「舞妓さん」と言えば、京都・祇園小唄・お座敷遊びなどの言葉が思い浮かびますが、四季折々にはどのような行事があるのでしょうか?
1.舞妓さんの四季
(1)新春
①始業式(1月7日)
「始業式」とは、祇園甲部の八坂女紅場(にょこうば)学園や、宮川町の東山女子学園、祇園東ではお茶屋組合の二階でそれぞれ行われる始業式のことです。
正装の黒紋付を着て、かんざしと本物の稲穂を挿した芸妓・舞妓さん、学園の先生、お茶屋の女将などが一斉に揃います。
最後は京舞井上流家元井上八千代師の「倭文(やまとぶみ)」の舞で締めくくられます。
②十日ゑびす「のこり福祭」(1月11日)
商売繁盛の神であるゑびす神、いわゆる「えべっさん」の誕生日を祝って行われる十日ゑびすは、その徳にあやかろうと多くの人が詰めかけます。
9日の宵ゑびすに始まり、10日は大祭、11日は「のこり福祭」で、恵比寿神社に縁の深い祇園甲部や宮川町の舞妓さんたちが、福笹の授与を行います。
③初寄り(1月13日)
12月13日の「事始め」で一年を締めくくり、正月準備を始めた芸妓・舞妓さんたちは、正月や「始業式」を終えて、一か月後の1月13日に、再び五世井上八千代師宅に顔を揃え、一層の精進を誓い合います。
④節分(2月2日・3日)
祇園甲部、宮川町、祇園東が氏子になっている八坂神社の節分祭では、厄除け・健康・幸福を祈る神事と芸妓・舞妓さんによる奉納舞と豆まきが行われます。
⑤節分お化け(2月3日)
節分の日、花街では夜になると、「お化け」という行事が行われます。仲良しの若い芸妓・舞妓さんが、グループで仮装してお座敷を回ります。
「白波五人男」「越後獅子」など伝統的なものに扮するグループもあれば、最近ヒットした映画の主人公やその年話題になった有名人に変身したり、歌舞伎のまねをしたりと様々な工夫をこらします。
(2)春
①大石忌(3月20日)
「大石忌」は、歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」の七段目「祇園一力茶屋の場」で知られている四条花見小路の角にあるお茶屋「一力亭」で行われる行事です。
大石内蔵助の命日である3月20日、「一力亭」内に祀られている四十七士の霊前には討入り蕎麦や大石の好んだものが供えられます。
馴染みのお客さんだけを招いて、「深き心」を井上八千代師が舞い、芸妓・舞妓3人が地唄「宿の栄」を舞います。
②都をどり(4月1日~30日)
京都の春と言えば「都をどり」です。
都をどりは、祇園甲部の芸妓・舞妓さんたちが日頃の稽古の成果を披露する祭典で、国内のみならず海外でも「チェリーダンス」として知られています。
つなぎ団子の提灯の下、「都をどりはぁ~、よ~いやさ~」の掛け声で始まる幕開けは、明治5年に開催された京都博覧会の付博覧として始まった第一回公演から今まで変わらずに続いています。
③京おどり(4月第1土曜日~第3日曜日)
宮川町では4月の第1土曜日から第3日曜日まで、東山女子学園と同じ建物内の宮川町歌舞練場で「京おどり」を開催します。
(3)夏
①都の賑わい(6月第2金・土・日曜日)
五花街の合同伝統芸能特別公演で、平成6年から毎年行われていて、各花街の芸妓・舞妓さんが一堂に揃い、それぞれ趣向を凝らした演目で芸を披露します。
各花街から4人ずつ、総勢20人の舞妓さんと地方8人による豪華な舞台になり、フィナーレは「舞妓の賑わい」で、五花街の舞妓さんが勢ぞろいします。
②みやび会お千度(7月初旬)
祇園祭が始まった頃、祇園甲部では毎年新調する揃いの浴衣を着た芸舞妓が、師匠の井上八千代師とともに八坂神社にお詣りし、芸の上達や健康を祈願する会です。
浴衣姿で日傘をさして詣でる姿は、夏らしい爽やかな風景です。
③花笠巡行(7月24日)
花笠巡行は祇園祭の「後祭」として7月24日に催され、山鉾の古い形態を再現するために始められました。
祇園囃子の曳山や傘鉾などの総勢千人の行列が、八坂神社の石段下~四条河原町~御池通~寺町通~四条通~八坂神社へと、京の街を練り歩きます。
各花街の芸妓・舞妓さんたちも、踊り衣裳に身を包み、山車に乗って華やかに行列に参加します。
④花笠巡行奉納舞(7月24日)
京の街を練り歩き、八坂神社へと帰って来た芸妓・舞妓さんたちは、その後八坂神社の舞殿で「花笠巡行奉納舞」を舞います。
⑤祇園祭宵宮神賑奉納(7月16日)
祇園祭の宵山の7月16日、祇園商店街主催の「祇園祭宵宮神賑奉納」が行われます。夕方6時頃、歩行者天国になる四条通切り通し西の仮設舞台で、太鼓や鷺踊りなどさまざまな芸能奉納が行われます。
夜7時頃になると、花見小路東の仮設舞台で芸妓・舞妓さんが華やかな京舞を舞います。
⑥八朔(8月1日)
