漢字発祥の国だけあって、中国の「四字熟語」は、人生訓にもなるような含蓄に富んでおり、数千年の悠久の歴史を背景とした故事に由来するものも多く、人類の叡智の結晶とも言えます。
そこで今回は、「喜怒哀楽」を表す四字熟語のうち、「喜び・楽しみ・満足・感謝」を表す四字熟語をご紹介したいと思います。
1.喜び
(1)有頂天外(うちょうてんがい)
このうえなく大喜びすること。また、たいそう喜んで夢中になり、我を忘れる様子。
「有頂天」は、仏教で形ある世界の絶頂に位置する天。その有頂天よりさらに高く外に出る意。「有頂天」をさらに強めた語。
(2)歓天喜地(かんてんきち)
大喜びすること。思わず小躍りするような大きな喜び。
「歓天」は天に向かって喜ぶ意。「喜地」は地に向かって喜ぶ意。
(3)含哺鼓腹(がんぽこふく)
人々が豊かな生活をして、平和な世の中を楽しむこと。
「含哺」は口に食べ物を含むこと。「鼓腹」は腹鼓を打つこと。
満腹になって満たされている様子から。
「哺(ほ)を含み腹(はら)を鼓(こ)す」と訓読する。
(4)喜色満面(きしょくまんめん)
喜びの表情が心の中で包みきれず、顔じゅうにあふれ出ているさま。
「色」は表情や様子の意。「満面」は顔じゅう、顔全体。
(5)喜躍抃舞(きやくべんぶ)
大いに喜んで、両手を打ち鳴らしたり、小躍りしたりすること。
「抃舞」は両手を打ち鳴らして舞うこと。
(6)恐悦至極(きょうえつしごく)
恐れつつしみながらも大喜びすること。
(7)狂喜乱舞(きょうきらんぶ)
思わず小躍りするほど大いに喜ぶこと。
「狂喜」は狂おしいほどに大喜びすること。「乱舞」は入り乱れて躍ること。
(8)欣喜雀躍(きんきじゃくやく)
小躍りするほど大喜びをすること。
「欣」「喜」はともに喜ぶ意。「雀躍」は雀がぴょんぴょんと跳ね行くように喜ぶこと。
(9)手舞足踏(しゅぶそくとう)
大きな喜びなどで、気持ちが高ぶって、思わずそれが身振り手振りとなって現れること。
「手舞」は手を動かして舞う、「足踏」は足を踏みならす。ともに踊りの動き。それによって自分の気持ちの高揚を表現することから。
「手の舞い足の踏むを知らず」の略。
(10)千歓万悦(せんかんばんえつ)
この上なく喜ぶこと。
「千」と「万」は数が多いということから、程度が甚だしいことのたとえ。
「歓」と「悦」はどちらも喜ぶということ。
(11)大慶至極(たいけいしごく)
この上なくめでたくよろこばしいこと。
(12)得意忘形(とくいぼうけい)
芸術などで、精神や本質を大切にして、外形のことを忘れること。
または、気分が舞い上がって、我を忘れること。
「意を得て形を忘る」と訓読する。
(13)得意満面(とくいまんめん)
事が思いどおりに運び、誇らしさが顔全体に表れるさま。
「得意」は成功に満足するさま。
(14)不虞之誉(ふぐのほまれ)
偶然手に入れた名誉のこと。
「不虞」は予想外、思ってもいないこと。
手に入れた名誉を謙遜していう言葉。
(15)鳧趨雀躍(ふすうじゃくやく)
大いに喜んで小躍りすること。
「鳧趨」は鳥のかもが小走りに走ることで、かもは体を左右に揺らしながら小走りするということから、小躍りする様子のたとえ。
「雀躍」は鳥の雀が踊ること。
(16)抱腹絶倒(ほうふくぜっとう)
腹を抱えて大笑いすること。
「抱腹」は、腹を抱えること。「絶倒」は、感情が激しくなって平静でいられないこと。また、笑い転げること。
(17)一網打尽(いちもうだじん)
ひと網であたりのすべての魚や鳥獣などを捕らえること。転じて、犯人などをひとまとめに捕らえること。
「一網」は一度網を打つこと。「打尽」は全て捕ること。
網を一度打ち、そこにいる魚を全て取り尽くすという意味から。
(18)一攫千金(いっかくせんきん)
一度にたやすく大きな利益を手に入れること。一つの仕事で巨利を得ること。
「一攫」は一つかみの意。「攫」を「獲」と書くのは本来は誤用。「千金」は大金の意。非常に高価、貴重なことのたとえ。
(19)一挙両得(いっきょりょうとく)
一つの行為で、同時に二つの利益が得られること。一つで二つの利益が得られること。また、わずかな労力で多くの利益を得るたとえ。
