日本語の面白い語源・由来(し-①)塩辛蜻蛉・死んだ子の年を数える・食言・椎・親月・出馬・治部煮

フォローする



シオカラトンボ

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.塩辛蜻蛉(しおからとんぼ)

シオカラトンボ

シオカラトンボ」とは、トンボ科に属する昆虫で、各地の平地に分布する最も普通のトンボです。雄をシオカラトンボ、雌をムギワラトンボと区別していうこともあります。

シオカラトンボは、漢字で「塩辛蜻蛉」と書くきますが、食品の「塩辛」との関係はありません。
成熟したシオカラトンボのオスは、腹部背面が灰青色で、少量の白粉を生じており、塩が吹いているように見えることから名付けられました。

メス(下の画像)は黄色に小さな黒い斑紋が散在するので、俗に「ムギワラトンボ(麦藁蜻蛉)」とも呼ばれます。

ムギワラトンボ・メス

未成熟のオス(下の画像)も、メスと同様に黄色に小さな黒い斑紋が散在するので、俗に「ムギワラトンボ(麦藁蜻蛉)」とも呼ばれます。

ムギワラトンボ・若いオス

「蜻蛉」は秋の季語で、次のような俳句があります。

・行く水に おのが影追ふ 蜻蛉かな(加賀千代女

・蜻蛉行く うしろ姿の 大きさよ(中村草田男

・いつ見ても 蜻蛉(とんぼう)一つ 竹の先(正岡子規

2.死んだ子の年を数える(しんだこのとしをかぞえる)

死んだ子の年を数える

死んだ子の年を数える」とは、どうしようもない過去のことを後悔することのたとえです。

死んだ子がもし生きていれば、今頃は何歳になるはずだと年齢を数えることから、言ってもどうしようもない過去のことを悔やむたとえとして、「死んだ子の年を数える」と言うようになりました。
このことわざは、江戸時代から見られます。

3.食言(しょくげん)

食言

食言」とは、「前に言ったことを簡単に覆すこと。約束を破ること」です。

「食言」の出典は、『書経』湯誓の「朕言を食まず」です。

一度口から出した言葉(言)を、また口に入れる(食)という意味から、前に言ったこと違うことを言ったりしたりすることを意味します。

余談ですが、私は子供の頃、「前に言ったことを取り消すのに、『舌を消しゴムで消しておきました』」という笑い話を読んだことがあります。

4.椎(しい)

椎の木

シイ」とは、ブナ科の常緑高木です。スダジイとツブラジイがありますが、どちらも単にシイということが多いようです。実はどんぐりになり、食用。材は建材やシイタケ栽培用の原木として用います。

シイの歴史的仮名遣いは「シヒ」です。

シイの語源には、以下の通り多くの説があります。

①枝の先が笑んでいるところから「サキヱミ」の反。
②果実が自然に落ちて樹下にあるところから「シ(下)ヒ(実)」の意味。
漢字「椎」の字音「スイ」の転
強制する意味の「シヒ(強)」に由来

中でも、シイの木は固くて強い器具となる木材で、刑具の用材となっていたことから、強制する意味の「シヒ(強)」に由来する説。次いで、「椎」の字音説が有力です。

また、「椎」の字音「スイ」と似た和語の「シヒ(強)」が合わさって、「シヒ(シイ)」になったことも考えられます。

幻住庵跡にある椎の木

余談ですが、「奥の細道」で有名な俳諧師松尾芭蕉に「先づたのむ 椎の木も有り 夏木立」という俳句がありますね。

これは「幻住庵記」の最後にある句で、その前段には次のような文章があります。

  かく云へばとて、ひたぶるに閑寂を好み、山野に跡をかくさむとにはあらず。やや病身人に倦みて、
世をいとひし人に似たり。つらつら年月の移りこし拙き身の科を思ふに、ある時は仕官懸命の地を
うらやみ、一たびは佛籬祖室の扉に入らむとせしも、たどりなき風雲に身を責め、花鳥に情を労して、
暫く生涯のはかり事とさへなれば、終に無能無才にして此の一筋につながる。楽天は五臟の神を破り、
老杜は瘠せたり。賢愚文質の等しからざるも、いづれか幻の栖ならずやと、思ひ捨てふしぬ。

「椎の花」は夏の季語、「椎の実」は秋の季語で、次のような俳句があります。

・旅人の 心にも似よ 椎の花(松尾芭蕉)

・椎の花 人もすさめぬ にほひかな(与謝蕪村

・椎の実の 板屋をはしる 夜寒かな(久村暁台)

・椎の実を 拾ひに来るや 隣りの子(正岡子規)

5.親月(しんげつ/おやづき)

親月

親月」とは、旧暦7月の異称です。文月。

親月は、人々が親の墓参りに行く月の意味です。
旧暦7月は、盂蘭盆会(お盆)が行われる月であることに由来します。

なお「月の異称」については、「和風月名と二十四節気についてご紹介します。令月は2月の異称です」「和風月名以外の月の異称をご紹介します。」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

なお、「月の異称」については、「和風月名以外の月の異称をご紹介します。」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

6.出馬(しゅつば)

選挙掲示板

出馬」とは、選挙に立候補することや、地位の高い人が、ある場所に出向いたり、事に臨んだりすることです。

出馬の元々の意味は、文字通り、馬を出すことです。
そこから、馬を出して戦場へ出向くことを意味するようになりました。

選挙に立候補することを「出馬」というのは、選挙もいくさも政権を握るための戦いの場であることからです。

地位の高い人がその場に出向くことを「出馬」というのは、特に、大将が戦場に出向くことをいったことからです。

7.治部煮(じぶに)

治部煮

治部煮」(じぶ煮)は鴨肉などを煮た料理で、石川県金沢市の代表的な郷土料理(加賀料理)です。

伝統的な治部煮は主に鴨肉、ほうれんそう、里芋、にんじん、百合根、きのこ、お麩(すだれ麩)などで作られています。

治部煮の特徴は、肉に小麦粉(または片栗粉)をまぶして煮ることと、わさびを添えて食べることです。

名前の由来は諸説ありますが、煮るときにジブジブと音を立てるから治部煮と呼ぶようになったという面白い説があります。

また江戸時代にキリスト教の宣教師が伝えたポルトガル料理が日本風になった料理だからという説もあります。

さらに鴨肉を使うところからフランス語であるジビエがなまったという説や、豊臣秀吉軍の食を支えた兵糧奉行の岡部 治部右衛門(おかべじぶえもん)という人が朝鮮から伝えた料理だからその人名をとってという説まであるようです。

「治部煮」は冬の季語です。