1.「目(眼)」が付くことわざ・慣用句
(1)生き馬の目を抜く
生きている馬の目を抜き取るほど、素早く事をするさま。また、ずるくて抜け目なく油断がならないことのたとえです。「生き馬の目を抉(くじ)る」「生き牛の目を抉る」とも言います。
浄瑠璃の「融大臣ー四」に「南無三宝盗まれし、昼強盗め生馬の目を抜き居った」とあります。
この慣用句は、「瓢箪から駒が出る」と同じくらい奇想天外な発想で、一度聞いたら忘れられません。
(2)居候三杯目にはそっと出し
「居候」とは、他人の家にただで厄介になっている者のことです。
他人の家に金を払わずに厄介になっているのだから、食事の際に三杯目のおかわりをする時には、遠慮がちにそっと出すということから、居候の肩身の狭さを詠んだ川柳がことわざになったものです。
話は脱線しますが、上のことわざの「居候」は遠慮深く殊勝な方ですが、「居候角な座敷を丸く掃き」ということわざもあります。これは居候はとかく横着者であることを表しています。
(3)眼光紙背に徹す
書物を読んで、そこに書いてあることを、表面的な字句の解釈にとどまらず、著者の真意や精神を鋭くつかみ取り理解することです。
「文章」ではなく、「数字」なので少し話が違いますが、私に次のような体験があります。
私が若手サラリーマンの頃、日々の支店の営業計数を記録していたことがあります。ある時、本部の役員が私の書いたその記録を見て、「気持ちが入っていない」と指摘され、その「眼力(がんりき)に驚いたことがあります。確かにその当時、私はあまり意欲が湧かずマンネリのように機械的に記録を付けていました。それを見抜いて鋭く指摘されたのでした。手書きだからこそ分かったことで、パソコンで入力した記録だとわからなかったでしょう。
(4)岡目八目(傍目八目)
当事者よりも第三者の方が、冷静で客観的に物事を見られるので、物事の真相や利害得失がはっきりわかるということです。
他人の打っている囲碁を傍らから見ている者は、対局者よりも八目も先の手が見えるという意味から来ています。
対局者や当事者は、勝つことや懸案を処理するのに必死ですが、傍観者や部外者は局面の全体を見渡す余裕があるため、的確な判断ができるわけです。
私は、昨今の日本の与野党の国会論戦を見ていてつくづく思うのですが、野党は「安倍おろし」だけに必死のようです。野党は、多くの国民が「安倍おろし」を期待していると信じ込んでいるかのように見えます。これでは国民の幅広い支持を得られないことは明らかなのに、それに気づかないようです。「日本維新の会」は是々非々の態度で好感が持てますが、その他の野党には、本当に国民や国益のことを真剣に前向きに考えている人はおらず、「党利党略で動く政治屋集団」ばかりのようです。
(5)目は口程に物を言う
「目顔(めがお)」という言葉があるように、情のこもった目つきは、言葉で説明するのと同じくらい、相手に気持ちが伝わるものだということです。
人間の喜怒哀楽の感情をもっとも端的に表すのが目ですから、何も喋らなくても目を見れば相手の感情がわかるものです。言葉で偽りごまかしていても、目を見ればその真偽がわかるというものです。
2.「目」が付く熟語
(1)羽目(はめ)
「羽目」とは、建物などの板張りで、板を平坦に張ったもの、またその板(羽目板)のことです。
また、「破目」とも書いて、「成り行きから生じた好ましくない、困った、または追い詰められた状況・事態」のことを言います。
ちなみに「羽目を外す」とは、「調子に乗って度を過ごすこと」です。この場合の「はめ」は、羽目板の羽目ではなく、馬を制するために口に噛ませる「馬銜(はみ、はめ)」のことです。この「馬銜」を外して馬を自由にすると、勝手に走り回って手が付けられなくなることから、この慣用句が生まれたようです。
(2)押目(おしめ)(「押し目」)
「押目」とは、「上げ基調の相場が、一時下がること」です。株式相場でよく使われます。
押目の時に株を買うことを「押し目買い」、「押し目を拾う」と言います。
(3)糸目(いとめ)
「糸目」とは、次のように多くの意味があります。
①細い糸。糸筋
②凧(たこ)の表面に付けて揚がり具合を調節する糸
③器物に細く刻みつけた筋。(用例:糸目模様)
④物事をつなげるもの。脈絡。(用例:話の糸目をつなぐ)
⑤「糸歩(いとぶ)」のこと(一定量の生繭から取れる生糸の割合)
⑥柳の枝。また、その芽立ち
⑦江戸時代、甲州金の量目の呼称。1両の64分の1
⑧ゴカイ科の環形動物。浅海の泥中に住み、釣りの餌にする
ちなみに「金に糸目をつけない」と言う場合の「糸目」は②の「凧(たこ)の表面に付けて揚がり具合を調節する糸」のことです。糸目を付けていない凧は、制御できないため風に任せて飛んで行ってしまいます。そんな糸目を付けない凧に掛けて、制限なくお金を使うことを「金に糸目を付けない」と言うようになったのです。
(4)目力(めぢから)
「目力」とは、「目の表情や視線が相手に与える印象」のことです。
「目は口程に物を言う」と言いますが、目力の強い人は、とても魅力的で引き込まれそうになったり、相手に威圧感を与えたりします。
「死んだ目」「死んだ魚のような目」の人は生気がなく、当然目力もありません。
女優の武井咲さんの目は私にはとても魅力的です。
歌舞伎俳優の市川海老蔵さんは目力が強いと言われています。「歌舞伎の見得」は、「手を大きく開き、ぐるりと首を回し、パッと体の動きを止め、グッと睨んだ表情を作ること」ですが、この中の「にらみ」は成田屋・海老蔵の代名詞となっています。
ノーベル賞作家の川端康成も目力が強い人だったようで、次のような面白いエピソードがあります。
泥棒が彼の自宅に押し入ったところ、布団の中の彼の「凝視」にぎょっと驚き、「だめですか?」と言って逃げ出したことがあるそうです。
また、彼が大学時代に下宿していた家主のおばあさんが、滞納した家賃の催促に来た時、彼はじっと黙っていつまでも座っているだけで、おばあさんを退散させたこともあるそうです。