二十四節気の季節感溢れる季語と俳句 仲春:啓蟄・春分(その3)生活

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啓蟄

前回まで、「ホトトギス派の俳人」16人(「ホトトギス派の俳人(その16)杉田久女:虚子との確執で有名な悲運の女流俳人」など)と「ホトトギス派以外の俳人」14人(「ホトトギス派以外の俳人(その14)長谷川かな女:大正期を代表する女流俳人」など)を紹介する記事を書いてきました。

ホトトギス派は、「客観写生」「花鳥諷詠」「有季定型(季語のある定型俳句)」を旨としましたが、それに飽き足りない俳人たちが、「無季俳句」や「自由律俳句」などを標榜する「新興俳句運動」を起こしました。

私は、「新興俳句運動」を全否定するつもりはなく、それなりの歴史的意義はあったと思います。しかし、私はやはり季節感溢れる「季語」を詠み込んだ「定型俳句」に魅力を感じます。

そこには、現代の私たちの生活から失われつつある(一部はほとんど失われた)季節感が溢れており、「懐かしい日本の原風景」を見るような気がします。

そこで今回から、「二十四節気」に沿って季節感あふれる「季語」と俳句をご紹介していきたいと思います。

なお、前に「季語の季節と二十四節気、旧暦・新暦の季節感の違い」という記事も書いていますので、ぜひご覧下さい。

季語の季節対比表

二十四節気図

「春」は旧暦1月~3月にあたり、「初春」(立春・雨水)、「仲春」(啓蟄・春分)、「晩春」(清明・穀雨)に分かれます。

今回は「仲春」(啓蟄・春分)の季語と俳句をご紹介します。

・啓蟄(けいちつ):新暦3月5日頃です。「二月節」 冬ごもりしていた地中の虫がはい出て来ます。

・春分(しゅんぶん):新暦3月20日頃です。「二月中」 太陽が真東から昇って真西に沈み、昼夜がほぼ等しくなります。

4.生活

(1)あ行

・あけびの芽漬(あけびのめづけ):春先に通草(あけび)の蔓(つる)から萌え出た若芽を塩漬けにしたもの

・朝顔蒔く(あさがおまく):春、朝顔の種を蒔くこと

生えずとも よき朝顔を 蒔きにけり(高浜虚子)

・朝鷹狩(あさたかがり):「鳴鳥狩(ないとがり)」の別称

朝鷹の 眼に有明の うつりかな(正岡子規)

・朝鳥狩(あさとがり):「鳴鳥狩(ないとがり)」の別称

・麻蒔く(あさまく):春、3〜4月頃に麻の種を蒔くこと

油売 麻蒔き居れば 来(きた)るなり(松瀬青々)

・網場(あば):木流しで流れて来た材木を止める所

・筏祭(いかだまつり):初春のいかだ流しの事始め。木材業者が製材原料の初荷の到着を祝ったもの

・一年生(いちねんせい)

・芋植う(いもうう):里芋、八つ頭、唐の芋などはふつう3、4月のころ種芋である子芋を植えつける。湿気を好むので高温多湿で水もちがよく、比較的日陰の多い土地を選んで畑とする。サツマイモ、ジャガイモの場合は芋という字は使わない

芋植ゑし 日に降りそめて 雨十日(正岡子規)

・藷苗(いもなえ):親芋から子芋を切りとったもの

・芋の芽(いものめ):貯えておいた芋から出た芽

・植木市(うえきいち):植樹に好適である春に、植木を売る市。この頃の社寺の縁日などでは、よく植木市が立ち並び、行きかう人々の目を楽しませる。 若芽が萌え立ち、莟をふくらませた植木の姿に、瑞々しい春の訪れを実感する

植木市

・五加茶(うこぎちゃ):「五加(うこぎ)」(ウコギ科の落葉低木)の若葉の入った茶。

・五加飯(うこぎめし):「五加(うこぎ)」(ウコギ科の落葉低木)の新芽を摘み採って塩茹でにし、炊き立てのご飯に混ぜたもの。香りが強く見た目もも鮮やかで、春先ならではの味わい

