日本語の面白い語源・由来(ひ-⑥)紐・未・ビーフ・ビーフジャーキー・豹変・羆・引起・髭

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組紐

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.紐(ひも)

お守りの紐

ひも」とは、「物を縛ったり、括ったり、結んだりするのに用いる細長いもの。比喩的に、女性を働かせ金品を貢がせる情夫」のことです。一般に、糸より太く、綱より細いものをいいます。ひぼ。

ひもは「ひきむすぶ(引き結ぶ)」や、「ゆひを(結緒)」の意味からとする説が妥当です。

古くは、夫婦や恋人が別れる際、互いの紐を解いて結び合い、再び会う日までその紐を解かないと誓っていたことから、霊能の意味をもつ「ひめ(秘)」に「を(緒)」の「ひめを(秘緒)」が略されたとする説もあります。

漢字の「紐」は、「糸」と「ねじる」「曲げる」を意味する「丑」からなる会意兼形声文字です。

女性を働かせて貢がせる情夫を「ヒモ」、そのような情夫がいる女性を「ヒモ付き」というのは、たぐっていくと男性がいるところからです。

一見、独り身と思われる女性に恋人や夫がいることを「紐が付いている」と言い、元々は「貢がせる」といった意味は含まれていませんでした。

飲み屋などで女性が前面に立って働いているため、付き合っている男性がいないと思っていたところ、実は恋人や夫がいることから「ヒモ付き」といい、更に女性に働かせ貢がせる情夫を「ヒモ」と呼ぶようになりました。

糸や綱、縄などでなく「紐」なのは、古くから男女関係における象徴的なものであったことに通じます。

ヒモの語源説には、海女さんが海の中に潜り、息が続かなく限界になると腰に付けた紐を引いて船の上の男に合図し、男はその合図で紐をたぐり寄せる。その間、男性は船の上で待っているだけなので、「ヒモ」というようになったとする説もあります。

しかし、船の上にいる男性は船の操縦や釣りの仕事があり、ただ待っているだけではないので当てはまりません。

また、上記のとおり、最初から「ヒモ」に「貢がせる」の意味は無かったため、この説は間違いです。

2.未(ひつじ)/未年(ひつじどし)

未・未年

」とは、「干支(十二支)の8番目」です。年・日・時刻などにあてます。方角の名で「南南西(南から西へ30度の方角)」。旧暦6月の異称。み。び。前は午、次は申。

未年」とは、「西暦年を12で割った際、余りが11となる年」です。

漢字の「未」は、まだ枝が伸びきらずにいる木の部分を描いたものです。
『漢書 律暦志』では、「昧曖(まいあい)」の「昧」と解しています。

これには、果実が熟しきっていない未熟な状態を表すという解釈と、「暗い」の意味で植物が茂り、暗く覆っている状態を表しているという二通りの解釈があります。

『説文解字』では「味」の意味とし、果実に味が生じ始めた状態と解釈しています。

本来の意味からすれば、果実が熟しきっていない状態と考えるのが妥当です。

この「未」を「ヒツジ」としたのは、無学の庶民に十二支を浸透させるため、動物の名前を当てたものですが、順番や選ばれた理由は定かではありません。

3.ビーフ/beef

松阪牛

ビーフ」とは、「牛肉」のことです。

ビーフは、英語「beef」からの外来語です。
「beef」は、ラテン語で「牝牛」を意味する「bos」に由来します。
「bos」が変化した「bovem」がフランス語に入って「buef」となり、それが英語に入って「boef」「beef」となりました。

なお牛肉については、「和牛A5ランクについてわかりやすくご紹介します」という記事も書いていますので、ぜひご覧ください。

4.ビーフジャーキー/beef jerky

ビーフジャーキー

ビーフジャーキー」とは、「牛肉を干した保存食品」です。

ビーフジャーキーの「ジャーキー(jerky)」は、アメリカ先住民の言語のひとつケチュア語で「乾燥させた食材」を表す「チャルケ(charque)」もしくは「チャルキ(charqui)」に由来するといわれます。

元々、ビーフジャーキーは先住民が保存食としていたもので、そこからカウボーイの食糧、さらに兵士が携帯する戦地食にされたことで広まり、1960年頃より食肉加工品として市販されるようになりました。

単に「ジャーキー」と言う場合は、「ビーフジャーキー」のことを指しますが、ニワトリのササミや肉、馬肉などもジャーキーの原料とされます。

5.豹変(ひょうへん)