「一挙」は一つの動作・行動。
(20)一石二鳥(いっせきにちょう)
一つのことをして、二つの利益を得るたとえ。一つの行為や苦労で、二つの目的を同時に果たすたとえ。一つの石を投げて、二羽の鳥を同時に捕らえる意から。
今では、ここから「一石三鳥」「一石四鳥」などという語も使われる。
(21)一箭双雕(いっせんそうちょう)
一つの行動で二つの利益を得ること。
「箭」は矢、「雕」は鷲。
一本の矢を一回放って、二羽の鷲を射るという意味から。
(22)一発五豝/壹発五豝(いっぱつごは)
一度矢を放つことで五頭の猪(いのしし)を仕留めること。または、五頭だけに抑えて他を見逃すこと。情け深い人の狩りのたとえ。
「一発」は一本ではなく、一度矢を放つこと。
「豝」は雌、または、太った猪のこと。
「五豝(ごは)に一発す」と訓読する。
(23)羽化登仙(うかとうせん)
酒などに酔って快い気分になることのたとえ。天にも昇る心地。羽が生え仙人になって、天に昇る意から。
「羽化」は羽が生えて、空を自由に翔(か)ける仙人になること。「登仙」は天に昇って仙人になる意。
(24)求漿得酒(きゅうしょうとくしゅ)
希望しているものより、善いものが手に入ること。
「漿」はすっぱい飲み物。すっぱい飲み物を欲しがって、酒が手に入るということから。
「漿(しょう)を求めて酒を得(う)」と訓読する。
(25)漁夫之利/漁父之利(ぎょふのり)
両者が争っているすきに、第三者が骨を折らずにその利益を横取りするたとえ。
「漁夫」は漁師。
(26)空谷跫音(くうこくのきょうおん)
ひとけのないさびしい谷で人の足音を聞くという意味で、孤独な生活に思いもかけずに人の来訪を受けることの喜びをたとえていう。
「空谷」は、さびしいひとけのない谷間のことで、「跫音」は、足音の意味。
(27)事半功倍(じはんこうばい)
少しの努力で大きなよい結果を出すこと。
他の人の半分の量の努力で、他の人の倍以上の成果を上げるという意味から。
「事(こと)半(なか)ばにして功(こう)倍(ばい)す」と訓読する。
(28)杓子果報(しゃくしかほう)
運に恵まれること。
「杓子」は菜や汁を盛る道具、「果報」は幸せのことで、杓子に食べ物が山盛りに配られるという意味から。
(29)田父之功(でんぷのこう)
争っているもの同士が両方とも倒れて、その争いとは関係ない人が利益を得ること。
「田父」は農夫のこと。
犬が兎を追いかけ続け、両方ともが疲労で死んでしまい、そこを通りかかった農夫が何の苦労もなく両方ともを手に入れたという話から。
古代中国の戦国時代、魏と戦っても秦や楚の国が喜ぶだけで意味はないと、淳于髠(じゅんうこん)が斉の国の王を諭す時にしたたとえ話から。
(30)豊年満作(ほうねんまんさく)
作物が豊かに実って、収穫の多いこと。
「豊年」は穀物がよく実ること。また、そうした年。「満作」は作物が十分に実ること。
(31)無妄之福/母妄之福/无妄之福(むぼうのふく)
考えてもいなかった幸運が突然訪れること。
「無妄」は予期していなかったことが突然起こること。
2.楽しみ
(1)活計歓楽(かっけいかんらく)
好き勝手に楽しみながら、贅沢な生活をすること。
「活計」は贅沢をすること。
(2)曲肱之楽(きょくこうのたのしみ/きょくこうのらく)
清貧に甘んじて学問に励み、正しい道を行う楽しみ。また、貧しさの中にある楽しみ。
「肱」は、ひじのことで、「曲肱」は、ひじを曲げて腕枕とすること。ひじを枕の代わりにするような貧しい生活という意から。
出典(『論語』述而)の「疏食(そし)を飯(く)らい水を飲み、肱を曲げて之(これ)を枕とす。楽しみ亦(また)其(そ)の中に在(あ)り」による。
(3)琴棋書画(きんきしょが)
教養のある、文人のたしなみのこと。
琴を弾いて囲碁を打ち、書を書いて絵を描くということをいう。
中国では四芸と呼ばれ、文人のたしなみとされ、画題としてもよく用いられる。
(4)苦中作楽(くちゅうさくらく)
苦しい中でも、楽しもうとして作り出すこと。
元は苦しいことばかりの世の中で、それが楽しいと思い込んで、この世界に心がとらわれているという否定的な意味で、そこから苦しいことも苦としないという意味に変わった言葉。または、忙しくても余裕のある生き方のことをいう。