西行に 御宿申さん うこぎ飯(小林一茶)

・渦潮(うずしお):渦を巻く潮。春が潮の干満の差が最も大きいので春の季語とされる

渦潮

・厩出し(うまやだし):冬のあいだ厩で飼っていた牛馬を、春になって野に放つこと

厩出し 

頂に つらなる雪に 厩出し(前田普羅)

・覚狩(おぼえがり):「鳴鳥狩(ないとがり)」の別称

・温床(おんしょう):人工的に温熱を加え促成栽培する苗床

(2)か行

・外套脱ぐ(がいとうぬぐ):春になって暖かくなり、防寒用の外套や角巻きマントを脱ぎ軽装になること。現在でいえば、オーバーコートを用いなくなること

・垣繕う(かきつくろう)/垣手入れ(かきていれ):雪解けを迎え、風雪に傷んだ垣根を繕うこと

・学年試験(がくねんしけん):各学年末に行なわれる試験

・株分(かぶわけ):春先の根分のこと

・南瓜植う(かぼちゃうう):春、3月頃に南瓜の種を蒔くこと

・南瓜蒔く(かぼちゃまく):南瓜の種をまくこと。じかまき栽培では、4月下旬から5月下旬を目安に種をまき、7月下旬から8月にかけて収穫する

・辛皮(からかわ):食用とするための山椒の木の皮のこと。江戸時代には、鞍馬あたりの杣人が山椒の木を10cmばかりに切り揃え、大釜で煮て皮をはぎ、それを売り歩いたという。酒と醤油で煮詰めて食す。現在でも「からかわ」という商品名で売られている

・観潮(かんちょう):渦潮を見物すること。春の彼岸の頃の大潮に干満の差が一年中で最も大きくなる。その落差を埋めるため海水が渦巻を造り出す。鳴門海峡の渦潮は壮観であり、見物の為に観潮船が出る

・観潮船(かんちょうせん):春、潮の干満の差が最も大きい頃、渦潮を観る船

・聞すえ鳥(ききすえどり):「鳴鳥狩(ないとがり)」の別称

・菊根分(きくねわけ)/菊の根分(きくのねわけ):春先、菊の根を掘り起こすと、親根からいくつもの細根が分かれて芽を出している。その細根についた芽を切り離して植えること

根分けして 菊に拙き 木札かな(小林一茶)

垣ごしに 菊の根分けて もらひけり(正岡子規)

・菊分つ(きくわかつ):春、菊の株根から萌え出した芽を分植・増植のため根分すること

・北窓開く(きたまどひらく):冬の間、寒さを防ぐために閉め切っていた北の窓を春になって開け放つこと。暑さ寒さも彼岸までといい、春の彼岸前後に行うことが多い。春の訪れを、風や光の取り入れとともに感じるのである

・木流し(きながし):筏を組む網場(あば)まで伐採した材木を出すこと。丸太を並べてそれに材木を滑らせたり、堰を作っておいて、流れに落とした材木を一気に流したりする

木流し

・木の芽漬(きのめづけ):普通木の芽といえば山椒をさすが、雪深い東北などでは通草(あけび)の新芽をさす場合もある。この通草や、山椒の新芽を摘み取り塩漬けにしたもの。京都の鞍馬が有名で、これは山椒の新芽と昆布を醤油で長時間煮たもの

蓋とれば 去年(こぞ)の香(か)もあり 木芽漬(宜石

・木の芽煮(きのめだき):春先に萌え出た山椒の芽を、昆布とともにを細かく刻んで醬油で煮しめたもの

・木の芽田楽(きのめでんがく):山椒の若芽を木の芽といい、これを擂りつぶし味噌と混ぜ、長方形に切った豆腐に塗り焼いたもの。緑が美しく香ばしい

木の芽田楽

・及第(きゅうだい):試験に合格すること

・胡瓜蒔く(きゅうりまく):春、キュウリの種を蒔くこと

・切接(きりつぎ):接木法の一つ

・枸杞飯(くこめし):枸杞はナス科の落葉低木。その新芽を摘み取ってご飯に炊き込ん
だもの。滋養のあるたべもので、それを好んで食べた天海和尚(*)は108歳まで生きたとされる

