皆さんは「プレゼンティーイズム」(Presenteeism)という言葉をお聞きになったことがありますか?
実は私も最近知った言葉ですが、これは現代日本の経営者や会社の人事部が注目すべき人事管理の重要なポイントだと思います。
1.「プレゼンティーイズム」とは
「プレゼンティーイズム」とは、「従業員が出社していても、何らかの不調のせいで頭や体が思うように働かず、本来発揮されるべきパフォーマンス(職務遂行能力)が低下している状態」のことです。日本語では「疾病就業」と訳されています。
これとは反対に、「病気や体調不良などにより、従業員が会社をたびたび又は無断で欠勤することを「アブセンティーイズム」(absenteeism)と言いますが、これと「プレゼント(出席している)」(present)を組み合わせた造語です。
2.行き過ぎた「プレゼンティーイズム」の弊害
私が現役サラリーマンの頃は、「勤勉は美徳」と言うか「至上命令」で、「少々頭が痛いとか風邪気味くらいでは休むな」と言われていましたし、「そもそも風邪などをひくのは、弛(たる)んでいるからだ」と叱られたものです。
しかし、最近は風邪の場合、「インフルエンザと判明すれば、一定期間は出社しないように」と言われるようになりました。これは至極合理的な話で、無理して出て来られても、「プレゼンティーイズム」状態でしょうし、何よりも他の人にインフルエンザのばい菌をまき散らして会社全体に大変な迷惑を掛けることになります。
3.「インフルエンザハラスメント」と「ブラック企業」
このように多くの企業では「インフルエンザ」に細心の注意を払うようになりましたが、昨年「インフルエンザハラスメント」という気になる言葉を聞きました。
この「インフルエンザハラスメント」というのは、「人手不足」を背景に、「子供がインフルエンザに罹って看護が必要なのに、会社からは出勤を強要される」「インフルエンザで数日休むと、休日にただ働きさせられる」「カラオケのアルバイト店員がインフルエンザで休みたいと言うと、代わりのアルバイトを探して来いと言われた」などの事例を指しているそうです。
これはいわゆる「ブラック企業」に当たる会社だと思いますが、「人手不足」を背景に、表面化していない事例も含めて増加しているのではないかという気がします。
このような例は、極論すれば、カール・マルクスが産業革命後のロンドンで見た労働者階級の悲惨な状況、あるいは細井和喜蔵が描いた「女工哀史」の惨状にもつながりかねません。
現代の日本でそんなことは起こらないだろうと思っている人が多いかもしれませんが、注意が必要だと私は思います。厚生労働省も「内部告発」を含め、監督強化をしてほしいものです。
4.従業員のきめ細かい健康管理の必要性
かつて「不治の病」と言われ「亡国病」と言われるほど蔓延していた「結核」は、戦後の混乱期を経て高度成長期になると日本では見られなくなったと思っていました。しかし、1996年頃からまた結核が徐々に増えているようです。しかも社内感染(集団感染)で多人数が発病するケースが増えているそうです。
10年以上前だったと思いますが、「ある大企業で、社員が机に突っ伏したまま亡くなっていたが誰も気づかなかった」というニュースがありました。上司や同僚は、体調の悪そうな同僚がいたら「ここのところ、ずっと咳が続いているようだけれど大丈夫か?一度お医者さんに診てもらった方がいいよ」とかの声掛けをしてあげるべきです。最近はどうも他人に対して無関心で、温かい人間味のない「無関心社会」になっているような気がします。
微熱が続くとか咳がなかなか収まらない場合などは、早めに病院で治療を受けることが不可欠です。経営者や会社の人事部も、このような従業員の健康管理は、年1回の健康診断や人間ドック受診で十分と考えずに、きめ細かい健康管理が必要だと思います。
「健康経営」が、ひいては「プレゼンティーイズム」による経済的損失や弊害を防ぐことになるからです。