以前から大相撲やプロ野球(リクエスト制度)、テニス(チャレンジ制度)などでの「ビデオ判定」があるのは私も知っていました。
しかし、サッカーで「VAR」という「ビデオ判定」があるのを知ったのは、今年(2022年)のサッカーW杯で日本がドイツを破った後の対スペイン戦で奇跡的な劇的逆転勝利を飾った「一ミリの奇跡」(「奇跡の一ミリ」)によってでした。
これは私が「にわかサッカーファン」だからかもしれませんが・・・
そこで今回はVARについてわかりやすくご紹介したいと思います。
1.VARとは
今回のW杯で使用されたVARの技術は、従来からの「ホークアイ(Hawk Eye)」と新しい「ボール内蔵チップ」(トラッキングシステム)の二つでした。
「ホークアイ」は、従来から使用されていたものす。これは文字通り「鷹の目」で、上空から試合のビデオ映像を見て「オフサイド」や「ボールがラインを割ったかどうか」を検証するものです。
「ボール内蔵チップ」(トラッキングシステム)は、W杯公式サッカーボールに「ボール内蔵チップ」が埋め込まれているものです。
そしてこの「センサーチップ機能」を開発したのは、「キネクソン」という2012年創業のドイツの会社です。
なお、三苫選手のゴールラインぎりぎりでのプレーの判定に関しては、観客席の最前列前の外周に張り巡らされたアンテナとの連動で計測されました。
「一ミリの奇跡」(「奇跡の一ミリ」)と言われますが、正確には「1.88mm」だったそうです。
(1)VARの概要
ビデオ・アシスタント・レフェリー(Video Assistant Referee、略称VAR)は、主審が下した判定を、ビデオ映像と通信用ヘッドセットを用いて確認するサッカーの試合審判員のこと、またはシステムの呼称です。
要は「人間の目だけでなく、ビデオで再確認」ということです。これは、試合結果に大きな影響を与える人的ミスを最小限に抑えるためのものです。
VARシステムは、「最小限の干渉、最大限の利益」という理念のもとに運用され、「明確かつ明白なエラー」や「重大なミス・出来事」が修正される方法を提供することを目指しています。
テニスの「チャレンジ制度」や野球の「リクエスト制度」などと違い、選手や監督からの異議申し立てで行われるものではありません。
VARは試合を常にチェックしていて後述のような助言すべき事があった場合に主審に助言をします。しかし判定を決定するのは主審でありVARに決定権はありません。
VARの介入を受け入れるかどうかも主審に決定権があり、自身の判定後に疑問が生じた場合はVARに助言を求めることもできます。
いくつかの大会での試験的な導入を経て、2018年より国際サッカー評議会 (IFAB) が定めるサッカー競技規則記載の公式ルールとなり、IFABの認可を受けた組織、スタジアム、審判員でのみ使用できます。
「2018 FIFAワールドカップ」で使用され、過去と比べてファウルなどが有意に減り、PKが増える、選手の抗議が減るなどの効果がありました。本大会ではVARの補助として「バーチャル・オフサイドライン・システム」という新技術も採用していました。
日本では準備や教育、金銭面という懸念から導入には至っていませんでしたが、2019年1月には一部の試合で試験運用することが発表され、公式戦では2019年9月4日のJリーグカップ・プライムステージ準々決勝より導入しました。
そして同年9月に公式発表で2020年にJ1リーグ戦にてVARの導入が1年前倒しで導入されることが決まりました。2020年のJ1リーグの第1節で初めて運用が行われましたが、中断後の第2節から最終節までは運用を見合わせることになりました。
2020年11月17日に開催されたJリーグ理事会で2021年シーズンからの再導入が決定。2021年からの対象試合はJ1リーグ全試合、スーパーカップ、Jリーグカッププライムステージ全試合で、2022年からはJ1参入プレーオフも対象試合となりました。ただ今ではVARを介入案件なのに主審が見ないということが日本で多発し、問題視されています。
(2)VARシステム対象のプレー
審査対象となるのは以下の4つのカテゴリーです。
- 得点かどうか – 攻撃側の反則、ボールのアウトオブプレー、ボールのゴールへの進入、オフサイド、ハンドリング、ペナルティキック中の反則と侵入。
- PKかどうか – 攻撃側の反則、ボールのアウトオブプレー、反則の場所、不正な裁定、反則の無罰化。
- 一発レッドカードかどうか – 明らかなゴールチャンスの阻止、重大なファウルプレー、暴力行為/噛みつき/唾吐き、攻撃的/侮辱的/罵倒的な言葉やジェスチャーの使用。すべての一発レッドカードは審査の対象となる。
- レッドカード、イエローカードの判定における人違い。
であり、なおかつ「確実かつ明白な誤審」もしくは「重大な見逃し」の疑いがある場合だけです。
2.冒頭の「証拠写真」を撮った人物とは
強豪スペインに2-1で逆転勝利を果たし、世界に衝撃を与えたサッカー日本代表。その逆転劇で話題となったのが三笘薫のライン上ギリギリのアシスト写真です。ボールの表面わずか1ミリほどが線上に残っていた瞬間を示すこの1枚。
日本のメディアでも多く使われたこの「証拠写真」を撮影したのは、AP通信のフォトグラファー、ペトル・ダビド・ヨセクさんです。
彼は地上50m近くの足場から日本のゴールを待っていたそうです。この足場は「キャットウォーク」と呼ばれるスタジアムの天井から吊り下がった作業用の通路で、幅1.5mほどだそうです。
ところで、ドイツは予選リーグ敗退が決まり、三苫選手のプレーを批判していますが、「ボールイン」の判定を決定付けたのは皮肉にもドイツの会社が製作した内蔵チップ製のおかげでした。