(*)天海(てんかい)(1536年?~1643年)は、安土桃山時代から江戸時代初期にかけての天台宗の僧、大僧正。徳川家康の側近として、江戸幕府初期の朝廷政策・宗教政策に深く関与した。姿を変えて生き残った明智光秀であるという説まである(天海=明智光秀説)

・草の餅(くさのもち)/草餅(くさもち):蓬の柔らかい新芽を餅に搗き込んで作るが、近年では冷凍保存した蓬もよく使われる。香りのよさと若草色が特徴で、餡を包んだものもある。蓬餅ともいうが、かつては母子草(春の七草のひとつ、ごぎょう)を使ったので、母子餅ともいった。現在も地方によっては、母子草を使った草餅が作られている。草の香りが邪気を祓うとして、3月3日の上巳の節句に食べる風習があった

草餅

両の手に 桃と桜や 草の餅 (松尾芭蕉)

おらが世や そこらの草も 餅になる(小林一茶)

草餅の 重の風呂敷 紺木綿(高浜虚子)

草餅の やはらかしとて 涙ぐみ(川端茅舎)

草餅の 濃きも淡きも 母つくる(山口青邨)

・管流し(くだながし):「木流し」の別称

・車組む(くるまくむ):冬場しまわれていた大八車などを組み立てること。雪国では冬場、橇(そり)が重宝されるが、雪が消えれば車にとって変わられる

・車出す(くるまだす):冬の間、心棒から車輪をはずして別々に納屋にしまっておいた車を、春に組み立てること

・桑解く(くわとく)/桑ほどく(くわほどく):冬の間、雪や風による倒伏防止のために藁縄で括っておいた桑の枝を、春の訪れとともに解き放つこと

・鶏頭蒔く(けいとうまく):鶏頭はヒユ科の一年草で、8月から11月頃まで花を咲かせる。こぼれ落ちた種が自然と芽吹くことが多いが、種まきをするのは、花を咲かせたい時期からさかのぼって、2~3ヶ月前くらいが適当になる

・合格(ごうかく):入学試験に合格すること

合格

・木の実植う(このみうう):春先、樫や檜など様々な木の実を山や苗床に蒔いたり植えること

根の髯の 絡まる土や 木の実植う(西山泊雲)

(3)さ行

・挿木(さしき):木の枝の先端部分を切って土や砂に挿し、発根を促すもの。根が充分に出たら鉢などに移し替える。肉厚の葉をもつサボテンなど葉を挿しても根が出てくる

捨てやらで 柳挿しけり 雨の間(与謝蕪村)

石角に 蝋燭立てて さし木かな(小林一茶)

・挿床(さしどこ):赤土を使った挿木の床

・挿葉(さしば):葉に傷をつけて地に伏せ込んで根を生じさせる分栽法

・挿穂(さしほ):挿木で挿す部分

・挿芽(さしめ):蔬菜類などの芽をかいで地に挿す分栽法

・里芋植う(さといもうう):里芋、八つ頭、唐の芋などはふつう三、四月のころ種芋である子芋を植えつける。湿気を好むので高温多湿で水もちがよく、比較的日陰の多い土地を選んで畑とする。サツマイモ、ジャガイモの場合は芋という字は使わない

・山椒の皮(さんしょうのかわ):食用とするための山椒の木の皮のこと。江戸時代には、鞍馬あたりの杣人が山椒の木を10cmばかりに切り揃え、大釜で煮て皮をはぎ、それを売り歩いたという。酒と醤油で煮詰めて食す。現在でも「からかわ」という商品名で売られている

