日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.蚊帳(かや)
「蚊帳」とは、夏の夜、蚊に刺されないよう四隅を吊って寝床をを覆う道具のことです。
蚊帳は「蚊屋」とも書くとおり、語構成は「か(蚊)」+「や(屋)」で、「蚊を防ぐ家」の意味です。
漢字の「蚊帳」には、「かや」のほか「かちょう」や「ぶんちょう」の読みがあり、「ぶんちょう」の「ぶん」は漢音で、漢字の「蚊」の由来にも通じます。
8世紀初頭の『播磨国風土記』には既に「蚊屋」の文字が見られ、古くから蚊帳が用いられていたようですが、麻や木綿などで作られた布を四隅から吊るようなものではなく、昔の蚊屋は竹を組んで布を垂らしたものでした。
本格的に蚊帳が作り始められたのは、奈良時代以降で、一般に普及したのは、室町以降です。
殺虫剤が普及したことで、日本では蚊帳は用いられなくなってきました。
しかし、殺虫剤は虫を殺すばかりでなく、アトピーなど人間の体にも害があることや、ベッドでも使えるタイプやテント型も作られるようになったことで、その良さが見直されるようになってきています。
なお蚊帳については、「蚊帳(かや)にまつわる話」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
「蚊帳(かや/かちょう)」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・近江蚊帳 汗やさざ波 夜の床(松尾芭蕉)
・仰(あふむ)いて ながむる蚊帳の 一人かな(炭 太祗)
・蚊帳の内 朧月夜の 内待哉(与謝蕪村)
・暁や 白帆過ぎ行く 蚊帳の外(正岡子規)
2.我武者羅(がむしゃら)
「がむしゃら」とは、一つの目的に向かって、後先を考えず夢中に行動するさまのことです。
がむしゃらは、向こう見ずにふるまうことを意味する「がむしゃ」に、接尾語「ら」が付いた語で、漢字の「羅」は当て字です。
がむしゃは漢字で「我武者」と書くことから、語源を「我が強いわがままな武者(武士)」とする説もあります。
しかし、江戸時代の文献には「がむしゃ者」の例が見られることから、「むしゃ」を「武者」と書くのも当て字と考えられ、武士を語源とするのは間違いです。
「がむしゃ」の語源は未詳ですが、「我無性(がむしょう)」が転じたとする説。
「我」に「むしゃくしゃする」の「むしゃ」が付いたとする説。
「我貪り(がむさぼり)」が転じたとする説あたりが有力とされています。
3.可愛い(かわいい)
「かわいい」とは、愛情をもって大切にしたい気持ち、愛らしい、心がひかれることです。
かわいいは、本来「不憫だ」「気の毒だ」といった意味を表す語でした。
その意味を受け継いでいる言葉には、「かわいそう」があります。
かわいいは「かはゆし(かわゆし)」の形で中古から見え、「かほはゆし(顔映ゆし)」→「かははゆし」→「かはゆし」と変化した語と考えられています。
「はゆし(映ゆし)」は、身体に変調をきたすような感情や事態を示す語です。
目を開けていられないことを「まばゆし(目ばゆし)」と言うように、「かほはゆし(顔映ゆし)」も「顔を向けていられないほどである」といった意味でした。
そこから、「気の毒で見ていられない」「不憫だ」の意味が派生しました。
「かわいい(かはゆし)」は、中世後半から、正反対の「愛らしい」の意味に転じました。
その理由については明らかになっていませんが、小さいものや弱い者に対して手を差し伸べたくなる感情と、気の毒で見ていられないという感情は近いものがあり、「気の毒だから助けてあげたい」から「愛らしい」へと意味が転じたと思われます。
なお、漢字の「可愛い」は当て字です。
4.皮/革(かわ)
「皮」とは、動植物の肉や身を覆い包んでいるもの、表皮、物・物事の中身を覆い包んでいるもののことです。
「革」とは、獣類の毛を取り除き、なめした皮のことです。
革は皮から作られるもので、「皮」と同源です。
皮の語源は諸説ありますが、大きく分けると、二通りの説になります。
ひとつは、表面を包むものなので「外側」の「かは(側)」とする説。
もうひとつは、肌の上に被るものなので、「か」は「かぶる(被る)」の意味か、「上」を意味する言葉に多く付く「か」で、「わ」は「はだ(肌)」の意味とする説。
「かわ」の旧かなは「かは」なので、両説とも不自然ではなく、意味としても説得力があり断定は困難です。
漢字の「皮」は、動物の毛皮を手で被せるさまを表した会意文字で、「頭のついた動物のかわ」+「又(手)」です。
「革」の漢字は、動物の全身の皮をピンと張ったさまを描いた象形文字で、上部は頭、下部は尻尾と両足を表しています。
「改革」や「革命」など、「革」は改める意味でも使われますが、これは、たるんだものをピンと張って改める意味からきています。
5.片棒を担ぐ(かたぼうをかつぐ)
「片棒を担ぐ」とは、ある企てや仕事に加わって協力する、荷担することです。多くは、悪い行いに手を貸す場合に言います。
片棒とは、駕籠(かご)や畚(もっこ)の前棒か後棒のことで、それを担ぐ人も指します。
古典落語の『片棒』も、棺の樽で担ぐものは異なりますが「担ぎ棒」のことです。
駕籠は二人一組で棒を担ぐことから、仕事や企てなどに協力することや、仕事の半分または一部を受けることを「片棒を担ぐ」と言うようになりました。