「苦中(くちゅう)に楽(らく)を作(な)す」と訓読する。
(5)心曠神怡(しんこうしんい)
心が大らかで、非常に楽しい気分になること。
「心曠」は心が広く、大らかなこと。「神怡」は心が喜ぶこと。
岳陽楼の上階に登ると、心が広々として愉快な気持ちになり、栄誉も恥も忘れて酒杯をあげ、喜びで胸が一杯になったということから。
「心(こころ)曠(ひろ)く神(しん)怡(よろこ)ぶ」と訓読する。
(6)盤楽遊嬉(ばんらくゆうき)
思いっきり遊んで楽しむこと。
「盤楽」と「遊嬉」はどちらも遊んで楽しむこと。
同じ意味の言葉を重ねて強調した言葉。
(7)遊嬉宴楽/游嬉宴楽/遊嬉燕楽(ゆうきえんらく)
親しくなって、遊んで楽しむこと。または、遊んで楽しむこと。
「遊嬉」は遊んで楽しむこと。
「宴楽」は宴会を開いて一緒に楽しむこと。または、ゆったりとした気持ちで楽しむこと。
(8)愉快適悦(ゆかいてきえつ)
とても楽しくて、気分がよいこと。
「適悦」は満ち足りていて喜ぶこと。
似ている意味の言葉を重ねて強調した言葉。
3.満足
(1)円満具足(えんまんぐそく)
十分に満ち足りていて、少しも不足がないこと。
「円満」「具足」とも、十分に備わっていること。
(2)家給人足(かきゅうじんそく)
生活が豊かで満ち足りているたとえ。どの家にも衣食が十分に行き渡り、だれもが豊かに満ち足りている意から。
「給」は行き渡る、豊かになる意。「足」は十分にある、満ち備わるの意。
「家(いえ)ごとに給(きゅう)し人(ひと)ごとに足(た)る」と訓読する。
(3)心満意足(しんまんいそく)
非常に満足すること。存分に満ち足りた気分になること。
「心満」「意足」はともに心が満ち足りる意。
「心(こころ)満(み)ち意(い)足(た)る」と訓読する。
(4)福徳円満(ふくとくえんまん)
幸福や財産に恵まれ、満ち足りているさま。
「福徳」は幸福と利益の意。「円満」は満ち足りているさま。
4.感謝
(1)一言芳恩(いちごんほうおん/いちげんほうおん)
ちょっと声をかけてもらったことを忘れずに感謝すること。また、一声を賜った恩に感じてその人を主人と仰ぐこと。
「芳恩」は人から受けた親切や恩義の敬称。ご恩・おかげの意。
(2)一宿一飯(いっしゅくいっぱん)
ちょっとした世話になること。また、ちょっとした恩義でも忘れてはいけないという戒めの語。旅先などで、一晩泊めてもらったり一度食事を恵まれたりする意から。
「一宿」は旅先などで一晩泊めてもらうこと。「一飯」は一回の食事をごちそうになる意。
昔、博徒の間では、旅の途中で泊めてもらったり食事を振る舞われたりして世話になると、生涯の恩義とする仁義があった。
(3)一飯君恩(いっぱんくんおん)
一度の食事の恩をいつまでも忘れないこと。
「一飯」は一膳の食事。
少しの恩でも忘れてはいけないという戒めの言葉。
(4)一飯千金(いっぱんせんきん)
わずかな恵みにも厚い恩返しをするたとえ。一膳の食事のようなわずかな恵みにも、千金に値する恩がある意から。
中国漢代、貧しかった韓信(かんしん)が、川で布をさらしていた老婆から数十日の食事を恵まれたが、のちに楚王(そおう)となり出世した韓信は、かつての恩人である老婆を呼んで、千金を報いたという故事から。
(5)一飯之徳(いっぱんのとく)
ほんのわずかな恩義のこと。
一度食事をご馳走になっただけの少しだけの恩義という意味で、そのような少しの恩義でも忘れてはいけないという戒めの言葉。
(6)嘘寒問暖(きょかんもんだん)
人の生活によく気を配ることのたとえ。
寒さを感じている人に暖かい息を吹きかけ、暖かいか寒いか尋ねる意。
「嘘」は吹く、息を吐く意。
「寒(かん)に嘘(ふ)きて暖(だん)を問(と)う」と訓読する。
(7)君恩海壑(くんおんかいがく)
君主から受けた恩は、海や谷のように深いこと。
「君恩」は君主からの恩。「海壑」は海と谷。
海や谷のように深い恩ということから。
(8)報恩謝徳(ほうおんしゃとく)
受けた恩義や徳に対して感謝の気持ちを持ち、見合ったお返しをすること。
「報」は報いる、お返しをすること。「謝」は礼をいうこと。