・山椒の皮剥ぐ(さんしょうのかわはぐ):早春に佃煮を作るため、山椒の木の皮を剝ぐこと

・馬鈴薯植う(じゃがいもうう/ばれいしょうう):春、四月頃にジャガイモの種芋を直に畑に植えること

・馬鈴薯の種おろし(じゃがいものたねおろし):春、四月頃にジャガイモの種芋を直に畑に植えること

・受験(じゅけん):2月~3月頃行われる入学のための試験を受けること。私学では幼稚園、小学校から、公立は高校、大学に入るために生徒や学生は受験する。有名校へ入るには過酷な試験勉強を強いられるため、受験地獄などという言葉生まれた

受験

・受験禍(じゅけんか):受験によってひきおこされる害

・受験期(じゅけんき):入学試験の行われる時期

・受験苦(じゅけんく):春の受験シーズンに味わう苦しさ

・受験子(じゅけんし):受験をする子供

・受験生(じゅけんせい):受験をする生徒

・修羅落し(しゅらおとし):切った材木を運ぶ方法

堰切つて ゆくに靄(もや)立ち 修羅落し(高橋和恵)

・菖蒲根分(しょうぶねわけ):冬に枯れてしまう菖蒲も春には多くの新芽を出す。根が込みすぎると勢いがなくなるので、株を分けて菖蒲田などに植える

・初筏式(しょばつしき):初春のいかだ流しの事始め。木材業者が製材原料の初荷の到着を祝ったもの

・白尾の鷹(しらおのたか)/白斑の鷹(しらふのたか):傷めた尾羽を途中で切り、他の羽で継いだ春の鷹。「継尾の鷹」の別称

・治聾酒(じろうしゅ):春の社日(立春から第五の戌の日)に飲む酒。この日に耳の遠い老人や子どもに酒を飲ませると、耳の聞こえがよくなるという迷信

治聾酒の 酔ふほどもなく さめにけり(村上鬼城)

・白酒(しろざけ):雛祭りの祝い酒。味醂に蒸米、麹などを混ぜ、ひと月ほど熟成させ、それを挽いたものが材料となる。白く濁り、甘味が強い

白酒

白酒や 玉の杯 一つづつ(村上鬼城)

白酒の 紐の如くに つがれけり(高浜虚子)

白酒の 酔のほのめく 薄まぶた(日野草城)

・白酒売(しろざけうり):白酒を売りにくる人

・白酒徳利(しろざけとくり/しろざけとっくり):白酒の入った徳利

・白酒瓶(しろざけびん):白酒の入った瓶

・進級(しんきゅう):新しい学年を迎え、それぞれが一年上のクラスになること。わが国の学校のほとんどは四月に新学年を迎える

・進級試験(しんきゅうしけん):進級するために行なわれる試験

・新教師(しんきょうし):四月から新任の教師

・新入生(しんにゅうせい)

・睡蓮植う(すいれんうう):春、三〜四月頃、池に睡蓮を植えること

・鈴子(すずこ):鷹狩の鷹につける鈴

・鈴子挿す鷹(すずこさすたか):鷹狩で、春は鈴の音に鳥が驚くので、鳴らないように鈴の口に物をさすこと

・堰流し(せきながし):木流しの方法の一つで、水の少ないところでは堰をつくって水をためて流すこと

・剪枝(せんし):剪定された枝

・剪定(せんてい):林檎、梨、桃、などの果樹の結実をよくするため、芽の出る前に枝を刈り込むこと。この作業によって風通しや日当りが良くなる

剪定

・剪定期(せんていき):春の剪定を行なう時期

・卒業(そつぎょう):学業を修めて学校を去ること。幼稚園から大学までさまざまな卒業がある。日本の卒業式は年度末の三月に行われる。一つのことを成しとげた安堵感や新しい世界への希望に満ちた心とともに、学舎を去るさびしさや人との別れなどが入り混じり感慨もさまざまである

校塔に 鳩多き日や 卒業す(中村草田男)

たゞならぬ 世に待たれ居て 卒業す(竹下しづの女)

