普段よく見る現象や物でも、「○○のことを何と言うのか?」という疑問を持つことがたまにありますよね。
今回はそういう面白い言葉をいくつかご紹介します。
1.天使の梯子(はしご)
皆さんは「雲の間から太陽の光が差し込む(洩れて来る)光景」をご覧になったことがあるでしょう。
これは英語で「天使の梯子」(angel’s ladder)、「天使の階段」(angel’s stairs、angel’s stairway)、「ゴッドレイ」(God Ray)、「ヤコブの梯子」(Jacob’s ladder)などと呼ばれています。
「天使の梯子」「ヤコブの梯子」という呼び方は、旧約聖書創世記に由来しています。ヤコブが夢の中で、雲の切れ間から差す光のような梯子が天から地上に伸び、そこを天使が上り下りしている光景を見たという話です。
また「レンブラント光線」という呼び方もあります。これはオランダの画家レンブラント(1606年~1669年)が雲の切れ間から落ちる光芒が地上に放射状に降り注ぐ様子のような、「光の当たる部分と闇の部分とのコントラスト(対比)を明確に描く手法」を得意とし、好んで描いたことから付いた呼び名です。非日常的な雰囲気や宗教的な神々しさを醸し出しています。
日本語では、一般的には「光芒(こうぼう)」と言いますが、気象現象としては「薄明光線(はくめいこうせん)」と呼んでいます。宮沢賢治は「光でできたパイプオルガン」と呼びました。
太陽が雲に隠れている時、雲の切れ間あるいは端から光が漏れ、光線の柱が放射状に地上へ降り注いで見える現象ですが、通常とは逆に、雲の切れ間から上空に向かって光が出ることもあります。
主に地上から見た太陽の角度が低くなる早朝や夕方に見られます。世界中の人々の間で美しい自然現象と認識されており、写真撮影でも人気の対象となっています。
2.エンドロール
「映画の本編が終わった後、出演者・制作者・監督・小道具係・協力者などの名前の一覧を流れるように最後に表示する字幕」のことを「エンドロール」(end roll)と言います。「エンディングロール(ending roll)」とも呼ばれます。正しくは「エンディングクレジット(ending credit )」「エンドクレジット(end credit)」です。
「出演者・制作者・監督・小道具係・協力者などの名前の一覧」のことは一般的に「スタッフロール(staff roll)」と言いますが、映画の終わりに表示される場合は、「エンドロール」(end roll)と言うのです。
反対に最初に流れるのは「オープニングクレジット(opening credit )」と言います。
3.フランス落とし
「窓や扉を閉じた状態で固定しておく金具」のことを「フランス落とし」と言います。
扉の上下に掘り込んで取りつけた上げ下げ式の軸棒を床およびドアの上枠の受け金の穴に差し込んでロックするものです。
「フランス窓」(テラスやバルコニーに面して設けられ、出入りができる床面まである両開きのガラス窓)を閉じた状態で固定しておく金具として使われたので「フランス落とし」という呼び名になりました。
私は自宅を新築した時に、ハウスメーカーの担当者から聞いて初めてこの名前を知りました。
4.はめ殺し窓
「開閉できない窓」のことを一般的に「はめごろし窓」と言います。「FIX窓」とも言います。昨今では、採光目的よりも外観を楽しむのが主目的の窓という用途から、「ピクチャーウインドウ」とも呼ばれます。細長いはめ殺しの窓は「スリット窓」と呼ばれることもあります。
主に採光を目的に、玄関のドア枠や階段ホールの天井窓などに設けられます。
私は最初この「はめごろし」という言葉を聞いた時、「絞め殺し」や「生殺し」といった物騒な言葉を連想してしまったことを覚えています。今から考えると滑稽な話ですが・・・
5.蹴込み板・蹴上げ
我々は最近はエスカレーターを多く使用するようになりましたので、自宅以外では階段をあまり使用しませんが、階段各部の名称については、あまり知らない人がほとんどだと思います。
私も自宅を新築した時に、ハウスメーカーの担当者から聞いて階段各部の名称に詳しくなりました。
「蹴込板(けこみいた)」については面白い話があります。大阪の地下鉄の駅の階段の「蹴込板」には、上の写真のようにぎっしりと広告がはめ込まれています。これはいかにも大阪の商売人が考えそうなアイデアですが、東京の方はどうなのでしょうか?
