2010年に「葬式は、要らない」(幻冬舎新書)という本を書いた宗教学者の島田裕巳氏は、当時の日本の葬式費用の平均とされた231万円という額は、諸外国の葬式費用と比べて相当高いと指摘しました。
「花八層倍(はっそうばい)、薬九層倍(くそうばい)、お寺の坊主は丸儲け」という慣用句がありますが、「葬儀費用」も結構高くてしかも内訳がよくわからないものの代表選手です。なおかつ「葬儀」は事前に周到に準備や用意をするような性質のものではなく、急に訪れるものなので、遺族は慌ただしくいろいろなことを決める必要に迫られ、業者の言いなりになってしまうことも多いようです。
今後、2040年までの20年間は、「団塊世代」が大量に死亡適齢期(?)を迎えるため、葬儀市場も急激に膨らむことが予想されます。
そのせいか、最近テレビで「生きるお葬式」とか「冠婚葬祭セレマです」「小さなお葬式」といったキャッチコピーの葬儀社・冠婚葬祭業者のCMが目につきます。
また、既存の業者に加えて、異業種からの新規参入も増えているようです。
しかし、いずれにしても「あまり貧相なのはどうかと思うが、葬儀費用はできるだけ安くしたい」と思うのが人情だと思います。
今回は葬儀に関するあれこれについて考えてみたいと思います。
1.葬儀費用を安くする方法
(1)葬儀形態別の平均費用
①直葬
直葬とは、「通夜や告別式などの宗教儀式を行わない『火葬のみ』の葬儀形態」のことです。
近親者や友人など限られた関係者のみで執り行うケースが多く、費用が平均18万円程度と安価で時間も節約できるメリットがあります。
しかし、「十分な別れの時間が取れない」「招待しなかった人々からの反感を招く」「葬儀後に個別の弔問の対応に追われる」などのデメリットもあります。
あまりにも貧相な感じもしますので、一般的ではないと私は思います。
この直葬は、以前は経済的に苦しい人や身寄りのない人の福祉的なサービスとして行われる方法でしたが、近年高齢化の影響から、故人の友人関係や職場での人間関係がほとんどなく、参列する人も少ないケースが増えるようになり、葬儀に対する意識も変わり始めているようです。
2013年にNHKが全国の200の葬儀業者を対象に実施した調査では、関東地方では22.3%、近畿地方では9.1%が直葬だったそうです。
②家族葬
家族葬とは、「家族などの近親者だけで行い、近親者以外の儀礼的・社交辞令的な弔問客の参列を拒否する葬式」のことです。
家族葬の費用は、「基本プランの平均相場」で約50万円です。しかし希望の「追加オプション」などの追加料金が加算され、実際はもう少し高くなります。
実際にかかった家族葬の平均費用は、約110万円だそうです。
家族葬のメリットやデメリットについては、「家族葬」の記事に詳しく書いていますので、ぜひご一読ください。
③通常の葬儀
従来型の通常の葬儀の場合、実際にかかった平均費用は、約196万円だそうです。
(2)事前の葬儀社との相談の必要性
前に、ポスターで物議をかもした「人生会議」の記事を書きましたが、葬儀に関しても、事前に複数の葬儀社とよく相談して、納得のいくプランや金額で葬儀を執り行いたいものです。
事前準備をしておかないと、慌てふためいて冷静な判断ができず、業者の言いなりになって不必要なオプションをつけたり、必要以上に高価な棺や装飾を選んでしまう恐れがありますので、十分ご注意ください。
2.「終活」の一環として自分の葬儀スタイルを自分で決める動き
上に述べたのは、「遺族」になる人の立場での話でしたが、最近は「終活」の一環として、自分の葬儀スタイルを自分で決めるという動きも出て来ているようです。「究極の終活」と言うべきかもしれません。
少し前までは「葬儀のことを考えたり口に出すのは縁起が悪い」というのが一般的な考え方でしたが、最近では「自分のことで自分ができることは自分で決める」という風に変わって来たようです。
芸能人には「生前葬」をする人が以前からいました。月亭可朝さん、水の江瀧子さん、ビートたけしさん、テリー伊藤さん、桑田佳祐さんなどです。