・卒業歌(そつぎょうか):卒業式に歌われる歌

・卒業期(そつぎょうき):卒業する時期

・卒業式(そつぎょうしき):学校における教育課程を全て修了したことを認定し、卒業証書を授与することで門出を祝う式典

・卒業試験(そつぎょうしけん):卒業するために行なわれる試験

・卒業証書(そつぎょうしょうしょ):所定の学業を修了したことを証する証書

(4)た行

・砧木(だいぎ):接木で接合する幹

・大試験(だいしけん):進級のための学年試験や、卒業試験のこと。期末試験が小試験なのに対しての大試験である。今はあまり用いられていない言葉

日ならべて 空の碧(あお)さよ 大試験(日野草城)

・種井(たない):種籾を袋ごと水に漬けるための池や井戸のこと。水に漬けるのは、種籾の発芽を促すためである

・種井替(たないがえ):籾種の種浸しの前に、種井の水を全部かき出して掃除すること

・種池(たないけ):春に籾を蒔く前に種籾を浸しておく池

・種池浚い(たないけさらい)/種池ばらい(たないけばらい):籾種の種浸しの前に、種池の水を全部かき出して掃除すること

・種井戸(たないど):春、籾を蒔く前に種籾を浸しておく井戸

・種井ばらい(たないばらい):籾種の種浸しの前に、種井の水を全部かき出して掃除すること

・種芋(たねいも):植え付けのために冬の間貯蔵しておいた芋のこと。元来「芋」と書けば里芋のことだが、今では「種芋」は、ジャガイモ、サツマイモ、ナガイモなどのいも全般だと考えて良い

種芋や 花の盛りを 売り歩く(松尾芭蕉)

・種売(たねうり):種(春蒔き)を売る人

・種選(たねえらび):前年に採つて保存しておいた籾を塩水に浸し、浮上がつた不良の種籾を取り除く作業

・種桶(たねおけ):春に籾を蒔く前に種籾を浸しておく桶

・種床(たねどこ):春に、直播きをしない植物の種を蒔き、苗を育てる仮床

・種袋(たねぶくろ):種(春蒔き)の入った袋

・種物(たねもの):穀類、野菜、草花の種類(たねるい)のこと。この種を入れた袋が種屋の店頭に並んでいるのを見ると、春めいた気分になる

ものの種 にぎればいのち ひしめける(日野草城)

・種物屋(たねものや):種(春蒔き)を売る店

・種選(たねより/たねえらび):春、稲の種籾を苗代にまく前に、不良のものを選り分ける作業

・継尾の鷹(つぎおのたか):傷めた尾羽を途中で切り、他の羽で継いだ春の鷹

・接木(つぎき):樹種を改良し、結実をよくするために、木の枝や芽などを他の木に接いで生育させるもの。元木は砧木(だいぎ)、接がれる枝や芽を接穂という。春の彼岸のころの作業がよいとされる

小刀の それから見えぬ 接木かな(各務支考)

垣越しに ものうちかたる 接木かな(与謝蕪村)

・接木苗(つぎきなえ):接木で芽を接合すること

・接穂(つぎほ):接木で接合する枝芽

夜に入れば 直したくなる つぎ穂かな(小林一茶)

・釣釜(つりがま):茶道のしきたりの一つ。冬の間、釜は五徳に据えられるが、三月になると五徳は取り払われ、釜は自在鉤に吊るされる

・鉄砲堰(てっぽうぜき):木流しで堰を作って水を溜め、これを一度に切って材木を一気に押し流すための堰

・田楽(でんがく)/田楽刺(でんがくざし)/田楽豆腐(でんがくどうふ)/田楽焼(でんがくやき):味噌に山椒など春の若芽のすり下ろしを和え、平串に刺した豆腐や蒟蒻に塗って焼く料理

・胴着脱ぐ(どうぎぬぐ):「胴着」は上着と襦袢の間に用いた衣服。暖かくなり、上着の下に着けていた防寒用の衣服を脱ぐこと

・南瓜蒔く(とうなすまく/かぼちゃまく):春、三月頃に南瓜の種をまくこと。じかまき栽培では、四月下旬から五月下旬を目安に種をまき、七月下旬から八月にかけて収穫する

