多くの日本人にとって、ウナギは大好物だと思います。「鰻の蒲焼」「鰻丼」「鰻重」など、「土用の丑の日」でなくてもよく食べます。
現在、世界で獲れるウナギの7割を食べているのが日本人と言われています。
1.「ウナギは海底の泥から生まれる」と考えたアリストテレス
古代ギリシャの哲学者アリストテレス(BC384年~BC322年)は、万物の根源についても考え抜いた自然哲学者です。
科学的な解明を重視して科学の基礎を作り「万学の祖」と呼ばれる彼は、古代世界では東西に類を見ない動物の体系的な研究を行いました。
レスボス島の研究所で魚を解剖し、ほとんんどの魚の卵と精嚢を確認していたそうです。しかしウナギだけは何回解剖しても生殖器が見つけられず、最後に彼は「ウナギは海底の泥から生まれる」と結論付けました。
彼は「動物誌」は「動物発生諭」において、「多数の動物が自然発生する」(自然発生諭)と述べています。エビ・タコ・イカも海底の泥から生まれると考え、ミツバチやホタルは親の体から以外に草の露からも生まれると記しています。
この「蛍が草の露から生まれる」という考え方は、古代中国の「礼記」にある「腐草(ふそう)蛍と為(な)る」という「化生(けしょう)説」に通じるものがあります。
2.ニホンウナギは日本から2500キロも離れて産卵する不思議
アリストテレスの考察以降も、ウナギの生態は長年にわたって謎に包まれていました。
それは生まれたばかりのウナギの赤ちゃんも、お腹に卵を持った親ウナギも見つかっていなかったからです。
かつては、親ウナギが川で獲れることから、ウナギは川辺や河口で一生を過ごすものと思われて来ました。
ウナギの卵や赤ちゃんを探す研究が日本の近海で始まったのは1930年頃です。そしてウナギの赤ちゃんである「レプトケファルス」(「レプトセファルス」ともいう)が台湾の沖合で見つかったのが1967年です。
それ以来、大がかりな調査が進められ、1991年にはフィリピンとマリアナ諸島の間の海で、生まれて間もない「レプトケファルス」を大量に捕獲しました。
そして2009年、日本から約2500キロ離れたマリアナ諸島の西の海域(マリアナ海溝)で、東京大学などのチームが「産卵から一日後のウナギの受精卵」をついに発見したのです。
レプトケファルス(仔魚)が成長しながら黒潮に乗って日本近海にやって来てシラスウナギ(稚魚)になります。レプトケファルスもシラスウナギも体は透明です。
シラスウナギは川を遡上(母川回帰)すると腹が黄白色の「黄ウナギ」になります。その後、川や湖で5~10年成長すると、体全体が黒ずみ、腹が銀色をした「銀ウナギ」に変わります。これが「天然ウナギ」(親ウナギ)です。
なお、この天然ウナギがどうやって2500キロも離れた産卵場所へたどり着くのか、また「レプトケファルス(仔魚)がどうやって2500キロも離れた故郷の川へ帰りつくのか」は、いまだ謎のままです。
3.「ウナギの完全養殖」への挑戦
現在我々が食べているウナギは、99%が「養殖ウナギ」です。これは、シラスウナギの段階で捕獲して養殖したものです。
現在のところ、卵から育てる「完全養殖」は困難なため、養殖に不可欠な天然のシラスウナギは高値で取引され、「白いダイヤ」と呼ばれています。
「クロマグロ」の完全養殖に世界で初めて成功し「近大マグロ」として有名になった「近畿大学水産研究所」は、2019年11月1日に「絶滅が危惧されるニホンウナギの人工孵化に成功した」と発表しました。
飼育期間は最長50日に達し、体長約2センチまで成長したということです。今後は「完全養殖」と「量産」を目指しています。
通常の養殖ウナギから採取した卵と精子を人工授精させてできた受精卵が孵化し、1000尾以上が餌を食べて成長しているとのことでした。
シラスウナギを経て親ウナギになり、次の世代を産卵、孵化する「完全養殖」のサイクルができるまで、3年程度かかる見通しです。
しかし、その後の報道(2020/4/20)によると、2019年に孵化した仔魚は徐々に数が減って行き、最長飼育期間149日、最大体長37mmという記録を残して全滅したそうです。
その後、新たな人工授精を行い、100尾あまりが生き残っているそうです。同研究所の田中秀樹教授は問題点を改善しながら「これからも地道に研究を継続する」とのことです。