1.零余子飯(むかごめし)
「零余子飯」は、自然薯(じねんじょ)・長薯(ながいも)などの山芋の蔓や葉が黄ばむ頃に葉の付け根にできる肉珠(珠芽)を炊き込んだご飯のことです。醤油で薄く味を付け、細かく刻んだ柚子(ゆず)の皮や紅ショウガなどを添えて食べます。
子季語・関連季語には、「ぬかご」「ぬかご汁(ぬかごじる)」「いもこ」「零余子とり」「珠芽(しゅが)」などがあります。
例句としては、次のようなものがあります。
・きくの露 落ちて拾へば ぬかごかな(松尾芭蕉)
・うれしさの 箕(み)にあまりたる むかごかな(与謝蕪村)
・ほろほろと むかご落ちけり 秋の雨(小林一茶)
・野分あとの 腹あたためむ ぬかご汁(原 石鼎)
2.浮塵子(うんか)
「浮塵子」は、カメムシ目ウンカ科の昆虫の総称です。体長は5ミリほどで、口吻を使って稲などから液を吸い取ります。大発生して稲に被害を及ぼします。
都会育ちの人はご存知ないでしょうが、田舎育ちの人や農業経験のある人にとっては「憎き害虫」です。
子季語・関連季語には、「糠蠅(ぬかばえ)」「泡虫(あわむし)」「稲虫(いなむし)」「実盛虫(さねもりむし)」(*)などがあります。
(*)「実盛虫」の名前の由来
「平家物語」でも知られる平安時代末期の平氏武将の斎藤実盛(斎藤別当実盛)は、「篠原の戦い」(1183年)のさなか、乗っていた馬が田の稲株につまずいて倒れたところを源氏方の敵兵に付け込まれ、討ち取られてしまいました。その恨みゆえに、「稲虫」と化して稲を食い荒らすようになったという言い伝えによるものです。
西日本では、実盛の霊を鎮めて稲虫を退散させるという趣旨から、「虫送り」(農作物につく害虫を駆除し、その年の豊作を祈願する呪術的行事)のことを「実盛送り」または「実盛祭」と呼んでいます。
余談ですが、老年にもかかわらず最後まで奮戦した斎藤実盛を偲んで松尾芭蕉が詠んだ俳句が「むざんやな 甲(かぶと)の下の きりぎりす」です。
例句としては、次のようなものがあります。
・豊年や 橘寺に 浮塵子充ち(服部鹿頭夫)
・日の暑さ 盥の底の 浮塵子かな(野澤凡兆)
・実盛虫 送りし月の 瀬鳴りかな(宮岡計次)
・浮塵子出て 一枚の田を 早刈りす(粟賀風因)
3.釣瓶落し(つるべおとし)
「釣瓶落し」は、釣瓶を井戸の中へ落とす時のように、秋の日がたちまち暮れてしまうさまのたとえです。「秋の日は釣瓶落し」とよく言いますね。
子季語・関連季語には、「秋の落日」などがあります。
例句としては、次のようなものがあります。
・石窟の 仏に釣瓶 落しかな(角川春樹)
・次郎柿 釣瓶落しの 日に馴れて(高澤良一)
・釣瓶落しと いへど光芒 しづかなり(水原秋櫻子)
・ビニールハウス 釣瓶落しの 日をはじく(阿波野青畝)
4.鰯引く(いわしひく)
「鰯引く」とは、引網を引いて鰯を捕獲することです。イワシは、ぬた・塩焼き・煮付けにしたり、稚魚をちりめんじゃこ・煮干しなどにします。
日本人の食卓にはおなじみの魚です。大量に獲れるので、飼料や肥料などにも利用されて来ました。
子季語・関連季語には、「鰯網(いわしあみ)」「小鰯引く(こいわしひく)」「鰯船(いわしぶね)」などがあります。
例句としては、次のようなものがあります。
・鰯引く 浜の今昔 ありにけり(稲畑汀子)
・夕焼や 鰯の網に 人だかり(正岡子規)
・うすうすと 七星かかぐ 鰯船(山口誓子)
・傾(かし)ぎたる 山立て直し 鰯船(田畑幸子)
5.広島忌(ひろしまき)・長崎忌(ながさきき)
この二つの季語を面白い季語に入れるのは不謹慎の誹(そし)りを受けるかもしれません。
しかしここでご紹介したのは、「原爆忌」が若い世代には次第にピンと来なくなるのではないかと思ったからです。
言うまでもなく「広島忌」は8月6日、「長崎忌」は8月9日です。第二次世界大戦は昭和20年に二回にわたって日本に投下された原子爆弾によって終結を迎えましたが、このアメリカによる原爆投下は、度重なる本土空襲とともに多数の無辜(むこ)の市民を犠牲にした許しがたい戦争犯罪だと私は思っています。
子季語・関連季語には、「原爆忌」「原爆の日」「浦上忌」「平和祭」「爆心地」などがあります。
例句としては、次のようなものがあります。
・魔の六日 九日死者ら 怯え立つ(佐藤鬼房)
・広島の 忌や浮袋 砂まみれ(西東三鬼)
・友は果て われのその後や 長崎忌(田口悠香)
・戦争を 知らぬ子ばかり 原爆忌(稲畑汀子)