・泊り狩(とまりがり):春に暖かくなってからの泊まりがけの狩

・泊り山(とまりやま):春に暖かくなってからの狩猟で山中に宿泊すること

(5)な行

・鳴鳥狩(ないとがり):傍題に「朝鷹狩」があり、早朝に行う鷹狩りをいう。単に鷹狩なら冬の季語だが、春になって宵に雉が鳴いた場所を確かめ、早朝にその雉を狩ることから鳴鳥狩といった。もちろん狩る物は鳥には限らない

・苗木市(なえぎいち):三月から四月にかけて苗木を植えるよい時期である。庭木や果樹などの苗木が寺社の縁日の市で売られる。近頃は大型店舗の屋外でも市が立ち、野菜の苗等と共に売られる

・苗木売(なえぎうり):苗木を売る者

・苗障子(なえしょうじ):苗床に風除けのため立てる障子

・苗床(なえどこ):種まきから植えつけまでの間、適切な大きさの苗に育てるところ。良い苗を得るための施設で、畑の一部に作ったものを冷床といい、ビニールなどで温度管理するものを温床という

・苗札(なえふだ):種を蒔いたり苗を植えた時、苗の名称・品種・日付など記入して苗床に立てておく木やプラスチックの札のこと。昔は木の札であったが、最近はプラス チックのものが多い

苗札の 上あたらしき 竹を組む(高田正子)

・茄子蒔く(なすまく/なすびまく):茄子の種をまくこと。露地栽培では早春に種をまき、五月に入ってから定植する。収穫期は六月から十月と長い

・入園(にゅうえん):四月、幼稚園に入ること

・入学(にゅうがく):四月上旬、小学校、中学校、高校、大学などで入学式がとり行われる。殊に小学校入学は誰にとっても忘れ難いものである。いずれも新入生は期待と少しの不安を胸に、新しい生活を始める事になる

・入学児(にゅうがくじ):小学校に入学する児童

入学児に 鼻紙折りて 持たせけり(杉田久女)

・入学式(にゅうがくしき):学校 に入学することを許可し、そのお祝いをする式典

・入学試験(にゅうがくしけん):(日本で)入学に際してニ月下旬か三月上旬にかけての期間中に行われる入学選抜試験のこと

・根接(ねつぎ):接木で根を接合すること

・根分(ねわけ):ひとところに多年草を栽培していると、根が張りすぎて水はけが悪くなる。そのため、花の勢いが衰えたり、根ぐされの原因になったりする。それを防ぐために、新しく出た根を分けて植え直す。根分けは、花を美しく咲かせるための春の大切な作業である

・年度替り(ねんどがわり):前の学期が終わり、新学年の始まるまでの春の休暇

・農具市(のうぐいち):農作業に使用する道具を扱う市。鍬、鋤、剪定鋏、荒縄などが売られる。田植を前にした楽しい市でもある

(6)は行

・萩植う(はぎうう):春、根分けした萩を植えること

・萩根分(はぎねわけ):春、萩を根分すること

・初筏(はついかだ):春になって、その年初めて筏を組むこと。冬季に伐採された材木は、木流しによって網場という場所まで運ばれ、そこで筏に組まれる

・花種(はなだね):家庭などでまいて育てるための花卉(かき)類の種子

・花種蒔く(はなだねまく):草花の種を蒔くこと。種まきの時期に春と秋があるが、夏から秋に咲く花の種は春の彼岸前後に蒔く。花が咲いた状態を想像しながら蒔くのは楽しいものである

・春衣(はるい/はるごろも):春になって身にまとう着物

・春休(はるやすみ):学年末試験が終わり、四月の新学年の始まるまでの休暇。気分的には一学年が終了したという安堵感、解放感、また進級・進学という喜びも重なり、更に季節的にも恵まれたのびのびとした休暇である

・馬鈴薯植う(ばれいしょうう/じゃがいもうう):春、四月頃にジャガイモの種芋を直に畑に植えること

・菱餅(ひしもち):現在はもっぱら雛祭りに用いられる、白、紅、緑のひし形の餅。江戸時代には、草餅を含めた緑白の組み合わせで作ることが多かった。菱形には厄除けの意味があるとされ、また陰陽道の観点から、女性の象徴とも解釈される

