋沿岸の暖地や中四国・九州では幼虫越冬しますので、春から初夏に本州で観察される個体の多くは本土で羽化した個体と推測されています。

移動の研究は、捕獲した成虫の翅の半透明部分に捕獲場所・年月日・連絡先などをマジックインキで記入(マーキング)、放蝶するという方法で個体識別を行われています。このマーキングされた個体が再び捕獲された場所・日時によって、何日で何 km移動したか、あるいは同所で捕獲した場合何日そこに居たかが分かります。

調査のための『アサギマダラの移動調査ネット (biglobe.ne.jp)』というインターネットによる電子ネットワークがあり、その日のうちに移動情報が確認できることもあります。 調査のための捕獲手段として、白いタオルの一方をつかんでぐるぐる回すとアサギマダラが寄ってくることが知られています。利き手で網を持ち逆の手でタオルを回すと捕獲しやすいそうです。

研究者達によって、夏に日本本土で発生したアサギマダラのうち、多くの個体が秋になると南西諸島や台湾まで南下することが判明したものの、集団越冬の場所や、大量に死んでいる場所も見つかっていません。南西諸島で繁殖、もしくは本土温暖地で幼虫越冬した個体は春の羽化後にその多くが、次の本土冷涼地での繁殖のために北上する傾向にあることが明かになりました。

この秋の南下の中には直線距離で1,500 km以上移動した個体や、1日あたり200 km以上の速さで移動した個体もあります。

6.アサギマダラ研究の第一人者の栗田昌裕氏

アサギマダラの旅の実態を調べるために、アサギマダラを捕獲して、その翅に「どこで、何月何日に、誰が、何番目に捕獲した個体か」を書いて放し、遠隔地で同じ個体を再び捕獲をする「マーキング調査」を行なっている人たちがいます。

栗田昌裕氏(1951年~ )も、こうしたアサギマダラに魅せられた人の一人です。栗田氏は、『謎の蝶 アサギマダラはなぜ海を渡るのか』の中で、次のように述べています。

 私はアサギマダラは大変に賢い生き物だと思っています。
それは空間移動、時間選択、物質利用という3通りの智恵を持っていると思うからです。
「空間移動の智恵」とは、旅をして地球の空間を上手に活用することです。
「時間選択の智恵」とは、時期を的確に選んで渡っていくことです。
「物質利用の智恵」とは、有毒な食草やPA物質を含む吸蜜植物を巧みに選んで、生命と繁殖を維持することです。
アサギマダラの例を通してこのようなことがわかると、実はこれまで無視してきたり、たいしたものではないと思っていた、他のあらゆる生き物も「大変賢く生きている」ことが見えてきます。
そういう認識から、私たち人間もまた、空間的、時間的、物質的により賢く生きる術(すべ)を大いに学び、未来向きの智恵につなげたいものです。

ところで、栗田氏は東大理学部数学科と東大医学部卒(医学博士・薬学博士)で、東大病院内科医師を長年務めたそうです。専門の昆虫学者ではなく、いわゆる在野の研究者です。ご本人は、「普通のおじさん」とおっしゃっていますが、実はただ者ではありません。

まず驚くのは、栗田氏のアサギマダラ捕獲頭数です。2005年以後は、毎夏1万頭余を標識することを目指したそうです。

余談ですが、栗田氏は「栗田式SRS速読法」の開発者としても有名です。

上記の本の結びの部分で次のようにも述べています。

大事なことは、物質の世界が物理学のさまざまな法則で成立しているように、心の世界にも法則があるのではないかということです。
私がアサギマダラをマーキングしながら10年近く行ってきたのは「心を探る旅」でした。それは、人間にもアサギマダラにも通用するような、生命すべてにとっての「心の世界の法則を探る旅」だったのです。
そこには大きな謎と不思議があります。
「移動生物の謎はそこまで行って初めて解けるものではないか」というのが本書における私の結論です。
そう思う理由は、アサギマダラはいつも私の「あり得ないような予想」に対して、きっちりと、それが「あり得る」という答えを示し続けてくれたからです。
これはアサギマダラが「確率に従う世界の中にいながら、いつも確率を超えようとして生きている存在である」ことを示唆していると感じられたのです。
最後に私が提起したいのは、「確率に従いながら確率を超えようとする性質」が、実は地球上のすべての生き物に共通な特徴なのではないかという問いかけです。

私たちは確率に従う世界にいるのは言うまでもありません。アサギマダラも同様です。

しかし「アサギマダラは確率に従う世界の中にいながら、いつも確率を超えようとして生きている存在である」と栗田氏はとらえています。

しかし、実際のアサギマダラは、とてもチャーミングな愛らしい生き物です。栗田氏によれば、アサギマダラの飛翔には、次のような特徴があるということです。

●平素は優雅に緩慢飛翔
●渡りの直後は活発飛翔
●驚かせると瞬間跳躍
●危険な時は八艘(はっそう)飛び
●タオルを回すとV字滑空
●風に乗ると急速上昇
●海上移動は上昇&滑空
●風を遡る頑張り飛翔
●縄張り確保は旋回飛翔

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