現在は、花や花木の名前も、昆虫の名前と同様に植物や動物全般に「カタカナ表記」が多くなりました。しかし、花や花木の漢字名を知ると、カタカナでは味わえない風情が感じられて愛着がさらに深まるように私は思います。
百花繚乱の画像とともにお楽しみください。
前に「あ行~か行の花」と「さ行~た行の花」をご紹介しましたので、今回は「な行」から「は行」の花をご紹介しましょう。
1.漢字で書いた花や花木の名前
(1)な行:撫子(瞿麦)・七竈・南天・二輪草・捩花・合歓木(合歓の木)・凌霄花・鋸草
(2)は行:萩・繁縷・蓮・花水木・浜木綿・薔薇・春紫苑・彼岸花・雛罌粟(雛芥子)・向日葵・姫女苑・昼顔・藤・藤袴・芙蓉・屁糞葛・紅花(末摘花)・鳳仙花・鬼灯(酸漿)・木瓜・蛍袋・牡丹・杜鵑草
2.漢字で書いた花や花木の読み方
(1)な行
①撫子/瞿麦(なでしこ)
「ナデシコ」の仲間である「ダイアンサス属」は、世界に約300種が分布しています。優しい草姿に可憐な花を咲かせ、香りも魅力です。
「カーネーション」も「ダイアンサス属」に含まれますが、通常はカーネーション以外のものを総称して「ダイアンサス」と呼んでいます。
日本では、「秋の七草」の一つである「カワラナデシコ」(上の右の画像)をはじめ、「ハマナデシコ」など4種が自生し、このほかにヨーロッパ原産の「タツタナデシコ」や「ヒメナデシコ」、中国原産の「セキチク」、北米原産の「ヒゲナデシコ」などが古くから観賞用に栽培されてきました。
②七竈(ななかまど)
「ナナカマド」は、紅葉の季節になると必ずニュースなどに出てきますね。
「ナナカマド」は、北海道から九州までの深山に分布するバラ科ナナカマド属の落葉樹です。春の芽出し、新緑、秋の紅葉、雪中に残る赤い果実など四季を通じて見どころがあり、北国ではよく街路樹として使われます。
名前の由来は、材が硬く7回カマドに入れても燃え尽きないことによるという説と、良質の炭を作るには7回カマドに入れる必要があることによるとする説があります。
③南天(なんてん)
「ナンテン」は、中国原産ですが、日本では「難(なん)を転(てん)じる」に通じるため、縁起物としてよく庭木に植えられます。
冬に赤くて丸い実をつけます。「南天のど飴」があるように、咳止めの効果があるため、薬用植物としても扱われています。
初夏(6月ごろ)に、近づかないと気付かないような地味な花(上の左の画像)をつけます。しかし近くで見ると可憐な花(上の右の画像)です。
④二輪草(にりんそう)
「ニリンソウ」と言えば、川中美幸の「二輪草」という歌を思い出しますが、私も自生しているところを見たことはありません。
キンポウゲ(金鳳花)科イチリンソウ(一輪草)属の多年草で、春山を代表する花の一つです。
3月~6月に、白い萼片を持つ直系約2cmの花をつけます。多くは1本の茎から2輪ずつ花茎が伸びるのが、名前の由来となっています。
⑤捩花(ねじばな)
「ネジバナ」は、湿っていて日当たりの良い背の低い草地に自生します。花色は通常ピンク色で、小さな花を多数細長い花茎に密着させるように付けます。
花茎の周りに螺旋(らせん)状に並んで花が咲く「ねじれた花序」が、名前の由来です。
⑥合歓木/合歓の木(ねむのき)
「ネムノキ」は、夜になると葉が合わさって閉じて(就眠運動)眠るように見えることが名前の由来です。
漢字名の「合歓木」は、中国においてネムノキが「夫婦円満の象徴」とされていることから付けられた名前です。
⑦凌霄花(のうぜんかずら)
「ノウゼンカズラ」は、夏から秋にかけて橙色や赤色の大きな美しい花をつけ、気根を出して樹木や壁などに付着してつるを伸ばす落葉性のつる性樹木です。
中国原産で、平安時代に日本に渡来したと考えられています。
俳句で「夏」の季語です。
・家毎に 凌霄咲ける 温泉かな(正岡子規)
⑧鋸草(のこぎりそう)
「ノコギリソウ」は、長く伸びた茎の先端に小さな花がたくさん固まって咲きます。花壇に利用されたり、切り花としても人気があります。
名前の由来は、葉がノコギリの刃のようにギザギザした形状をしていることによります。
(2)は行
①萩(はぎ)
「ハギ」は、「秋の七草」の一つで、「万葉集」に最も多く詠まれており、古くから日本人に親しまれてきた植物です。
②繁縷(はこべ)