菱餅ひなあられ

菱餅や 雛なき宿も なつかしき(小林一茶)

・雛あられ(ひなあられ):三月三日の桃の節句に供えるあられ菓子のこと。蒸した米を十分に乾燥させ、それを炒って作る。甘味をほどこし、紅、緑、黄などの色をつけたものもある。これとは異なり、関西での雛あられは一般に醤油や青のりなどで味付けした、もち米あられを指す

雛あられ  両手にうけて こぼしけり ( 久保田万太郎)

・雛菓子(ひながし):雛壇に供える菓子

・苗圃(びょうほ/なえほ):春に、直播きをしない植物の種を蒔き、苗を育てる仮床

・葺替(ふきかえ):冬を越して雪や風で傷んだ茅葺屋根を修繕すること。葺き替えのための萱は前年の秋に刈り取っておく。現在は茅葺屋根の家が減り、あまり見られなくなった光景である

・冬囲とる(ふゆがこいとる)/冬構解く(ふゆがまえとく):春になり、冬を過ごすための防寒・防雪の用意を取り払うこと

(注)冬の寒さが厳しい地方では、風除けや雪除けを家の周囲に施し、本格的な冬に備える。庭木なども雪吊や藪巻きがなされ、家屋敷全体が鎧ったようになる。これを「冬囲い」や「冬構え」という

・母子餅(ほうこもち):「草餅」の別称。蓬の柔らかい新芽を餅に搗き込んで作るが、近年では冷凍保存した蓬もよく使われる。香りのよさと若草色が特徴で、餡を包んだものもある。蓬餅ともいうが、かつては母子草(春の七草のひとつ、ごぎょう)を使ったので、母子餅ともいった。現在も地方によっては、母子草を使った草餅が作られている。草の香りが邪気を祓うとして、3月3日の上巳の節句に食べる風習があった

・ぼうぶら蒔く(ぼうぶらまく):春、三月頃に南瓜の種を蒔くこと

・干鰈(ほしがれい):鰈の腸を抜いた後、薄塩をして天日に干したもの。竹簀に並べたり、串に刺したりして浜などに干す。軽く炙って食べる。酒の肴として喜ばれる

(7)ま行

・牧開(まきびらき):春になって牧場に牛や馬を放つこと。春の訪れを実感できる事柄

・豆炒(まめいり):雛壇に供える雛あられの材料

・まやだし:「厩出し(うまやだし)」のこと

・見すえ鳥(みすえどり):「鳴鳥狩(ないとがり)」の別称

・蒸鰈(むしがれい):塩をして蒸した鰈を、陰干しにしたもの。干すことによって身がしまり、魚本来の旨みが増して味が良くなる。酒の肴にもよい

砂浜や 松折りくべて 蒸鰈(内藤鳴雪)

・芽接(めつぎ):接木で芽を接合すること。親木の枝条から芽の部分を削り取って台木の剥皮個所に添付して活着させる接木法。枝接に比べ穂を節約でき,同じ台木に接ぎ直しがきき,操作が簡単などの利点がある

・目貼剥ぐ(めばりはぐ):サッシなどの無かった時代、建てつけの悪い戸や窓からは隙間風が入った。それを防ぐため紙などで目貼りをした。春暖かくなれば、それを剥ぎとる。そして戸が自由に開けられるようになる

・萌え漬(もえづけ):「木の芽漬(きのめづけ)」のこと。普通木の芽といえば山椒をさすが、雪深い東北などでは通草(あけび)の新芽をさす場合もある。この通草や、山椒の新芽を摘み取り塩漬けにしたもの。京都の鞍馬が有名で、これは山椒の新芽と昆布を醤油で長時間煮たもの

・物種(ものだね):草木の種(春蒔き)

・物種蒔く(ものだねまく):物種は草木の種の総称。春、秋咲きの草花や野菜などの作物の種を蒔くことをいう

庭に出でて 物種まくや 病み上り(正岡子規)

種蒔ける 者の足あと 洽(あまね)しや(中村草田男)

