森鴎外の黒歴史。「脚気の原因は細菌」と主張し、陸軍に脚気惨害もたらした!

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脚気

「脚気」は、いまでは「ビタミンB1欠乏症」だということは誰でも知っていると思います。

しかし明治時代までは「細菌による伝染病」という考え方もありました。「近代細菌学の開祖」とされるドイツの医師・細菌学者ロベルト・コッホ(1843年~1910年)も、「脚気はアジア特有の風土病の伝染病で、そのうちに細菌が発見されるだろう」と述べていた時期があったそうです。

1.森鴎外と高木兼寛との「脚気論争」

森鴎外高木兼寛

脚気の原因をめぐっては、後に陸軍軍医総監になった森鴎外(1862年~1922年)と、後に海軍軍医総監になった高木兼寛(たかきかねひろ)(1849年~1920年)との間で有名な「脚気論争」がありました。

ドイツに留学して医学を学んだ理論派の森鴎外は、軍で頻発していた「脚気の原因は細菌」と主張し、イギリスに留学して臨床第一の英国医学を学んだ高木兼寛は、実践的な疫学を根拠としてこれに反対したのです。

(1)高木兼寛は「兵食改革」の実践で海軍の脚気撲滅に成功

高木兼寛は海軍で、船で航行中に兵士たちが脚気に悩まされたので、ハワイで食料を白米から麦飯に変えたところ、脚気患者が全員元気になったのです。

高木はついでに肉と野菜がバランスよく取れる「カレーライス」を「脚気予防策」として海軍の給食に取り入れました。これが「海軍カレー」の起こりです。

高木の兵食改革(洋食+麦飯)の結果海軍では1883年から1885年にかけて、脚気新患者数・発生率・死亡数が激減しました。

彼は1884年に軍艦「筑波」による航海実験も行って、この「兵食改革の必要性」を説きました。この航海実験は「日本の疫学研究のはしり」で、そのため彼は「日本の疫学の父」と呼ばれます。

当時ビタミンは発見されていませんでしたが、脚気の撲滅に尽力したことから彼は「ビタミンの父」とも呼ばれます。

ちなみに物質としてのビタミンは、1910年に鈴木梅太郎(1874年~1943年)が初めて抽出・発見しました。

(2)森鴎外は「脚気の原因は細菌」との主張に固執し、陸軍に「脚気惨害」をもたらす

一方、陸軍の鴎外は、高木の航海実験の結果も知りながら「細菌説」に固執し、陸軍も白米食を変えようとはしませんでした。その結果、陸軍は後に「脚気惨害」と呼ばれる脚気による大規模な兵力低下に見舞われたのでした。

鴎外はビタミンの存在が知られていなかった当時、軍事衛生上の大きな問題であった脚気の原因について、医学界の主流を占めていた細菌説に同調し、麦飯と脚気改善の因果関係についてはドイツ医学的に証明されていなかったため、「科学的根拠がない」として否定的な態度を取ったようです。

日露戦争(1904年~1905年)では、陸軍で約25万人の脚気患者が発生し、約2万7千人が死亡する惨害となりました。ちなみに戦死戦傷死者は約5万5千人でした。

ちなみに鴎外が陸軍を退官後、陸軍はすぐに白米から麦飯に切り替えたおかげで、脚気が激減したそうです。

鴎外は「文豪」と呼ばれるように文学においては輝かしい業績を残しました。しかし「ドイツ医学対イギリス医学」「陸軍対海軍」という対抗意識があったのかもしれませんが、軍医としては頑迷な石頭で、多くの陸軍兵士たちを犠牲にするという汚点を残しました。

2.脚気とは

「脚気(かっけ)」(beriberi)は、ビタミン欠乏症の一つで、重度で慢性的なビタミンB1の欠乏によって、倦怠感・手足のしびれ・むくみなどから始まり、末梢神経の麻痺や心臓衰弱をきたす疾患で、かつては「日本の国民病」と言われました。

ちなみにビタミンB1は、豚肉・ウナギ・豆などに多く含まれています。皆さんもビタミンB1不足にならないよう栄養バランスに気を付けた食事を心掛けてください。

3.日本における脚気の歴史

「日本書紀」にすでに、脚気の症状を呈する病の記録がありますが、平安時代以降は京都の皇族や貴族などの上層階級を中心に脚気が発生しました。

元禄年間には米を精製する習慣が広まり、玄米に代わって白米を食べるようになったため、特に江戸で多く発生して「江戸わずらい」と呼ばれました。田舎には少なく、江戸に来ると脚気になり、田舎に帰ると治ることも知られていました。

江戸時代中期以降、江戸でうどんよりも蕎麦が流行しましたが、その背景には「江戸わずらい」と呼ばれた脚気をビタミンB1を多く含む蕎麦を食べることで防止できたことにもよります。

明治時代には上に述べた通り、海軍の兵食改革で脚気が激減することが分かり、やがて鈴木梅太郎のビタミン発見があって、脚気がビタミンB1欠乏による病気であることが知られるようになりました。



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