日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
１．リレー／relay
「リレー」とは、「受け継いで次々に渡していくこと。中継。交代。陸上競技・水泳・スキー・スケートなどで、数人の選手が一定の距離を受け持ち、次の選手に受け継ぎながら競う競技。継電器」のことです。
リレーは、英語「relay」からの外来語です。
「relay」の「re」は「後ろに」、 「lay」は「残す」で、「後ろに残す」という意味のラテン語が、フランス語経由で15世紀に英語化されました。
リレーの語源となるラテン語から派生した言葉には、現代フランス語で「relayer（引き継ぐ・駅馬を継ぎ代える）」や、「relais（駅馬車や猟で疲れた馬や犬に代えるべき馬や犬）」があります。
２．理想（りそう）
「理想」とは、「行為・性質・状態など、考えうる限り最高の状態。最も望ましい姿」のことです。
理想は、哲学用語として用いられた語です。
明治14年（1881年）の『哲学字彙（初版）』には「Ideal 理想」「Idea 観念」とあり、明治17年（1884年）の改訂増補版では「Idea 観念、理想」「Ideal 理想的、観念的」と改められています。
この訳は、多くの訳語を創りだした啓蒙家の西周（にしあまね）によって造られたものと思われます。
明治10年代の終わり頃から、文学理論を論じる際に「現実」に対する語として「理想」が用いられるようになり、哲学以外の分野でも多く使用されるようになりました。
３．リアス式海岸（りあすしきかいがん）
「リアス式海岸」とは、「谷で刻まれた山地が、地盤の沈降または海面上昇によって枕水し、出入りの複雑な海岸線になっているところ」です。三陸海岸・若狭湾・志摩半島に見られます。リアス海岸。
リアス式海岸は、英語「rias coast」の訳語で、「coast」は「海岸」です。
「rias（リアス）」は、「入り江」を意味するスペイン語「ria」に由来します。
スペイン語が語源になっているのは、スペイン北西部のガリシア地方の海岸線に入り江が多いためです。
「ria」はスペイン語で「川」を表す「rio」の派生で、遡ると、ラテン語で「小川」の意味の「rivus」に辿り着きます。
４．竜胆（りんどう）
「リンドウ」とは、「山野に自生するリンドウ科の多年草」です。葉は披針形で対生します。笹竜胆（ササリンドウ）。リュウタン。リュウドウ。
リンドウは、漢名「竜胆」の音読みが変化した語です。
平安時代には「りむたう」「りんたう」「りんだう」「りうたむ」など表記は一定していませんが、実際は「リンダウ」に近い発音だったと考えられています。
漢名の「竜胆」は、根の味が竜の胆のように苦いことから名づけられたもので、漢方では干した根を健胃薬にします。
「竜胆」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・竜胆の 花かたぶきて 殊勝さよ（八十村路通）
・りんだうや 枯葉がちなる 花咲きぬ（与謝蕪村）
・好晴や 壺に開いて 濃竜胆（杉田久女）
・竜胆の とがりてつよき 匂かな（蓮寸）
５．柳眉倒豎（りゅうびとうじゅ）
「柳眉倒豎」とは、「美しい女性が眉を吊り上げて怒ること」です。
柳眉は、柳のように細く美しい眉を表し、美人の眉の形容としても用いられる語です。
倒豎は、逆さまに立てるという意味です。
この二つが合わさった柳眉倒豎は、美しい女性が眉を釣り上げて怒ることを表します。
類句には、「柳眉を逆立てる」があります。
眉を吊り上げた姿で怒りを表現していることから、平常時の眉は垂れ下がっていなくては意味がありません。
ここでいう柳は、ネコヤナギのように立った柳ではなく、シダレヤナギの類です。
６．リゾット／risotto
「リゾット」とは、「米をバターやオリーブオイルで炒め、ブイヨンを加えて雑炊風に煮立て、玉ねぎ・きのこ・肉・魚介類などを入れたイタリア料理」です。
リゾットは、イタリア語「risotto」からの外来語です。
「risotto」の「riso」は、「rice（ライス）」の語源でもある「米」を意味するイタリア語です。
「(o)tto」の部分は定かではありませんが、「最高」を意味するイタリア語「ottimo」のことで、リゾットは「最高の米料理」という意味の「riso ottimo（リーゾ・オッティモ）」の略といわれます。
イタリアで稲作が始まった時期や、その調理法から、リゾットはスペインの米料理「パエリア」に由来すると考えられています。
７．リンパ／lymph
「リンパ」とは、「リンパ管にある淡黄色の透明な弱アルカリ性の液体」です。組織液がリンパ管に入ったもので、リンパ球を含みます。リンパ液。淋巴。
英語「lymph」からの外来語で、古くは「清水の流れ」や「泉」を意味しました。
英語の「lymph」はフランス語「lymphe」からで、「lymphe」は「澄んだ」「水」を意味するラテン語「lympha」に由来します。
「lympha」の語源は、「泉の女神」や「水の女神」を意味するギリシャ語「nymph」です。
リンパを漢字で「淋巴」とも書きますが、もちろん当て字です。