日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.花水木(はなみずき)
「ハナミズキ」と言えば、台湾出身の歌手・一青窈(ひととよう)さんの歌が有名ですね。
「ハナミズキ」とは、「北アメリカ原産のミズキ科の落葉高木」です。4、5月頃、白または紅色の花が咲きます。
ハナミズキは日本のミズキと比較した名で、美しい花が目立つミズキの意味からです。
アメリカの代表的な樹木で、明治45年(1912年)に東京市がワシントンD.C.に桜(ソメイヨシノ)を贈った返礼として、大正4年(1915年)に贈られたのが最初です。
当初は「アメリカヤマボウシ」と呼ばれていましたが、現在は「ハナミズキ」が一般的な呼称となっています。
「花水木」は春の季語で、次のような俳句があります。
・花水木 再起の杖の 光るかな(三池泉)
・仮退院 色定まりし 花水木(山本万治子)
・高き風 白く渡りぬ 花水木(稲畑汀子)
・校庭の 子らにぎやかに 花水木(村松夏魚)
2.パンデミック/pandemic
「パンデミック」という言葉は、「新型コロナウイルス肺炎(covid-19)」の世界的流行によって、一気に我々に馴染み深い言葉になりましたね。
「パンデミック」とは、「感染症が世界的規模で大流行すること」です。感染爆発が長期間に連続的に起きる場合をいいます。
パンデミックは英語「pandemic」からの外来語で、古代ギリシャ語の「pándēmos」に由来します。
「pán」は「すべて」、「dēmos」が「人々」を意味し、pándēmosは「すべての人々の」「公共の」という意味です。
パンデミックについては、「エンデミックとは?パンデミックやエピデミックとの違いをわかりやすく紹介」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
3.はんなり
「はんなり」とは、「明るく上品で華やかなさま」です。京都を中心とした関西地方の言葉で、多くは「と」を伴って用います。
はんなりの語源には、「はな(花・華)」に状態を表す接尾語「り」が付いたものが撥音化した説と、「華なり」や「華あり」が変化した説があり、「花(華)」の派生語という点では共通します。
「はな」を基本として派生させた語には、他に「はなやか」や「はなばな」があり、これと同様の派生関係を示す語には、「ほのか」「ほのぼの」「ほんのり」、「のびやか」「のびのび」「のんびり」、「やわらか」「やわやわ」「やんわり」などがあります。
この派生関係から、はんなりの語源は「華な(華あり)」の説よりも、状態を表す「り」が付いて撥音化した説の方が有力です。
4.バター/butter
「バター」とは、「牛乳から分離したクリームを練り固めた食品」です。パンにつけるほか、料理や菓子に入れて用います。牛酪。
バターは英語「butter」からの外来語で、「butter」は古代ギリシャ語の「bouturon」に由来します。「bouturon」は「bou(牛)」と「turos(チーズ)」からなる語で、「牛のチーズ」を意味します。
当時は、「チーズ」と「バター」の区別がはっきりされておらず、「チーズ」が乳の凝固物を表す言葉になっていたようです。
そのチーズには、ヤギのチーズ、ヒツジのチーズがあったため、それらと区別するため牛乳の凝固物を「牛のチーズ」と呼んだといわれます。
「bouturon」がラテン語で「butyrum」となり、英語で「butter」となりました。
5.パイナップル/pineapple
「パイナップル」とは、「南米原産のパイナップル科の常緑多年草。また、その果実」です。パインアップル。パインナップル。鳳梨(ほうり)。
パイナップルは、英語「pineapple」からの外来語で、日本には1845年にオランダ人によって伝えられました。
英語の「pineapple」は、「pine(松)」と「apple(りんご)」を合成した名前です。
パイナップルはブラジルやパラグアイが原産といわれ、ヨーロッパには1493年に伝わり、各地で食用果実や観賞用として利用されました。
当時のパイナップルは15cm以下で今よりもはるかに小さく、その姿が松かさ(松ぼっくり)に似ていることから、英語圏では「pine-cone」と呼ばれ、味や香りが「apple(りんご)」に似ることから、1500年頃に「pine-apple」と呼ばれるようになりました。
一説に、「apple」は「丸い果実全般」を表す語でもあったため、「松(pine)の果実(apple)」の意味で「pineapple」の名がついたともいわれます。
「パイナップル」「鳳梨」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・団欒や パイナツプルに 刃あて(富安風生)
・離陸音 とぎれ パイナップル畑(坂本宮尾)
・鳳梨を 買ふ吾も亦 船の客(荒木宗平)
・声よりも 香のさきだちて 鳳梨売(野村多賀子)
6.バッチリ
「ばっちり」とは、「落ち度がなく、十分であるさま。ちょうど具合のよいさま」です。
ばっちりは擬態語として用いた例が江戸時代から見られ、閉じていた物が割れる音や、開いていた物が揺るがないようにかたく閉じる音を表していました。
隙間なく閉じるところから、ばっちりは隙がなく十分であるさま、完璧であるさまを表す語として用いられるようになりました。
7.バズる
「バズる」とは、俗に、「インターネット上で爆発的に話題になる。SNS上で一挙に話題が広まる」ことです。
バズるは、英語の「buzz」に動詞を作る「る」を付けて日本語化した語です。
英語の「buzz」は、元々、蜂や機械などの「ブンブン」や「ブーン」という音を表した語です。
そこから、「buzz」は人のざわめきや噂話、口コミによる評判なども意味するようになりました。日本語の「バズる」は、評判の意味で使う「buzz」を応用したものです。
バズるの語源となる「buzz」を「マーケティング用語」としているものも見られますが、バズるが「バズマーケティング」という言葉と同じ頃に広く使われ始めたというだけで、以前から「buzz」は他の場面でも使われており、マーケティング用語に由来するというわけではありません。
誰が「バズる」と言い始めたかという特定は難しいですが、SNSで拡散されやすい話題を提供する海外から入ったニュースサイトの名前には「buzz」と付くものが多く、「バズる」の語が生まれた背景には、そのようなサイトの存在も大きく影響したと考えられます。
8.燥ぐ(はしゃぐ)
「はしゃぐ」とは、「調子に乗って浮かれ騒ぐ。乾燥する。乾く」ことです。
はしゃぐは「はしやぐ」が拗音化した語で、「はしやぐ」は木が乾燥して反り返ることを意味しました。
そこから、はしゃぐは「乾燥する」「乾く」の意味、江戸時代頃から「調子に乗ってふざけ騒ぐ」の意味でも使われるようになりました。
「乾燥」から「騒ぐ」の意味になった由来は、対義語の「湿る」を考えるとよくわかります。
「湿る」は乾いていたものが水分を含んでジメジメしていることを言い、「気が滅入る」や「元気なく沈んだ状態になる」といった意味に派生しています。
「はしゃぐ」は「湿る(元気なく沈んだ状態になる)」の反対なので、「調子に乗って浮かれ騒ぐ」の意味を持つようになったのです。
その他、乾燥した木がメラメラ燃える様子から連想した説や、はしゃぐに当てた漢字の「燥」を、「騒ぐ」意味の「躁」の字と解釈した説などがありますが、いずれも考え難いものです。