皆さんは「アブラカダブラ」という呪文の言葉を一度はお聞きになったことがあると思いますが、どんなイメージが浮かぶでしょうか?
「魔法使いが使う呪文みたいなもの?」
「ハリーポッターででてくるあの呪文?」
「ディズニーでも魔法の呪文として出てくるけど…」
確かに「アブラカダブラ」は「魔法」にかかわるいろんなシーンで出てきます。歌詞になったり、ファンタジー小説の呪文に登場したりもします。
ディズニーランドでは「ミッキーのマジック☆ワールド」などで「アブラカダブラ」と唱えるとミニーの身体が宙に浮いていくアトラクションなどでも使用されています。
しかし、あらためて「アブラカタブラってどんな言葉か」と聞かれると答えに詰まってしまいますね。
私は小学生の頃に、「魔法のじゅうたん」というNHKの子供向けテレビ番組で初めて知りました。
アラビアの魔法使いに扮した黒柳徹子さんが「アブラカダブラ」と唱えると、「魔法のじゅうたん」に乗った黒柳徹子さんと小学生2人のゲストが舞い上がり、自分たちの小学校を空から訪問するという趣向のコーナーが、番組の最後にありました。
ところでこの「アブラカダブラ」という呪文は一体どういう意味なのでしょうか?またその語源・由来は何なのでしょうか?
1.「アブラカダブラ」とは
アブラカダブラ(Abracadabra、またはAbrakadabra)は、世界中で広く用いられている手品ショー等での呪文です。
歴史的には、お守りに刻印された際に治癒力を持つと信じられていました。
2.「アブラカダブラ」という呪文の意味
weblio辞書『三省堂 大辞林』によると、「アブラカダブラ」の意味は次のようになります。
①魔よけの呪文。
②わけのわからないこと。ちんぷんかんぷん。
一説(ほかにも説があります。後述)によると、アブラカダブラは「アラム語」です。「アラム語」はシリア地方やメソポタミアで使われていた言語です。
時代的にはB.C.500年~A.D.600年頃まで話されていた言葉ですが、現在もレバノンの一部では話されている言葉です。
アブラカダブラという呪文の意味は「この言葉のようにいなくなれ!」です(ほかにも説があります。後述)。
ハリーポッターでヴォルデモートなどが使う「アバダ・ケダブラ」も、「アラム語」が由来とされています。「死の呪い」の呪文で一瞬で相手の命を奪う呪文として有名ですね。
3.「アブラカダブラ」という呪文の語源・由来
オックスフォード英語辞典によると、アブラカダブラという言葉が初めて書物に登場するのは2世紀のセレヌス・サンモニクス(*)の詩集ですが 、その語源は不明とのことです。
(*)サンモニクスについて
この呪文に言及した最古の書物はサンモニクスの詩集『De Medicina Praecepta』(もしくLiber Medicinalis)です。
サンモニクスはローマ帝国皇帝カラカラ(188年~217年)の内科医であり、病苦に悩まされるカラカラに対して、この三角形の形に書かれた言葉のお守りを身に着けるよう求め、このお守りの力が致命的な病気を消滅させると説明しました。
実弟のゲタやアレクサンデル・セウェルスを含む他のローマ帝国の皇帝は、サンモニクスの医学的教え(呪術も行なっていた可能性あり)を信奉していました。なお、208年にローマ皇帝アレクサンデル・セウェルスの侍医クウィンテス・セレヌス・サモニカスがアブラカダブラに初めて言及したともされます。
アブラカダブラはバシレイデース分派のグノーシス派によって、病気や災難に対して有益な精神的救済を発動する魔法の呪文として使われました。お守りとして身につけたアブラクサスの石が発見されています。やがて、その使用はグノーシス派を超えて広がりました。
清教徒大臣インクリース・マザーは、権力を奪うとしてその言葉をやめさせました。 ダニエル・デフォーは『ペスト』で、ロンドンのペスト大流行(ロンドンの大疫病)時に病気を予防するために「アブラカダブラ」を出入口に貼ったロンドン住民を軽蔑的に記述しましたが、このデフォーの言及で有名になった面もあります。
しかし、アレイスター・クロウリーはそれを偉大な力を持つものだと見なしました。 彼はその本当の形はアブラハダブラだと言い、この言葉を真理のひとつとする宗教を創設しました。
この言葉は現在、魔法の演技の呪文として、様々な作品で一般的に使用されています。
アブラカダブラの語源・由来については、ある民族の言語が由来だという仮説がいくつかあります。
(1)「アラム語」が由来とする仮説
①私は言葉のごとく物事をなせる
アラム語のאברא כדברא (avra kedabra または avra K’Davarah) を語源とする仮説です。これを英訳すると「I will create like the word」となり、日本語では「私は言葉のごとく物事をなせる」という意味になります。
②この言葉のようにいなくなれ
アラム語のאבדא כדברא (abhadda kedhabhra) を語源とする説です。これを英訳すると「Disappear like this word」となり、日本語では「この言葉のようにいなくなれ」という意味になります。
この文章は、病気の治療に用いられたと考えられています。日本語の「痛いの痛いの飛んでいけ!」や「ちちんぷいぷい」と似たようなものですね。
「アブラカタブラ」が初めて登場するセレヌス・サンモニクスの詩集では、「アブラカタブラ」は致命的な病気を消滅させる呪文、お守りとして紹介されています。
「アブラカタブラ」のアルファベット表記「ABRACADABRA」を三角形のかたちで、その文字が1文字ずつ減っていくように書き、それをお守りにしていたようです。
不思議なことで「ABRACADABRA」を1文字ずつ減らして書いていくと、上辺には「ABRACADABRA」、左辺は「AAAAAAAAAAA」という文字が並ぶのですが、文字が減少する右辺も「ABRACADABRA」という文字の並びになります。
「アブラカタブラ」の持つ文字の力と、この表記の神秘的な並びに、古代の人々は神のような治癒の力を感じたのかもしれません。
ちなみに、意味の部分でご紹介した「わけのわからないこと」とは、このような意味不明なアルファベットの並びからきていると言われています。
(2)「ヘブライ語」が由来とする仮説
①私が話すように物事が創造する
ヘブライ語の言葉で、「I will create as I speak(私が話すように物事が創造する)」という意味のフレーズです。
②祝福と疫病
ヘブライ語のha-brachahと、dever(をアラム語化させたdabra)を語源とする説です。
ha-brachahは「祝福」を意味します(呪いの婉曲表現でもある)。一方、deverは「疫病」を意味します。
(3)「ラテン語」や「ギリシャ語」が由来とする仮説
①アブラクサスとアブラカラン
ラテン語やギリシア語の類似した言葉アブラクサス(abraxas)を語源とする説。また、シリア人の神・アブラカラン (Abracalan または Aracalan) を語源とする説もあります。
しかしながら、オックスフォード辞典オンライン版(2017年)によると「様々な予想を裏付ける証拠は見つかっていない」とあり、依然として語源は不明です。