日本語の面白い語源・由来(ひ-⑨)左団扇・額・膝・酷い・贔屓・ピーナッツ・彼岸花・冷奴

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左団扇

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.左団扇/左うちわ(ひだりうちわ)

左団扇

左うちわ」とは、「生活が豊かで気楽な生活を送ること」です。「左うちわで暮らす」「左うちわの生活」と用います。左扇(ひだりおうぎ)とも。

左うちわは、一般的に、利き手が右手であることから生じた言葉です。
利き手でない左手を使い、うちわや扇でゆっくりあおぐ姿は、あくせく働く必要がなく、ゆったりした生活を送っているよう見えます。

そのため、「左うちわ」や「左おうぎ」と言うようになりました。

2.額(ひたい)

額

ひたい」とは、「顔の上部の髪の生え際から眉あたりまでの部分」です。おでこ。ぬか。

ひたいの語源には、日に当たる所で「直日(ひたひ)」の意味。
平らかなので「直平(ひたひら)」の意味。
丸く盛り上がっていることから「腫高(はるたか)」の意味など諸説あります。

ひたいは常に表面に出ていることから、「常出(ひたいで)」の意味とする説もあります。
しかし、ひたいの旧かなは「ひたひ」であり、最後の「い」が「い」→「ひ」→「い」と不自然な音変化となるため、この説は考え難いものです。

3.膝(ひざ)

膝

」とは、「腿と脛を繋ぐ関節の前面。ひざがしら。ひざがしらの上、腿の前面部」です。

膝は、「ひじ」とも共通する「関節」の意味から、折りたたんだ部分をいう「襞(ひだ)」に由来するといわれます。

また、関節の意味から「節(ふし)」や「圧し折る(へしおる)」の「へし」などと同じ語系とも考えられます。

その他、「ひじ」が転じたとする説もありますが、「ひざ」が「ひじ」に転じたとする説もあります。そのため、同じ語系と考えることはできますが、語源とは言い難いものです。

4.酷い(ひどい)

酷い

酷い」とは、「残酷だ。むごい。甚だしい。激しい。程度が非常に悪い」ことです。

酷いは、人としての道理に外れていることを意味する漢語「非道(ひどう)」が形容詞化された「非道い」が語源です。

そこから「非常識だ」の意味になり、「残酷だ」「むごい」などと、しだいに意味が悪くなり、形容詞「ひどい」が成立しました。

普通、酷いは状態や程度が好ましくない場合に用いる言葉ですが、程度が非常に悪いことは「甚だしい」「激しい」の語にも置き換えられます。

これらの語は良い意味でも使われるため、「ひどく感銘を受けた」のように、好ましい場合にも「ひどい」は用いられるようになりました。

5.贔屓(ひいき)

贔屓

贔屓」とは、「気に入った人を特に可愛がったり、引き立てること。また、引き立てる人」のことです。

贔屓の「贔」の漢字は、貝(財貨)を三つ合わせて重い荷を背負うことを意味します。
「屓」の漢字は、鼻息を荒くすることを表します。

この二つが合わさった「贔屓」は、鼻息を荒くして力んだり、力を込めるという意味で用いられました。

そこから、贔屓は特定の人を助けるために力を入れたり、目をかける意味に転じました。

中国では、碑文の石の下で支える形に彫られた亀を「贔屓」と呼ぶため、これを贔屓の語源とされることもあります。

しかしこの亀は、土台となり力を入れて支える姿から、「贔屓」と呼ばれるようになったもので、特定の人に対してする「贔屓」の語源ではありません。

贔屓の読み「ひいき」は、漢字音の「ひき」が長音変化したものです。

前に「贔屓(ひいき)の意味と語源・由来とは?贔屓を含む熟語・ことわざも紹介」という記事も書いていますので、ぜひご覧ください。

6.ピーナッツ/peanut

ピーナッツ

ピーナッツ」とは、「落花生の実」です。バターや油などにも使われます。ピーナツ。

ピーナッツは、英語「peanut(s)」に由来します。
「pea」は「えんどう豆」や「えんどう豆に似た植物」など「豆」を意味し、「nut(s)」は「木の実」を意味します。

ただし、ピーナッツは木になるものではなく、マメ科の一年草で実は地中に生ります。

7.彼岸花(ひがんばな)

彼岸花

彼岸花」とは、「堤や田の畦に生えるヒガンバナ科の多年草」です。曼珠沙華・死人花・仏花など別名が多く、地方名・方言も含めると千以上もの異名があります。

秋の彼岸の頃に花を咲かせることから、「彼岸花」と命名されました。彼岸花の伝来は中国からとされますが、日本への伝来時期は多くの説があり不明です。

「曼珠沙華(発音はマンジュシャケ)」の名は古くから見られますが、「彼岸花」と呼ばれるようになったのは江戸時代に入ってからです。

「彼岸花」は秋の季語で、次のような俳句があります。

・旅の日の いつまで暑き 彼岸花(臼田亞浪)

・さりながら 恋には無縁 彼岸花(村田冨美子)

・旅の視野 捉へはじめし 彼岸花(稲畑汀子)

・彼岸花 宿命なれば それでよし(保坂加津夫)

8.冷奴(ひややっこ)

冷奴

冷奴」とは、「豆腐をよく冷やして大きめの正方形に切り、ネギ・生姜・鰹節などの薬味と醤油で食べる料理」です。奴豆腐。

冷奴の「奴(やっこ)」は、近世、大名行列の先頭で槍や挟み箱をもつ役の「槍持奴(やりもちやっこ)」のことです。

槍持奴が着ていた半纏には、「釘抜紋」と呼ばれる四角い大きな紋がついており、その紋の形と似ていることから、四角く切った豆腐を「奴豆腐」と言うようになり、冷やしたものを「冷奴」、湯豆腐を「湯奴」や「煮奴」と呼ぶようになりました。

「冷たい」ことを表す「ひゃっこい」が転じて「冷やっこい」、「冷やっこ」になったとする説もありますが、冷やした豆腐を「冷奴」と呼ぶようになるのは、四角に切った豆腐を「奴豆腐」と言うよりも後のことなので、この変化は考えられません。

「冷奴」は夏の季語で、次のような俳句があります。

・縁にしなふ 竹はねかへし 冷奴(渡辺水巴)

・庭のもの 青いちぢくや 冷奴(鈴木花蓑)

・堅苦しき 挨拶は抜き 冷奴(長谷川櫂)

・鰺焼けて くるのを待つや冷奴(久保田万太郎)