もう一つ、階段の段差のことを「蹴上げ(けあげ)」と呼びますが、京都市東山区に「蹴上」という地名があります。ウェスティン都ホテル京都の近くです。この地名の由来については、二つの説があります。
①平家武者の馬が水溜まりの水を蹴り上げて、源義経の衣服を汚した
1174年、源義経が金売吉次の案内で奥州平泉へ向かう途中、一行が日ノ岡の清水(現在の蹴上)で、供の者と別れを惜しんでいた時、平家の武者関原與市重治が9人の従者とともに馬で通りかかり、馬が水溜まりの水を彼に蹴り上げ、衣服を汚してしまったのです。
晴れの門出を台無しにされた彼は、無礼を詫びるよう迫りましたが、武者たちは平家の威光を笠に着て、かえって居丈高な態度に出たのです。そこで怒った彼は9人の従者を斬り捨て、與市の耳と鼻を削いで追い払ったということです。
ちなみに、彼は後に自分の軽率な行動を悔い、9体の石仏を作って弔ったそうです。
②役人が罪人を粟田口刑場へ連行する時、後ろから蹴り上げた
昔、九条山には粟田口刑場という処刑場がありました。ここは江戸時代より前から処刑場として使われており、山崎の戦いに敗れて殺された明智光秀の遺体が晒されたり、キリシタンが処刑された場所でもあります。約15,000人の人が処刑されたそうです。
処刑を拒み、山を登って刑場へ向かうのを嫌がる罪人たちを、役人が後ろから蹴り上げて処刑場まで連れて行ったということです。
6.デジャヴ(既視感)
「未体験の事柄であるはずなのに、過去にどこかで体験したような感覚を覚える現象」のことを「デジャヴ(既視感)」と言います。
これは、フランス語のdeja vu(英語でalready seen)で、「すでに見た」という意味です。「夢」や「単なる物忘れ」のことではありません。
反対語は「ジャメヴ(未視感)」です。「ジャメヴ」は、フランス語のjamais vu(英語でnever seen)で「日常見慣れたものを初めて見たと感じる体験」ということです。
7.ペタロイド
「炭酸飲料のペットボトルの、花のような形をした底の部分のこと」を「ペタロイド」と言います。
炭酸飲料が入っている「炭酸用ペットボトル」は、形は円柱で断面が必ず丸くなっています。底の部分は厚みがあって、「ペタロイド」と呼ばれる「お花の花びら」のような形をしています。
炭酸飲料をペットボトルに詰めた時、膨張しますが、底の部分が真っ平だとその圧力で破裂したり倒れたりしてしまいます。それを防ぐために「ペタロイド」の形になっているのです。
ちなみに「ペタロイド(petaloid)」とは、「花弁状、花紋」のことで、「花弁(花びら)」を意味する「petal」が語源になっています。
8.グリーンフラッシュ
滅多に見られない現象に「グリーンフラッシュ」があります。
「グリーンフラッシュ(green flash)」とは、「太陽が完全に沈む直前、または昇った直後に、緑色の光が一瞬輝いたようにまたたいたり、太陽の上の弧が赤色でなく緑色に見えたりする稀な現象」のことです。「緑閃光(りょくせんこう)」とも呼ばれます。
地球の大気に斜めに入射することによって、太陽光は、プリズムによって光が曲げられるのと同じように屈折します。
一方、太陽光は大気による「レイリー散乱」のために短い波長から散乱されて、波長の長い赤に近い光だけが地表に届くことになります。これが夕日の赤い理由ですが、空気が非常に澄んだ条件下では、より波長の短い緑の光まで散乱されずに届きます。
この時、赤から緑の色に分離した太陽が上下に少しずれながら重なり合って見えていることになりますが、赤色の方がはるかに強いため太陽は赤く見えます。
しかし、日没や日の出の際に、赤色の太陽が地平線、水平線、雲で隠された時、最頂部の緑色の太陽のみが見えることになります。この光が、大気のゆらぎによってまたたくものと考えられています。
なお、ジュール・ベルヌの恋愛小説「緑の光線」(1882年)は、このグリーンフラッシュを追いかけるのが主題になっています。
見られる確率が低いことから、ハワイやグアムでは「グリーンフラッシュを見た者は幸せになる」という言い伝えがあります。
これはニューカレドニアを舞台にした大林宣彦監督の「天国にいちばん近い島」(1984年)、フランスを舞台にしたエリック・ロメール監督の「緑の光線」(1986年)、新垣結衣初主演映画の「恋するマドリ」(2007年)などに出てきます。
なお、クイズ番組「クイズ!ヘキサゴンⅡ」で結成されたアイドルユニットPaboの2枚目シングル「グリーンフラッシュ伝説」(2008年)では「南の島で見られる現象で恋人同士で見ると結ばれる」という伝説として歌われています。
コメント
ヤコブの梯子の画像を検索していたら、ここにたどり着きました。
とても興味深く読ませていただきました。
賢くなりそう!