「ハコベ」は、生垣の脇、道端、畑などに自生し、春に茎の先や葉腋に白い5弁花を開きますが、花弁の先が2つに深く切れ込んでいるため10弁に見えます。
③蓮(はす)
「ハス」は、その独特の花や葉が美しい水生植物です。見ていると清々しい気持ちになることから、仏教では極楽浄土に咲く花とされ、古くから慈しまれてきました。
④花水木(はなみずき)
「ハナミズキ」は、1912年(明治45年)に当時の東京市長・尾崎行雄がアメリカ・ワシントン市の親日家たちに桜の苗木を贈った返礼として、1915年(大正4年)に日本に贈られました。
観賞の対象となっている花は、本来の花弁ではなく、総苞片(花の付け根の葉)です。そのため観賞期間も長く、秋の紅葉や赤熟した果実なども楽しめ、また自然に樹形が整う木であることから、街路樹・公園木のほか、個人庭園のシンボルツリー・景観木としても広くりようされています。
⑤浜木綿(はまゆう)
「ハマユウ」と言えば、俳優の香川照之さんの母親で女優の浜木綿子(はまゆうこ)さんの芸名の由来になった植物ですね。
「ハマユウ」は、主に房総から九州にかけての太平洋岸の温暖地に自生するヒガンバナ(彼岸花)科ハマオモト(浜万年青)属の大型の半耐寒性宿根草です。
名前の由来は、花弁が白い木綿糸に似ているからです。高知県の海岸部などでは、梅雨時から初夏に花が咲いている姿をよく見かけます。
万葉集に柿本人麻呂が「み熊野の浦の浜木綿百重(ももへ)なす 心は思へど直(ただ)に逢はぬかも」と詠っているように、古くから親しまれてきた花です。
⑥薔薇(ばら)
「バラ」はイングリッシュガーデンにもよく見られるため、「西洋の花」という印象もありますが、実は日本はバラの自生地として世界的に知られています。
品種改良に利用された原種のうち3種類(ノイバラ・テリハノイバラ・ハマナシ)は日本原産です。
古くバラは「うまら」「うばら」と呼ばれ、万葉集にも「みちのへの茨(うまら)の末(うれ)に延(は)ほ豆のからまる君を離(はか)れか行かむ」という歌があります。
与謝蕪村に「愁ひつつ岡にのぼれば花いばら」の句があります。
⑦春紫苑(はるじおん)
「ハルジオン」とよく似た花に「ヒメジョオン(姫女苑)」があります。この二つの花の違いについては、「シオンに似た雑草のハルジオンとヒメジョオンの違い」という記事に詳しく書いています。
⑧彼岸花(ひがんばな)
「ヒガンバナ」は、秋に田んぼのあぜ道などに突如として現れる花ですが、全草有毒で、特に鱗茎にアルカロイド(リコリン、ガランタミン、セキサニン、ホモリコリンなど)を多く含む有毒植物です
「美しい花には毒がある。知らないと危険、身近な植物の毒性に注意!」に詳しく書いています。
⑨雛罌粟/雛芥子(ひなげし)
「ヒナゲシ」と言えば、アグネス・チャンの「ひなげしの花」という歌を思い出す方も多いと思います。
与謝野晶子に「ああ皐月(さつき)仏蘭西(ふらんす)の野は火の色す君も雛罌粟(こくりこ)われも雛罌粟」という歌があります。
⑩向日葵(ひまわり)
「ヒマワリ」は、日本の夏を代表する花となっていますが、原産地は北アメリカです。
種は食用や油糧とするため、あるいは花を観賞するために広く栽培されています。
「日回り」と表記されることもあり、「ニチリンソウ(日輪草)」「ヒグルマ(日車)」「ヒグルマソウ(日車草)」「ヒマワリソウ(日回り草)」という別名もあります。
英語で「サンフラワー(Sunflower)」、フランス語で「ソレイユ(Soleil)」と言います。
ロシアとペルーの国花にもなっています。
「ヒマワリは太陽に向けて移動?植物の生態についての誤った常識や知られざる生態」という記事にヒマワリなどの面白い生態について詳しく書いています。ぜひご一読ください。
⑪姫女苑(ひめじょおん)
「ヒメジョオン」とよく似た花に「ハルジオン(春紫苑)」があります。この二つの花の違いについては、「シオンに似た雑草のハルジオンとヒメジョオンの違い」という記事に詳しく書いています。
⑫昼顔(ひるがお)
「ヒルガオ」は、夏に朝顔に似た桃色の花を咲かせ、昼になっても花がしぼまないことからこの名があります。
薬用植物で、民間では利尿薬として利用しました。
⑬藤(ふじ)
