同訓異字の漢字の使い分け(その3)「つとめる」「きく」

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つとめる

「異なる漢字で、同じ訓を有するものの組み合わせ」を「同訓異字(どうくんいじ)」または「異字同訓(いじどうくん)」と言います。

この「同訓異字」の中でも、意味のよく似た漢字があり、使い分けに迷う場合があります。最近は「平仮名(ひらがな)交じりの文章」も多くなっており、必ずしも漢字で書かなくても、「漢字を知らない」という誹(そし)りを受けることもなくなりました。

そのため、意識的か無意識的かはわかりませんが、「同じ読み方で意味のよく似た漢字」を平仮名で書いてこの問題を避ける人もいます。

しかし、日本人としては、ぜひとも正しい漢字の使い方を知っておきたいものです。

前に「同訓異字の漢字の使い分け(その1)はかる・さがす」「同訓異字の漢字の使い分け(その2)あらわす・あう」という記事を書きましたが、まだほかにも日常使う言葉で使い分けに迷う漢字がありますので、ご紹介します。

1.つとめる

「つとめる」という漢字は五つあります。「努める」と「勉める」「力める」は意味が全く違うので間違うことはあまりないと思いますが、「勤める」と「務める」の使い分けは迷うことがありますね。

(1)勤める

勤める」は、「勤務する」「会社などに雇用されて、仕事に従事する」という意味です。

「勤める」の「勤」は、「勤務」「通勤」「勤労」「勤勉」などの熟語でも使われています。

これらの言葉を思い出せば、意味を混同せずに済むと思います。 ちなみに、「勤める」は「刑期を全うする」という意味でも使います。

(2)務める

務める」は、「役割や任務に当たる」という意味です。

「務」が使われている熟語には「義務」「業務」「急務」「職務」「公務」などがあります。

これらの言葉の意味と結びつけて覚えておくとよいでしょう。 ただし「務める」と「勤める」はとても混同されやすいので注意が必要です。

以前は「務める」と書くべき箇所でも「勤める」が使われることが多かったですが、近年では目的語が「役割」の場合は「務める」が使われることが多いです。 「勤務する」という意味でない場合は、目的語が仕事でも「務める」を使う方がよいでしょう。 例えば、「落語を一席つとめる」などの場合、「落語の一席」は仕事とも役割とも取れるので、「務める」でも「勤める」でもよい気がしますが、「通勤する」わけではないので「務める」にするのが現代の日本語では自然です。

(3)努める

努める」は、「努力する」「事を成し遂げるために力を尽くす」という意味です。

「勉める(つとめる)」「力める(つとめる)」などと書くこともありますが、「努める」と書くのが基本になります。

(4)勉める

勉める」は、「努めるの同義語」です。そのため、「勉める」というのは「目的・目標を達成するために努力すること」や「少し無理をしてでも一生懸命に頑張ること」を意味する表現になります。

(5)力める

力める」も、「努めるの同義語」で、「努力」「勤倹力行(きんけんりょっこう/きんけんりっこう)」や「力作」「力投」などの熟語がありますが、「つとめる」という言葉としては、今ではあまり使われません。

この「力める」は、私の母校である茨木高校旧制茨木中学)の校歌「天つ空見よ」(*)の歌詞にあるので、よく覚えています。「勤倹力行」という校訓を踏まえたものですが、宇宙的規模から人の営みと生き方を説く『易経』(四書五経の一つ)の文言と一致する個所もあります。

『易経』の「乾為天」にある「天行健。君子以自彊不息」は、「天行健なり。君子以て自ら彊(つと)めて息(や)まず」と読み、「天地は、とても健やかに廻っていくということ、途切れることなく、規則正しく、健全に運行されていくということで、そのように君子も、自ら努め、学問に励み、人と交わり、職務を全うし、怠ることなく規則正しく健全に行われなければならない」という意味です。

