戦後、動物や植物の名前を「学術的名称」として使う場合は「カタカナ表記」にするようになった関係で、動植物の「漢字表記」をあまり見かけません。
しかし、カタカナ表記ではわからない動植物の名前の由来が漢字表記にするとよくわかるものもあって面白いものです。
前に「スパルタ教育とアテナイ教育」という記事の中で、「ヨツボシケシキスイ」が「四星芥子木吸」であることなどをご紹介しましたが、今回はそのほかの面白いものをご紹介します。
1.カタカナ表記・漢字表記・ひらがな表記のメリットとデメリット
(1)カタカナ表記
与える印象:学術的・専門的
メリット:地の文章から名前を区別できる。誰でも読める。統一された表記ができる
デメリット:名前の由来がわかりにくい
(2)漢字表記
与える印象:文語的・文学的・古い印象
メリット:名前の由来をイメージしやすい
デメリット:難読漢字が多くなる。アイヌ語由来や外国語の動植物はそのまま漢字にできない
(3)ひらがな表記
与える印象:口語的・柔らかい印象
メリット:誰でも読める
デメリット:地の文章からの区別が難しい。名前の由来がわかりにくい
2.漢字でどう書くのか意外と知らない動物の名前
(1)オニヤンマ
日本最大のトンボであるオニヤンマは、漢字で「鬼蜻蜓」または「馬大頭」と書きます。当て字ですが「馬大頭」はユーモラスで面白いですね。
(2)ウンカ
ウンカは、カメムシ目ウンカ科の昆虫の総称です。体長は5ミリほどで、口吻を使って稲などから液を吸い取ります。大発生して稲に被害を及ぼします。
都会育ちの人はご存知ないでしょうが、田舎育ちの人や農業経験のある人にとっては「憎き害虫」です。
漢字で「浮塵子」と書きます。小さなウンカが飛び回る様子は確かに空中に浮遊する塵のようです。
(3)ガガンボ
カ(蚊)によく似た昆虫にガガンボがあります。ガガンボは双翅目ガガンボ科の昆虫です。ガガンボは、カと違って人を刺したり、吸血したりすることはありません。
成虫は主に花の蜜を吸いますが、家の中の壁にじっと止まっているのを時々見かけます。寿命は10日ほどです。
漢字で「大蚊」と書きます。
(4)アメンボ
アメンボは水たまりやため池などでよく見かける半翅目アメンボ科の昆虫です。
漢字で「水黽」「水馬」「飴坊」「飴棒」などと書きます。
本来の意味は「飴棒」で、「飴」と付くのは、臭腺から発する飴のような臭いのためで、「棒」は体が細長いためです。
(5)イソギンチャク
イソギンチャクは六枚珊瑚類の総称で、「磯に棲む巾着のような生物」という意味です。
先端の触手に獲物が触れると、その獲物を取り込もうとして触手が縮み、巾着の口を締めたような形になるところから名付けられました。
漢字で「磯巾着」または「菟葵」と書きます。
(6)イモリとヤモリ
イモリとヤモリは紛らわしいのでよく間違えられますが、漢字で書くと一目瞭然です。
イモリは「井守」で、ヤモリは「家守」です。
よく家の壁などに張り付いているのは爬虫類の「ヤモリ(家守)」で、「イモリ(井守)」は池や川などに生息する両生類です。
水の中に棲んでいて「井戸」を守っているから「イモリ(井守)」で、家の中に棲んでいて「家」を守っているから「ヤモリ(家守)」と覚えておくとよいでしょう。
(7)セキセイインコ
セキセイインコは漢字で「背黄青鸚哥」と書きます。この名前は、最初に日本に来たセキセイインコの背中が黄色と青色をしていたことに由来します。
(8)カミキリムシ
カミキリムシは「鉄砲虫」とも呼ばれ、木に穴を開けて卵を産み、その木を枯らしてしまうこともある害虫なので、嫌われ者かも知れません。
漢字で「髪切虫」と書きます。「噛み切り虫」とか「紙切り虫」と勘違いしている方が多いかも知れませんが、間違いです。
また「天牛」とも書きますが、これは長い触角を牛の角になぞらえたものです。
(9)エンマコオロギ
エンマコオロギは日本で生息するコオロギの中では最大種ですが、それでも体長はせいぜい26~32mmほどの昆虫です。
しかし真正面から見ると地獄の閻魔様のような恐ろしい顔をしているので、この名があります。
漢字で「閻魔蟋蟀」と書きます。
(10)ツヅレサセコオロギ
ツヅレサセコオロギは、体長13~22mmの小型のコオロギです。「ギィギィギィ」または「リィリィリィ」という深みのある声で鳴きます。
ツヅレサセコオロギという名前は、古人はこの鳴き声を「肩刺せ、綴(つづ)れ刺せ」と聞きなして「冬に向かって衣類を手入れせよ」との意に取ったことに由来します。
漢字で「綴刺蟋蟀」と書きます。
(11)コメツキバッタ
「コメツキバッタ」は「ショウリョウバッタ(精霊蝗虫)」の別名です。両脚をつかむと体全体を上下に動かす姿が米を搗(つ)いているように見えることから、この名があります。
漢字で「米搗蝗虫」と書きます。
また、体全体を動かすさまは高速でお辞儀を繰り返しているように見えることから、「上司などにぺこぺこと頭を下げて、取り入ろうとする者」を嘲(あざけ)って「コメツキバッタ」と呼ぶこともあります。
(12)テントウムシ
漢字で「天道虫」または「紅娘」「瓢虫」と書きます。
枝などの先端に立って行き場がなくなると、上に飛び立つ習性があります。下から上へ上へと飛ぶ姿が太陽(お天道様)に向かって飛んでいるように見えることから「天道虫」と名付けられました。
日本では天までの道を教えてくれる「道しるべの神」とされています。
(13)カバ
漢字で「河馬」と書きます。
「河や沼の近くに生息する馬」という意味から、この名前が付いたようです。ただ、外見上は「河牛」と言った方がぴったりのような気もしますが・・・
カバは英語で「hippopotamus」ですが、これはギリシャ語の「ヒッポポターモス」(「河の馬」という意味)から来ています。ドイツ語でも「Flusspferd(河の馬)」、オランダ語では「nijlpaard(ナイル川の馬)」と言います。
カバはアフリカ大陸に生息する動物で、もともと日本にはいなかったので、ギリシャ語などの語源から「河馬」と漢字表記するようになったのです。
英語やギリシャ語の単純な音訳の「ヒッポポタマス」でもよかったのですが、有難いことに明治時代の人は、漢字を見ればその動物が想像できるように語源に従って翻訳してくれたわけです。
(14)アザラシ
漢字で「海豹」と書きます。
森下裕美原作の漫画「少年アシベ」に、ゴマフアザラシ(胡麻斑海豹)の赤ちゃん「ゴマちゃん」が登場し、後にテレビアニメ化されました。
これによって、一般にもゴマフアザラシが「ゴマちゃん」の愛称で親しまれるとともに、この種の知名度が高まるきっかけにもなりました。
2002年8月に多摩川に現れ、日本中を癒す大人気者になった「タマちゃん」は、アゴヒゲアザラシ(顎鬚海豹)でした。