一般人でもたくさんの美しい花々で埋め尽くす「花葬」や、音楽好きな人の「音楽葬」など「自分好みの葬儀」を事前に選択する動きがあります。葬儀そのものではなく、埋葬の形態ですが、墓石や墓標の代わりに木を植える「樹木葬」も増えてきました。
遺族となる配偶者や家族が困らないように、「葬儀社・会場」「葬儀形式・規模」や「参列を希望する人の名前(あるいは人数)」「香典・供花の受け取りの可否」「案内状の内容「お経をあげてもらう僧侶」「精進落としで振舞う料理内容」などを自分で決めておくことは意義のあることだと思います。
「生前予約」といって、葬儀内容や供養方法を決めて予約する方法もありますが、葬儀社によって「前払い」と「後払い」があります。「前払い」の場合は遺族に費用負担をかけずに済みますが、万一葬儀社が倒産した場合、払い損になるリスクがあります。この払い損のリスクは、掛け金を積み立てる形式の「互助会系の葬儀社」が倒産した場合にもあります。
3.葬儀市場
(1)現状
経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によれば、2013年の「冠婚葬祭業者」は事業所数が1万109事業所、従業者数が16万8303人、年間売上高が2兆7959億円となっています。
このうち「葬儀一式請負業務」の年間売上高は、約1兆9062億円です。
売上高の内訳は次の通りです。
式典進行・設営・葬具(9332億円)、会場・室料(1062億円)、飲食料(2252億円)、生花(2234億円)、返礼品(2859億円)、その他(1323億円)
ちなみに2013年の死亡者数は約128万人でした。
(2)今後の予測
2012年に「国立社会保障・人口問題研究所」が、2060年までの「死亡人口」を推計した資料によると、死亡人口のピークは2038年~2040年と予測されています。
2040年の死亡人口は約166万人の見込みです。死亡者の中には身寄りのない人や葬儀をしない人もいますので、死亡者の95%に対して葬儀が行われるとすると、2040年の死亡人口は158万人と読み替えて市場規模を考える必要があります。市場規模は約2兆7169億円になると見込まれています。
4.葬儀業者
上記のような予測から見ると、葬儀産業は少なくとも2040年までは「成長産業」ともいえると思います。そのような背景から、最近は異業種から葬儀産業への新規参入が増えています。
既存の専門業者でも市場占有率は10%程度なので、市場の伸びを期待した更なる新規参入も予想されます。
しかしその結果、「紹介手数料」や「仲介手数料」の負担に苦しんだり、過当競争となって利益がほとんど出ずに苦境に陥る業者も出ているようです。現在の事業社数は約6000社です。
なお、「イオンリテール」などは、葬儀社ではなく、「葬儀仲介業者」です。また、「小さなお葬式」や「よりそうのお葬式」などは、「ネットの葬儀社紹介業者」です。
(1)既存の葬儀専門業者
①専門葬儀社系:燦HDグループ公益社、セレモア、ティア、エポック・ジャパンなど
②互助会系:ベルコ、典礼会館など
③JA系
(2)新規参入の「ネットによる葬儀社紹介会社」
「ネットによる葬儀社紹介会社」は、「自社で葬儀に関するポータルサイトを運営し、第三者の視点で信頼できる葬儀社を紹介する会社」です。
多くは、サイトから資料請求や見積依頼、問い合わせなど何らかのアクションを起こした顧客に葬儀社を紹介し、成約に至った段階で葬儀社から「紹介手数料」をもらうというビジネスモデルです。
「小さなお葬式」、「よりそうのお葬式」などがこれに当たります。
(3)異業種からの参入した「葬儀仲介業者」
①コープこうべ(1988年参入):兵庫県の葬祭組合と提携
②阪急メディアックス(1995年参入):鉄道会社系の最古参
③イオンリテール(2009年参入):明朗会計が武器
「葬儀仲介業者」も、実際に葬儀を行うわけではなく、小規模な葬儀へのニーズを汲み取る形で「低価格のセットプラン」を作り、その仕様と価格をそのまま提供してくれる全国の葬儀社と提携するものです。
いったん自社で受けた葬儀の申し込みを、提携先の葬儀社へつなぐ役割を果たしているのです。「ネットによる葬儀社紹介会社」と同様、葬儀を行った提携先の葬儀社から「仲介手数料」をもらうというビジネスモデルです。