1.缶詰の魚の骨はなぜあんなに柔らかくなるのか?
魚の嫌いな人には「骨があるのでイヤ」という人も多いと思います。私は魚が好きですが、タイなどは特に硬い骨があるので刺さらないように特に注意しています。
鮭なども細長い「小骨」なら細かく噛み砕いて食べるようにしていますが、背骨などは硬すぎて到底噛み切れません。
しかし、缶詰の鮭になると、太い背骨もボロボロに砕けるほど柔らかくなっており、簡単に食べられます。
私は子供の頃、脂っこいけれども値段の安い「サバ缶」をたくさん食べさせられて辟易した記憶がありますが、値段は高いけれどもあっさりした「鮭缶」は大好きでした。特に骨まで柔らかくて食べられ、そのボロボロ(「ポロポロ」と表現すべきか?)と砕ける骨の食感がとても気持ちよかった記憶があります。
では缶詰の魚の骨はなぜあんなに柔らかくなるのでしょうか?
2.骨を構成する成分
その理由を知るには「骨を構成する成分」を知る必要があります。
「骨=カルシウム」と思っている人も多いと思いますが、実は骨は様々な物質が複雑に組み合わさってできています。
骨を構成する主な成分は次の3つです。
①リン酸カルシウム:70%
②コラーゲン:20%
③水分:10%
この比率は「重さの比率」で、「体積の比率」に直すと、「リン酸カルシウム」と「水を含んだコラーゲン」とはほとんど半々くらいです。
3.骨が本来丈夫で硬い理由
それでは骨が本来丈夫で硬いのはなぜでしょうか?
コラーゲンは、お肌の張りやプルプル感を出すために欠かせない物質です。骨の半分がコラーゲンなら、骨は「グミ」キャンディーのようにプルプルになってもおかしくないように思いますが、そうではありません。
骨は「リン酸カルシウムの間をコラーゲンが埋めるような構造」になっているのです。
リン酸カルシウムの塊はとても脆く、少しの衝撃でポロっと崩れてしまいます。しかしリン酸カルシウムの間にコラーゲンが詰まっていると、コラーゲンが衝撃を吸収してくれるため、強い衝撃があってもしなやかに吸収されるのです。
コラーゲンだけではプルプルで体を支えられません。一方リン酸カルシウムだけでは脆すぎます。両者が組み合わさることで「丈夫で硬い骨」ができるのです。「硬軟併せ持つ」といったところでしょうか?
4.缶詰の魚の骨がボロボロに柔らかくなる理由
それでは本来丈夫で硬い骨が、缶詰になるとボロボロに柔らかくなるのはなぜでしょうか?
理由は「リン酸カルシウムとコラーゲンの結び付きがなくなってしまっているから」です。
魚の缶詰を作る際は、魚を「圧力鍋で加熱調理」します。こうして「高温高圧で調理するとリン酸カルシウムの間のコラーゲンは縮んで溶け出してしまう」のです。
コラーゲンが溶け出すときの温度は120℃で、これ以上の高温高圧で加熱すると、リン酸カルシウムの間のコラーゲンがかなり縮んで、やがて溶け出してしまうのです。
その結果魚の骨はただのリン酸カルシウムの塊になってしまい、ボロボロともろくて柔らかい状態になるのです。
ちなみに、魚の缶詰には時々「煮凝り(にこごり)」のようなゼラチン質の物が入っていることがありますが、あれは骨から溶け出したコラーゲンです。