「朔日」というのは1日のことで、「八朔」は8月1日のことです。もともとこの八朔は「たのむ」とか「たのみ節」などと言い、頼む人、お世話になった人へお礼をする日のことです。
芸妓・舞妓さんたちが絽の黒紋付きという正装で、師匠宅やお茶屋などへ挨拶回りをします。
(4)秋
①温習会(10月1日~6日)
「温習会は、日頃京舞井上流の研鑽に励んでいる祇園甲部の芸妓・舞妓さんたちが、技芸を披露する行事です。
②祇園をどり(11月1日~10日)
祇園東では、11月1日から10日まで「祇園をどり」を開催します。前身は祇園東の‿歌舞練場だった「祇園会館」(平常は映画館として使用)で華やかに繰り広げられます。
③かにかくに祭(11月8日)
祇園を愛し、たくさんの作品を残した劇作家であり明星派の歌人であった吉井勇(1886年~1960年)を偲ぶ行事で、祇園白川畔の歌碑に芸妓・舞妓さんが菊の花を献花します。
「かにかくに祭」とは、吉井勇が詠んだ「かにかくに 祇園は恋し 寝る時も 枕の下を 水の流るる」という歌にちなんで名付けられました。
歌碑が建立された11月8日を記念して毎年行われ、当日は歌碑の前にお茶や蕎麦の席が設けられ、芸妓・舞妓さんが接待します。
④時代祭(10月22日)
「時代祭」は、明治28年に平安遷都千百年記念事業で、平安神宮が創建されて以来行われている祭で、「京都三大祭り」のうちの一つです。
京都御所を出発して平安神宮まで、明治から平安時代に至るまでの時代の衣装を着て、歴史上の人物に扮した行列が続きます。
芸妓・舞妓さんも、紫式部、清少納言、小野小町、静御前、巴御前などに扮装して参加します。
(5)冬
①顔見世総見(12月初旬)
京の師走の風物詩「顔見世興行」は、出雲の阿国が始めた歌舞伎の発祥地であった南座で、東西の人気役者を集めて行われます。
この歌舞伎興行の間、各花街の芸妓・舞妓さんが揃って観劇することを「顔見世総見」と言います。
南座の桟敷席は華やかに装った芸妓・舞妓さんたちが陣取り、花が咲いたようで、それを目当てに来るお客さんも多いようです。
②事始め(12月13日)
「事始め」は、江戸時代から京に伝わる古い習わしで、煤払いをして正月の支度を始めることから、正月起こしとも言ったようです。
祇園甲部では、芸妓・舞妓さんが一重ねの鏡餅を持ち、京舞の井上八千代師匠のもとへ、一年の締めくくりと新年に向けての挨拶に行きます。
八千代師は「おきばりやっしゃ」という言葉とともに、一人一人に舞扇を手渡します。
③おことうさん(12月31日)
暮れも押し迫った12月30日は、舞妓さんの仕事納めです。
翌大晦日の31日は、お世話になっているお茶屋さんを回って「おことうさんどす(お事多うさんです)」と挨拶します。
ご褒美にいただく餅皮でできた紅白の福玉は、元旦のお雑煮をいただく前に割るもので、中には七福神などの縁起物や、身の回りの小物が入っています。
2.舞妓さんについて
(1)舞妓とは
「舞妓(まいこ)」とは、「京都の五花街において、舞踊・御囃子などの芸で宴席に興を添えることを仕事とする若い女性のこと」です。芸妓(げいぎ)の見習い修行段階の者のことです。
ちなみに「五花街」とは、上七軒(かみしちけん)・先斗町(ぽんとちょう)・宮川町(みやがわちょう)・祇園甲部(ぎおんこうぶ)・祇園東(ぎおんひがし)の花街のことです。
舞妓・芸妓は、今から約300年前の江戸時代に、京都の八坂神社(当時は「祇園社」)のある東山周辺の、神社仏閣へ参詣する人や街道を旅する人にお茶をふるまった「水茶屋(みずぢゃや))」の「茶立女(ちゃたておんな)」が起源とされています。
(2)舞妓さんの苦労
インターネットを通して舞妓志望者を募る「置屋」もあり、近年はブームのせいもあって舞妓志望者は増える一方ですが、昔気質のつらい修行に耐え切れず辞めていく人も多いようです。
また祇園の舞妓さんは京都以外の出身者が多く、京都弁を習得するのにも苦労するそうです。
2014年に公開された周防正行監督の映画「舞妓はレディー」では、きつい訛りの鹿児島弁と津軽弁をしゃべる主人公の少女が、苦労を重ねながら舞妓を目指す成長物語でした。
この「舞妓はレディー」は、オードリー・ヘップバーン主演の映画「マイ・フェア・レディー」をもじったものです。ストーリーも「少女の訛りを矯正していく」という点で似ています。
(3)舞妓パパラッチ
コロナの感染拡大で入国制限が行われ、外国人観光客が来なくなって、最近は見かけなくなりました。
しかし「インバウンド」と呼ばれる中国人などの観光客が大挙して京都に押し寄せていた昨年までの「舞妓さんへの迷惑行為」は目に余るものがありました。
まさに「舞妓パパラッチ」とも呼ぶべき現象でした。
今後コロナが収束した後は、マナーの悪い外国人観光客への対策を十分に行ってほしいものです。