(8)や行

・柳虫(やなぎむし):「鉄砲虫(てっぽうむし)」(*)の別称

(*)「木蠹蛾(ぼくとうが)」や「天牛(てんぎゅう)」(カミキリムシ)の幼虫で、樹木を食い荒らす夏の害虫

・柳むしがれい(やなぎむしがれい):春の鰈を塩水で蒸してから、陰干しにしたもの

・屋根替(やねがえ):冬を越して雪や風で傷んだ茅葺屋根を修繕すること。葺き替えの ための萱は前年の秋に刈り取っておく。現在は茅葺屋根の家が減 り、あまり見られなくなった光景である

・屋根葺く(やねふく):雪解けを迎え、傷んだ屋根のふき替えをすること

・夕顔蒔く(ゆうがおまく):夕顔はウリ科の蔓性一年草で、その実から干瓢を取ったり、野菜として利用するために栽培される。発芽温度が25度くらいと高いので、三月下旬から四月にかけて種蒔をする

・雪垣解く(ゆきがきとく)/雪囲とる(ゆきがこいとる):春になり、防雪・防寒のための囲いなどを取り払うこと

・雪切(ゆききり)/雪消(ゆきげ):雪国で、踏み固められた根雪を三月頃に割り起こして捨てること

・雪切人夫(ゆききりにんぷ):雪割をする人夫

・雪消し(ゆきけし):互いに食品を贈り合って雪害の無事を念ずること

・雪吊解く(ゆきづりとく):春になり、樹木の枝を雪の重みから保護していた雪吊りを解くこと

・雪堀(ゆきほり):雪国で、踏み固められた根雪を三月頃に割り起こして捨てること

・雪除とる(ゆきよけとる):春になり、防雪・防寒のための囲いなどを取り払うこと

・雪割(ゆきわり):堅雪を割って雪解を促すこと。春先の雪は水分が多く、それ自体の重みでしまりやすい。また踏み固められたところは氷のようにがちがちになる。鶴嘴やスコップでそうした堅雪を割ることで雪解を早めることができる

雪割の 指揮の棒切 雪に置く(前田普羅)

雪を割る 人にもつもり 春の雪(前田普羅)

・雪割人夫(ゆきわりにんぷ):雪割をする人夫

・嫁菜飯(よめなめし):「嫁菜」は主に西日本で取れるキク科の多年草。その若菜を摘み取ってご飯に炊き込んだもの。香りがよく見た目も鮮やか

炊き上げてうすき緑や嫁菜飯(杉田久女)

・蓬餅(よもぎもち):「草餅」(草の餅)のこと

雛様を なぐさめ顔の 蓬餅(正岡子規)

(9)ら行

・落第(らくだい):卒業や進級の認定をされないこと。出席が足りないことやテストの点数が一定の規準を満たさないことによる

・冷床(れいしょう):「温床」に対し、ただ肥料を施しただけの苗床

(10)わ行

・山葵漬(わさびづけ):山葵の葉や茎を刻み、塩で揉んであくを流し摩り下ろした根とともに酒粕と混ぜる。清冽な味わいがいのち。日持ちさせるには山葵を一度塩漬けしてから酒かすに漬ける

葉も茎も 花も刻みて 山葵漬(長谷川櫂)

・蕨狩(わらびがり):春になり山野に蕨が伸びはじめると、人々は蕨を摘みに出かける。摘んだ蕨は貴重な食用として供され、山辺の農家の副収入ともなる。開放的な野外で春の息吹に触れる楽しさがあり、行楽的な意味合いを含んだ季語でもある

・蕨摘(わらびつみ)/蕨採り(わらびとり):蕨を採りに出かけること。春の行楽の一つ

蕨採りて 筧(かけひ)に洗ふ ひとりかな(炭太祇)

・蕨餅(わらびもち):蕨の根から採った澱粉を生地とした餅。黄粉をまぶしたり、黒蜜をかけたりしていただく。餡を入れたものもあり、素朴ながらあじわい深い。 なお、本物の蕨粉は希少品になっており、市販のわらび粉やわらび餅粉は、甘藷澱粉が多い