「フジ」(別名:ノダフジ)はマメ科フジ属のつる性落葉樹で、日本の固有種です。
花が咲く時期には、「藤棚」が観賞・観光の対象となります。
⑭藤袴(ふじばかま)
「フジバカマ」は「秋の七草」の一つで、万葉の時代から人々に親しまれてきた植物です。夏の終わりから秋の初めに茎の先端に直径5mmほどの小さな花を、長さ10cm前後の房状に多数咲かせます。
海を渡る蝶(渡り蝶)として有名なアサギマダラの食草でもあります。有毒物質のピロリジジンアルカロイドを含む有毒植物です。
⑮芙蓉(ふよう)
「フヨウ」は美しいピンクの大輪の花を咲かせる夏を代表する花木として親しまれています。
中国原産ですが、古くから栽培されており、室町時代に観賞されていた記録があります。
近縁種に「ムクゲ(木槿)」がありますが、一般的に雌しべの先が上向きに曲がっているのが「フヨウ」で、真っ直ぐなものが「ムクゲ」と区別できます。
⑯屁糞葛(へくそかずら)
「ヘクソカズラ」とは、何とも不名誉な名前を付けられた植物ですね。
「ヘクソカズラ」は、アカネ(茜)科ヘクソカズラ属のつる性多年草で、やぶや道端など至る所に生える雑草です。
夏に中心部が赤紅色の白い小花を咲かせます。葉や茎など全草を傷つけると、悪臭を放つことからこの名があります。「ヤイトバナ(灸花)」とも呼ばれます。
⑰紅花/末摘花(べにばな)
「ベニバナ」は、キク(菊)科ベニバナ属の一年草または越年草で、雅称を「末摘花」と言います。紅色染料や食用油(紅花油)の原料として栽培されます。
「源氏物語」に「末摘花」が登場しますが、これは不美人でありながら生涯光源氏と関わり続けた女性の一人に、彼が付けたあだ名です。彼女の「鼻が紅い」ことと、ベニバナの「花が紅い」ことを掛けたものです。
⑱鳳仙花(ほうせんか)
「ホウセンカ」は蒸し暑い夏に元気よく咲くツリフネソウ(吊舟草)科の一年草です。種がはじけることが特徴です。
名前の由来は、漢字の中国名「鳳仙花」をそのまま音読みしたものです。花の姿が鳳凰が羽ばたいている形に似ていることからです。
私も子供の頃、家の庭に鳳仙花があったので、種が出来るころになると面白がって実を触って種を弾けさせました。
「花は恥ずかしがり屋だが開花の瞬間を目撃した奇跡。植物の生育分布拡大戦術」でも触れています。ぜひご一読ください。
「ホオヅキ」は、赤い提灯がぶら下がったような姿が愛らしく、古くから親しまれてきました。この提灯のような袋は、ホオヅキの咢です。
名前の由来は、その実が赤くふっくらとした様子から頬を連想したもの(「づき」は「顔つき」「目つき」のつきか?)とする説、同じく赤い果実から「ほほ」は「火々」で、「つき」は染まる意という説、果実を鳴らして遊ぶ子供たちの様子から「頬突き」の意とする説などがあります。
⑳木瓜(ぼけ)
「ボケ」は、庭木や盆栽・生垣・切り花として観賞され、200を超える品種が栽培されています。また、観賞用だけでなく、香りのよい果実を使って果実酒やジャムも作られています。
名前の由来は、果実が瓜に似ており、木になる瓜で「木瓜(もけ)」と呼ばれたものが「ぼけ」に転訛したとする説や、「木瓜(ぼっくり)」から「ぼけ」に転訛したとする説があります。
21.蛍袋(ほたるぶくろ)
「ホタルブクロ」は、日本各地の平地から山地に広く分布するキキョウ(桔梗)科の多年草です。
日当たりの良い草原や、林縁などで多く見られます。初夏から夏の前半にかけて釣鐘形の花を茎に多数咲かせます。
「ホタルブクロ」の名前は、子供が袋のようなこの花に蛍を入れて遊んだことに由来します。
22.牡丹(ぼたん)
「ボタン」は「シャクヤク(芍薬)」とよく似た豪華な花で、異名もたくさんあります。
「富貴草」「富貴花」「百花王」「花王」「花神」「名取草」「深見草」「忘れ草」「二十日草」「鎧草」など枚挙にいとまがありません。
「ボタン」と「シャクヤク」の区別については、「シャクヤク」の項目で解説しています。
23.杜鵑草(ほととぎす)
「ホトトギス」は、日本の特産種で主に太平洋側に自生する多年草です。日陰のやや湿った斜面や崖・岩場に見られ、葉の脇に直径2~3cmで紫色の斑点のある花を1~3輪上向きに咲かせます。
名前の由来は、花の紫色の斑点の様子を鳥のホトトギス(下の画像)の胸にある斑点に見立てたことによります。