この「天つ空見よ」は、同校教諭だった多門力蔵(たもんりきぞう)氏が1912年(川端康成が旧制茨木中学に入学した年)に作詞しました(作曲は岩城盛美)が、校名・地名が読み込まれていない珍しい校歌です。

(*)茨木高校の校歌「天つ空見よ」

天(あま)つ空見よ 日月(ひつき)も星も
其の時違(たが)へず 其の道巡る
我等も各々(おのおの) 力行(りょっこう)止(や)まず
本務を尽して 天意に沿はん

世々(よよ)の跡見よ いづれの国も
つとめておこり おごりて亡ぶ
我等も互に 荒怠(こうたい)諫(いさ)め
至誠(しせい)を致して 国運(こくうん)たすけん

2.きく

「きく」という漢字は五つあります。「聞く」「聴く」「訊く」と、「利く」「効く」です。

「利く」「効く」は他の三つと意味が全く違うので間違うことはあまりないと思いますが、「聞く」と「聴く」と「訊く」の使い分けは迷うことがありますね。

(1)聞く

聞く」は、英語の「hear」にあたる言葉で、受動的な「きく」です。

あなたの耳から音が入ってきた時、 どんな音なのかをわかろうとしますよね。言葉であれば、その意味をわかろうとするでしょう。

「聞く」は、耳に入ってきた音や言葉を認識するという意味です。

(2)聴く

聴く」は英語の「listen」にあたる言葉で、「聞く」よりも能動的な「きく」です。

「聴く」は、相手の感じていること、伝えたいことを理解しようと耳を傾けることです。

「聴く」という漢字には、「心」という文字が入っています。心を込めて、「きく」ことです。

「聴取」や「視聴者」という言葉を思い出せば、混同は防げると思います。

(3)訊く

訊く」は英語の「ask」にあたる言葉で、、自分の興味・関心から沸き起こった、知りたいことや質問したいことを尋ねることです。
自分がききたいことを「訊く」 ため、 相手が言いたいことを「聴く」とは、矢印の方向が異なります。

「訊く」ことで、相手が話したくても言い出せなかったことが出てくることもあります。
ただ、 自分の興味や関心だけで「きく」と、「聴く」がなくなり、「追及」になってしまうのです。
刑事ドラマでよくあるワンシーン、刑事さんが容疑者を取り調べる「訊問(尋問)」のように感じさせてしまう可能性があります。

(4)利く

利く」の主な意味合いは、2つあります。1つは「機能が働く」ということで、生物やものの能力が、十分に発揮されることを指します。例えば「鼻が利く」という場合は、嗅覚が鋭くて匂いに敏感に反応できることを意味します。このほかに、「このベッドはスプリングがよく利く」「機転が利く子だ」のように使われます。

もう1つの意味合いは、「可能である」「有効に働かせられる」というもので、こちらは「多少の無理が利く」「この店はツケが利く」のように使われます。

「利く」の「利」という字は、「穂先がたれかかった稲」と「鋭い刃物」の象形から成っています。これは「鋭い刃物(すき)で土をたがやして稲を作る」ことを指しており、そこから転じて「するどい」や「役立つ」などを意味するようになりました。

(5)効く

効く」は、辞書の上では「利く」と同じ意味の言葉です。しかし、実際の使われ方には違いがあります。「効く」の主な意味合いは、「効果が出る」というもので、ものなどの効果や作用がきちんと現れることを言います。

例えば「ハッパ(発破)が効いた」という場合は、相手への激励がうまく伝わり、狙い通りの効果を挙げたことを表します。このほかに、「薬が効く」「パンチが効く」「宣伝が効いた」のように使われます。

「効く」の「効」という字は、「まなぶ」と「手でたたく」を表す象形から成っています。これは「手本としてまなばせる」を意味しており、そこから「まなぶ」「良い結果がえられる」などを意味するようになりました。

このように、「効く」は「効果や効能がある」ことを示すのに対し、「利く」は「機能する」「可能である」ことを示しているという違いがあります。

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