「仰げば尊し」は日本オリジナルではなくアメリカの原曲を移植したものだった!

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卒業式・仰げば尊し

明治時代に作られた唱歌には、海外の原曲に日本語の詩を付けたものが多いことはよく知られています。

蛍の光」はスコットランド民謡「オールド・ラング・サイン(Auld Lang Syne」(久しき昔)、「庭の千草」はアイルランド民謡「ザ・ラストローズ・オブ・サマー(The Last Rose of Summer)」(夏の名残りのバラ)、「埴生の宿」はイングランド民謡「ホーム・スイート・ホーム(Home! Sweet Home!)」(楽しき我が家)が原曲です。

しかし、我々団塊世代にとっては卒業式の定番ソングだった「仰げば尊し」については、原曲をご存知ない方も多いのではないでしょうか?

1.「仰げば尊し」とは

「仰げば尊し」(あおげばとうとし/あふげばたふとし)は、1884年(明治17年)に発表された唱歌です。

卒業生が教師に感謝し学校生活を振り返る内容の歌で、明治から昭和にかけては学校の卒業式で広く歌われ親しまれてきました。

2007年に「日本の歌百選」に選ばれています。

その知名度から映画やドラマでもたびたび用いられており、高峰秀子主演の映画「二十四の瞳」(1954年公開)では、作品の中でも重要な役割を果たしました。

2.「仰げば尊し」の原曲をめぐって

「仰げば尊し」の原曲をめぐっては、研究者の間でも長い間「作者不詳の謎の曲」とされてきました。

従来、作曲者については「作者不詳のスコットランド民謡説」や「伊沢修二説」などがありましたが、いずれも決定的な証拠はありませんでした。

しかし、2011年に桜井雅夫一橋大学名誉教授が、「Song for the Close of School」という楽曲が1871年にアメリカで出版された楽譜「The Song Echo: A Collection of Copyright Songs, Duets, Trios, and Sacred Pieces, Suitable for Public Schools, Juvenile Classes, Seminaries, and the Home Circle.」に収録されていることを突き止めました。

ソング・フォー・ザ・クローズ・オブ・スクールザ・ソング・エコー

Song for the Close of Schoolの旋律やフェルマータの位置が「仰げば尊し」と同一であり、また同書(The Song Echo)が基本的に初出の歌曲のみを載せていたことから、この楽曲こそが「仰げば尊し」の原曲と考えられます。

同書は、作曲者を「H.N.D.」、作詞者を「T.H.Brosnan」と記載しています。作詞者のブロスナンはその後保険業界で活躍したことが知られていますが、作曲者「H.N.D.」については、はっきりわかっていません。

日本には文部省音楽取調掛の伊沢修二(1851年~1917年)らが移植しました。日本語の歌詞は、大槻文彦・里見義・加部厳夫の合議によって作られたと言われています。

3.「仰げば尊し」の原曲「Song for the Close of School」の歌詞と意味

『Song for the close of school』A Cappella Original Arrangements by K.T
1 We part today to meet, perchance, Till God shall call us home;
And from this room we wander forth, Alone, alone to roam.
And friends we’ve known in childhood’s days May live but in the past,
But in the realms of light and love May we all meet at last.
私たちは今日別れ、まためぐり逢う、きっと、神が私たちをその御下へ招く時に。
そしてこの部屋から私たちは歩み出て、自らの足で一人さまよう。
幼年期から今日までを共にした友は、生き続けるだろう、過去の中で。
しかし、光と愛の御国で、最後には皆と再会できるだろう。
2 Farewell old room, within thy walls No more with joy we’ll meet;
Nor voices join in morning song, Nor ev’ning hymn repeat.
But when in future years we dream Of scenes of love and truth,
Our fondest tho’ts will be of thee, The school-room of our youth.
さよなら古き部屋よ、汝の壁の内で、楽しく集うことはもう無い。
朝に声を揃えて歌うことも、午後の賛美歌も、もう繰り返すことはない。
だが、幾年も後の未来に、私たちは愛と真実の場を夢見る。
私たちの最も大切な思い出は、汝、幼き日々の教室となるのだろう。
3 Farewell to thee we loved so well, Farewell our schoolmates dear;
The tie is rent that linked our souls In happy union here.
Our hands are clasped, our hearts are full, And tears bedew each eye;
Ah, ‘tis a time for fond regrets, When school-mates say “Good Bye.”
さよなら私たちがかく愛した汝よ、さよなら親愛なる級友たちよ。
私たちの魂を、幸せなひとつの繋がりとしてきた絆は解かれた。
私たちの手は固く握られ、心は満ち、そして目には涙をたたえ。
ああ、これぞ惜別の時、級友たちの言葉は「さよなら」。

4.「仰げば尊し」(日本語)の歌詞

https://youtu.be/Y7EiYST1Oac

あおげば 尊し わが師の恩
教えの庭にも はや幾年
思えば いと疾し この年月
今こそ 別れめ いざさらば

互いにむつみし 日頃の恩
別るる後にも やよ忘るな
身を立て 名をあげ やよ励めよ
今こそ 別れめ いざさらば

朝夕 馴にし まなびの窓
螢のともし火 積む白雪
忘るる 間ぞなき ゆく年月
今こそ 別れめ いざさらば

1990年代半ば以降の平成期からは、卒業式の合唱曲を「仰げば尊し」から「旅立ちの日に」「贈る言葉」「さくら(森山直太朗の曲)」などその時々の流行曲に変更する学校も多くなりました。

その理由としては、「いと」「やよ」などの古語を多く含む文語調であるため小学生にはわかりにくいこと、教師を賛美したり立身出世を呼び掛ける内容が時代にそぐわないことなどが挙げられます。

5.台湾で今も「青青校樹」として歌い継がれている「仰げば尊し」

また、台湾では現在も卒業式の「定番曲」として「仰げば尊し」の中国語版「青青校樹」が広く使用されており、映画「冬冬の夏休み」では冒頭からこの曲が使われています。

台湾には日本統治時代に伝わり、終戦以降も引き続き中国語の歌詞によって使用されています。

我々日本人もやはり、この歴史と伝統ある国民的愛唱歌「仰げば尊し」をこれからも大切に歌い継いで行きたいと思うのですが・・・

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