林業復活の新しい風:「自伐型林業」と「大規模木材加工工場の国産材利用増加」

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自伐型林業

日本は国土の約7割が「森林」で、「緑の列島」とも呼ばれています。

日本人は昔から森林を建築資材や燃料、肥料の供給源として利用して来ました。かつては「森林資源の過剰利用」が「森林問題の中心」でした。

ところが今は「森林の放置過少利用)」が問題となっています。1960年代以降、「化学肥料の普及」と「原油輸入」によって、下草や薪炭の利用が激減し、建築資材や製紙用チップのような産業用材も、経済成長と貿易自由化に伴って輸入木材が大量に使用されるようになりました。その結果、日本人の日常生活は森林からどんどん離れていったのです。

前に「マツタケの生産量激減の原因」についての記事を書きましたが、その中で「里山の手入れの復活」の対策の一つとして、「林業に従事を希望する都市出身者の活用」をあげました。

一般にはまだあまり知られていませんが、近年、山村の活性化や、荒廃した山林の整備のために「林業」を志望する若者も増えているそうです。

その手法の一つが「自伐型林業」と言われるものです。今回はこれについてご紹介したいと思います。

1.「自伐型林業」

「自伐林業」とは、「移住者による自営的な小規模林業」のことを表す造語です。

普及のためのNPO法人「持続可能な環境共生林業を実現する自伐型林業推進協会」が2014年に設立されています。独自研修やフォーラムの開催、自治体への助言などを通じて「自伐型林業」を日本各地に広める活動を行っています。

従来の林業は「自伐林業」とも呼ぶべきものです。これは元々森林(山林)を所有する人が、自分の山で木を育て、主に家族労働力で伐採を行う林業です。

しかし「自伐林業」は、世代交代がスムーズに行かず後継者難に直面しています。

この問題を解決するために登場したのが「自伐型林業」ですが、「自伐林業」とは一味違っています。特徴は次のような点です。

(1)森林を所有していない者であってもよい

(2)「自伐林業」がこれまで蓄積してきた技術を継承する

(3)森林所有者の信頼を得て、施業や経営を任せてもらえる

(4)いくつかの業種を組み合わせた「自営複合で生計を立てる

(2)と(3)も重要ですが、最後の(4)が「自伐型林業」が成功するかどうかのポイントだと私は思います。

つまり、小規模な林業だけで生計を立てるのはなかなか難しいのが現実です。そこで彼らは、農家、アウトドアスポーツのインストラクター、飲食店経営、写真家、華道家、木工家、出版業者、ITを用いたサービス業者などと兼業する「自営複合」を行っているそうです。

「自伐型林業」の施業は、土砂崩壊や土砂流出を抑止する防災的な役割、森林内の植物や生物を保全する役割などがあります。政策的に推進されている大規模林業に比べて、森林に与える負荷が少なく、環境保全面でも優れていると言われています。

自治体は、「自伐型林業」を「過疎対策」(=地域政策)と位置付けているそうです。

一方、国においても、森林所有者から木材が安定的に供給される制度的な仕組みも始まろうとしています。2018年5月に制定された「森林経営管理法」では、森林所有者が適切に管理できない森林は、「意欲と能力のある林業経営者」へ経営権を委譲させる制度が導入されました。

2.「木材供給量」と「木材自給率」の推移

木材供給量と木材自給率の推移

「木材自給率」は1955年には96%もありましたが、輸入木材(輸入丸太、輸入木材製品)の増加で、国産材供給量の減少傾向が戦後長らく続いてきました。しかし2002年の18.8%を底に、2003年頃から緩やかな上昇に転じ、2017年には36.1%まで回復しています。

木材価格の低迷や山村の過疎化、林業の担い手の高齢化と後継者不在などで、「手入れされず荒れる山林が増加している」というのが、私の今までの認識でした。

しかし、最近林業に二つの新しい風が吹き始めています。

一つは、「大規模木材加工工場」が原料基盤を国産材にシフトし、バイオマス発電所の稼働も相まって木材生産量が増加していることです。

海外の丸太価格の上昇や円安、戦後に植林した国内の人工林が利用時期を迎えていることも追い風になっています。

大規模な木材需要が生まれたことで、安定的な木材供給が求められ、それに対応する政策が展開されるようになりました。高性能の林業機械を用いた生産性向上や、流通合理化といった「大規模な生産・流通を促進する政策」です。

これまでの「間伐支援」から、2014年以降は「主伐奨励」に転換しています。

もう一つは、都市から山村に移住して林業を始める20~30代の若者の増加です。彼らが行う林業が1.で述べた「自伐型林業」です。この動きは2000年代になって「人生の楽園」というテレビ番組の影響か都市生活者が「田舎暮らし」に憧れたり「田舎暮らし」を理想的とする風潮が強まり、「田園回帰」という言葉で注目されるようになりました。2011年の東日本大震災以降さらに強まっている現象です。

都市での生活よりも、自然とともに生きる農耕生活や森とともに生きる林業の方が、より人間らしい生き方だと再認識したのかもしれません。

かつては「建設業」と同様、「危険、きたない、きつい」の「3K職場」の代名詞とも言われた林業ですが、「東京に住みお金を持っていても、大地震になるとコンビニに物がなくなり、生きて行く術を持っていないことに気付いた」という若者が多いそうです。

これはちょうど太平洋戦争中、都市部は空襲の恐怖におののき、実際の空襲の被害も蒙りましたし、また終戦直後は食糧難に悩まされ農村部への買い出しやヤミ米問題で苦しんだのに比べて、農村部は余裕綽々だったのを思い出させます。