豹変

豹変」とは、「言動が急激に変わること」です。

豹変は、『易経(革卦)』の「君子豹変す、小人は面(おもて)を革む(あらたむ)」に由来します。

これは、豹の毛が季節によって抜け替わり、斑紋が鮮やかになるように、徳のある君子は過ちを改めて善い方に移り変わるが、小人(徳のない人)は表面的に改めるだけで本質は変わらないといった意味です。

つまり、豹変はもともとは良い方向へ変化することを言った言葉ですが、現在では悪く変わる意味で用いられます。

豹変が悪い方に変化する意味となったのは、「小人は面を革む」の意味まで含めたというよりも、「豹」という動物の恐ろしいイメージから連想させたものと思われます。

6.羆(ひぐま)

ヒグマ

「ヒグマ」と言えば、2022年に起きた知床半島遊覧船「KAZUⅠ」沈没事故を真っ先に思い出してしまいます。「野生のヒグマをクルージングしながら観察できる」というのが売りでした。

ヒグマ」とは、「体長約2メートルのクマ科の哺乳類」です。体色は灰褐色・赤褐色・黒褐色と変化に富みます。性質は荒く、冬は穴で冬眠します。日本では北海道にエゾヒグマが棲みます。

古く、ヒグマは「シクマ」と呼ばれており、平安中期の辞書『和名抄』の「羆」に「之久万」とあります。

「シクマ」と呼ばれていたのは、漢字の「羆」を「四」と「熊」に分解して読んだことからです。

7世紀には「ヒグマ」の発音が見られますが、一般には「シクマ」もしくは「シグマ」が江戸時代まで使われました。

明治時代以降、「ヒグマ」の発音が増えますが、明治中期以降も「シグマの誤り」とする辞書が多く、一般化したのは大正以降です。

「シクマ」からの音変化は、「シ」と「ヒ」の音が混同されやすいことからと考えられますが、漢字「羆」の字音は「ヒ」なので、「羆熊(ヒクマ)」という意識があったとも考えられます。

漢字の「羆」は、網で生け捕りにする熊を表した会意文字で、「四」と解釈されている部分は「網」を表しています。

「熊」は冬の季語です。

7.引起(ひきおこし)

引起

ヒキオコシ」とは、「山野に自生するシソ科の多年草」です。全草を乾燥し、腹痛・下痢などの健胃薬とします。延命草。

ヒキオコシの名は、弘法大師の伝説に由来するといわれます。

その伝説とは、弘法大師が道を歩いていると、腹痛で苦しみ倒れている修験者がいたので引き起こし、この草(ヒキオコシ)の絞り汁を飲ませたところ、たちまち元気になったというものです。

ただし、この話で病人を引き起こしたのは弘法大師であり、ヒキオコシの効果はその後の元気にさせた箇所です。

弘法大師にまつわる話では、マタタビの語源が「また旅」という俗説もありますので、この伝説も「ヒキオコシ」の名が既にあり、それに合わせて作られたように思えます。

8.髭/髯/鬚(ひげ)

伊藤博文板垣退助大久保利通

上の写真を見ればわかるように、明治時代の政治家(左から伊藤博文・板垣退助・大久保利通)の多くは「ひげ」を生やしていました。

ひげ」とは、「人間、特に男性の口の上・あご・頬などに生える毛。動物の口の周りに生える長い毛や毛状の突起。昆虫の触覚」のことです。

ひげの語源には、「ホホゲ(頬毛)」が転じて「ヒゲ」になったとする説。
魚のヒレのように生えることから、「ヒレゲ(鰭毛)」が転じて「ヒゲ」になったとする説。
へりにある毛なので、「ヘゲ(辺毛)」「ヘリゲ(辺毛)」の意味とする説。
口の周りにあることから、「ヒラクケ(開毛)」の意味とする説。
「ひ」は朝鮮語で「口」を表す「ヒ(ip)」に由来し、「ヒ(口)」の毛で「ヒゲ」になったとするなど諸説ありますが未詳です。

「頬毛」や「鰭毛」の説は、頬のヒゲのみを表しているため考え難い説ですが、元々、ヒゲが頬に生える毛のみを表していたと特定できれば、このいずれかの説で良いと思われます。

あごや頬も含めたヒゲという点からすれば、口の周りに生える毛「ヒラクケ(開毛)」の説が良いですが、「口」をあえて「開く」と表現するとは考えられません。

口の周りに生える毛という意味では、「くちびる」の語源とも通じることから、「ヘゲ(辺毛)」「ヘリゲ(辺毛)」の説が良いと思われます。

漢字は主に「髭」が用いられますが、漢字によって表す箇所が異なり、「髭」は「口ひげ」、「鬚」は「あごひげ」、「髯」は「頬ひげ」と書き分けられます。