私が子供の頃は、昆虫採集の対象としてカブトムシとクワガタムシは双璧で、憧れの的でした。特にカブトムシは「昆虫の王様」とも呼ばれ、高い人気を誇っていました。
今は「オオクワガタ」が一部のマニアに人気のようですが、カブトムシについては、「ヘラクレスオオカブト」などの大型外来種が子供たちに人気となっています。
しかし団塊世代の私は、外来種のカブトムシには魅力を感じられず、日本固有のカブトムシ(ヤマトカブトムシ)に限りない魅力を感じます。
そこで今回は、この日本固有のカブトムシの秘められた生態をわかりやすくご紹介したいと思います。
1.幼虫は堆肥の中で腐葉土を食べて成長する
カブトムシの幼虫の食糧は腐葉土(腐植土)です。普通、里山の近くの田畑に積み上げられた堆肥の中に産み付けられた卵から幼虫が孵り、腐葉土を食べて成長します。
カブトムシは高山や人里離れた森の中ではなく、平地にある田畑の近く(卵時代、幼虫時代、蛹時代)や里山の入り口付近の雑木林(成虫時代)に生息し、農耕や炭焼きをしたり薪を利用する昔からの日本人の生活と密接に関係しているのです。
カブトムシは「完全変態」で、卵→幼虫(1齢幼虫→2齢幼虫→3齢幼虫)→蛹→成虫と変態します。
カブトムシの幼虫は、極めて食欲旺盛で下の画像のような糞を大量にしますが、この腐葉土には、普通の腐葉土の約4倍の窒素が含まれています。
カブトムシの幼虫がいる腐葉土に含まれる窒素とリンは、幼虫の体内で分解され、植物が吸収しやすい水に溶けやすい形になったものです。つまり、カブトムシの有機農法で、樹木とは「共生関係」にあるのです。
カブトムシの幼虫は典型的なジムシ(地虫)型(丸まった不活発な虫)です。孵化直後の幼虫は、大きさ7~8mmほどで真っ白ですが、数時間もすると頭部が茶色く色づき硬化します。
胴体は柔らかく弾力性があり、餌を食べることによって膨張していきます。幼虫は腐葉土(腐植土)や柔らかい朽木を食べて成長し、ある程度育つと脱皮します。
孵化から早いもので1ヵ月程度で、遅いものでも晩秋までには終齢である3齢幼虫となり、そのまま越冬します。この時点で体長10cmほどになっています。
https://youtu.be/X2JyhHthI2Q
2.堆肥の中で蛹になる
冬を過ごした3齢幼虫は、4月下旬から6月頃にかけて体からの分泌液や糞で腐葉土中に縦長で楕円形の蛹室を作り、そこで3回目の脱皮をして蛹になります。
蛹室の内壁は、蛹の表皮にダメージを与えることがないように平滑に仕上げられています。オスの場合は蛹に脱皮する時に頭部に角ができます。
蛹は初め白いですが、橙色、茶色を経て頭部や脚は黒ずんできます。やがて蛹の殻に割れ目が入り、脚をばたつかせながら殻を破って羽化します。抜け殻は押しつぶされ原形をとどめません。
羽化したばかりの成虫の鞘翅(しょうし、さやばね)はまだ白く柔らかいですが、翅を伸ばしてしばらく経つと黒褐色もしくは赤褐色に色づき硬化します。
3.成虫となって近くの里山の雑木林で樹液を吸って生活する
成虫は羽化してから2週間程度は何も食べず土中で過ごした後、初夏の夜間の気温が20度を上回る日が続くと、夜を待って地上に姿を現します。
温暖な地域では5月下旬頃から、涼しい高地では7月初旬と地域や気候により出現する時期に若干ばらつきがあります。
大体6月~7月の蒸し暑く風のない夜に一斉に飛び立ち、野生の成虫は遅くとも9月中には全て死にます。
成虫の形態で越冬することはありませんが、飼育下では12月~翌年1月まで生きる例があります。
オスの方が活動的なためかやや短命な傾向があります。成虫の寿命は1~3ヵ月ほどで、外気温と餌の量に大きく左右されます。
気温が低くなると動きが鈍くなり、また自然界では樹木も落葉に向かい樹液が止まるのでこれが影響します。
成虫は基本的に「夜行性」で、昼間は樹木の根元、腐葉土や枯れ葉の下などで休み、夕暮れとともに起き出して餌場の樹液まで飛んでいきます。
成虫の口器(小顎)には艶のある褐色の毛が密生していて、これに毛細管現象で樹液を沁み込ませ、舐めとるようにしながら吸います。
上の画像はカブトムシで満員の「樹液酒場」です。「3密」もいいところですね。
夜明け前には再び地面の下に潜り込みますが、餌場争いに負けたなど、何らかの理由で夜間餌にありつけなかった場合や、産卵期のメスは日中でも摂食を続けていることがあります。
私が小学4年生の夏休みに、初めて昼間に昆虫採集に出かけた時はメスのカブトムシしか見つけられませんでしたが、今考えればこれは当然の結果です。
クヌギやコナラなどの樹液によく集まりますが、樹皮が柔らかく容易に樹液を分泌するシマトネリコでは昼夜を問わず摂食するそうです。
なお樹液には、カブトムシだけではなく、クワガタムシやカナブン、スズメバチやオオムラサキやルリタテハ、ゴマダラチョウなどの蝶も集まって来ます。
成虫を飼育する時の餌は、私が子供の頃はスイカを与えてしましたが、ほとんど水分なのですぐに排泄してしまいました。当時の私は「下痢をした」と勘違いしていました。
樹液にはアルコールと酢酸の成分が含まれており、スイカとは大違いです。成虫を飼育する場合は、焼酎でもよいかもしれませんが、ホームセンターなどで売っている「昆虫ゼリー」を与えるのが一番手軽でよく食べます。ただし、成虫が「昆虫ゼリー」の容器をひっくり返して腐葉土の昆虫マットが汚れたりするので注意が必要です。
なお、本来の生息北限地は青森県で、北海道にはもともと分布していませんでしたが、カブトムシ養殖業者などによって人為的に持ち込まれ、逃げ出したり放たれたものが、1970年代から「国内外来種」として定着しています。
カブトムシは飛ぶのが苦手で、津軽海峡を越えて北海道に渡ることは不可能です。カブトムシが飛ぶのが難しいのは、体が大きい割に翅が小さいためです。
4.交尾後に里山の腐葉土や近くの田畑の堆肥に卵を産み付ける
交尾を終えたメスは、夏の終わりに腐葉土や里山近くの田畑に積み上げられた堆肥の中に潜り込み、卵を産み付けます。
一度に産卵するのではなく、摂食・産卵の行動を数回にわたって繰り返し、合計20~30個程度の卵を産みます。
卵は直径2~3mm程度で最初は硬く楕円形をしており、数日経つと直径4~4.5mmほどに丸く膨らみ柔らかくなってきます。
色は乳白色からくすんだ薄茶色になり、2週間ほどで孵化します。
5.カブトムシの天敵
(1)幼虫の天敵
コメツキムシやツチバチの幼虫、アリなどの昆虫やモグラです。イノシシも堆肥等を掘り返して幼虫を食べます。ほかにもカビやウイルスによる病気で死ぬこともあります。
(2)蛹の天敵
蛹室にミミズが入ってくると蛹は死んでしまいます。
(3)成虫の天敵
タヌキ、イノシシなど森に棲む動物、カラスやフクロウなどが天敵です。
また、致命傷には至りませんがカブトムシに寄生するカブトホソトゲダニ、タカラダニの亜種などがいます。