「1on1(ワンオンワン)」が最近注目されているが、その背景と活用法とは?

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1on1

最近「1on1(ワンオンワン)」あるいは「1on1ミーティング」という言葉をよく聞くようになりました。今回は、その背景と活用法についてご紹介したいと思います。

1.上司と部下との対話

従来、「上司と部下との対話(面談)」と言えば、人事評価を行う前の「人事評価面談」が一般的でした。これは現在も、あまり変わっていないと思います。

もちろん、「事務ミス」や「事務事故」、「従業員の不祥事」など何か問題が起きた場合の「原因究明と今後の対策」のための面談もあるでしょう。

しかし、普通は、冗談の言い合えるようなフランクでフレンドリーな上司の場合以外は、個人的に「1対1」で話をする機会はあまりなかったと思います。

2.「1on1(ミーティング)」とは

1on1(ミーティング)とは、上司と部下が1対1で自然体で気軽に行う対話のことです。最近、組織に必要なコミュニケーション手法の一つとして、大変注目されています。

これは「人事評価面談」のような堅苦しい面接ではなく、また上司から部下への「上意下達」の一方的な叱責・問責や小言のようなものではありません。上司と部下との「信頼関係」を醸成し、部下のやる気を引き出したりスキルアップにつなげるための会話でもあります。

いわゆる「ラポール(rapport)」(相互信頼関係)を作り上げるためのものです。「ラポール」とは心理学用語で、二人の人の間にある相互信頼の関係のことで、「心が通い合っている」「どんなことでも打ち明けられる」「言ったことが十分に理解される」と感じられる関係です。

(1)背景

1on1(ミーティング)が注目されるようになった背景は何でしょうか?

①「VUCA」と呼ばれる時代

・Volatility(変動性・不安定さ)

・Uncertainty(不確実性・不確定さ)

・Complexity(複雑性)

・Ambiguity(曖昧性・不明確さ)

混沌とした現代社会では、技術の急速な進歩や急速かつ不確実な市場の変化で、今までの経験や物差しでは通用しないことが多くなっています。

従来のような上司から部下への一方的な命令・指示・指摘だけではなく、上司が部下から教えを受けたり、若者の感覚を取り入れる必要性も高まっているわけです。

②労働人口の減少と流動化の加速

日本では人口減少により、労働人口の減少も顕著になっています。また、「年功序列」はすでに崩壊し、今や「終身雇用」も崩壊寸前です。

若年層には、「転職」への躊躇が少なくなり、心理的ハードルは格段に低くなっています。

このような中で、企業は優秀な人材をつなぎ止める必要に迫られることになります。

③有名企業での導入

革新的なベンチャー企業や有名企業が集まるアメリカのシリコンバレーでは、以前から1on1は当たり前の習慣として実施されていたそうです。

ここ数年、ヤフーのような有名企業で導入されるようになり、日本でも注目が高まってきました。ヤフーでは、「部下の才能と情熱を解き放つ」という人材育成のコンセプトのもと、「1on1」を取り入れ、隔週一回以上、上司と部下が約30分の話し合いを行っているそうです。

パナソニックも最近導入したそうです。

(2)活用法

この1on1を導入しているたいていの企業では、週1回、最低でも月1回は実施しているようです。短時間でもよいので、短いサイクルで恒常的に実施することが、普通の「面談」との違いです。1回の実施時間は15分~30分程度が多いようです。

1on1は、部下の悩み・不満や要望・改善提案などを吸い上げるだけでなく、それを通じて部下のやる気を引き出したり成長を促すことにもなります。

部下から最新の情報やスキルを吸収することで、上司も自己の成長や経営・管理・運営に役立てることも可能になります。

ただ、この1on1も、マンネリ化して、義務的に形式的にミーティングをするだけになると、「無駄な会議」と同じ結果になるので注意が必要だと私は思います。

そういう意味で、頻繁に行うよりも、月1回~3ケ月1回程度で、あらかじめアンケート形式で要望・改善事項や、悩み・不満などをまとめて記入して提出もらい、それをもとに短時間に実のある話をすること、そして、きちんとフィードバックすることが肝要だと私は思います。

3.私の個人的体験

私の47年間に及ぶサラリーマン生活でも、上司と部下の1対1の対話は、飲み屋で話を聞いてもらうことも何回かありましたが、ほとんどが「人事評価面談」で、あとは上司からの一方的な「指示」「小言」などで「対話」と言えるものはありませんでした。

私が派遣社員の時は、ボスとの1対1の対話は皆無でした。改善してほしいことや提案など言いたいことはたくさんあったのですが、派遣社員の立場上、それをボスに直接言うのは憚られたので沈黙を守っていました。

企業の上司と部下の関係においては、「以心伝心」や「拈華微笑(ねんげみしょう)」のような「黙っていても分かり合える」ということはあり得ません。「対話」が不可欠です。

私が例外的に直接の上司を飛び越して役員と直接話をした数少ない経験が一度だけあります。それは私がまだ30歳になる前のことですが、東西本部合同で「海外店原価計算調査チーム」が組まれ、事務管理部門の一員として三週間あまりの海外出張をした時のことです。

出発前に東京で企画担当役員の専務と7人の調査チームのメンバーが懇談しました。チームの団長も30代の若い部長代理です。「部長や副部長抜きで直接専務と面談する」という話を聞いて私は驚きました。

大阪の本部では、そのようなことは到底考えられず、副部長や部長のフィルターを通して、発言内容や要望・提案などもチェックされ、不都合と思われる個所は削除されたりしたと思います。そして、役員と面談するのは、せいぜい部長・副部長・団長くらいだったと想像します。

そういう意味で、大阪の方が「超保守的」で、東京の方が格段に「自由闊達」で風通しが良かったのです。今考えるとなぜなのか不思議な気もしますが・・・

その時、担当専務から聞いた話で印象に残っているのは次のようなことです。

「君たち七人の侍は、樺太探検をした間宮林蔵のようなものだ。海外店の実情は私も含めて誰もわかっていない。今回の調査ですべて明らかにすることは期待していない。大まかな把握が出来ればよい。」

「仕事は手早く片付けて、大いに見聞を広めて来てほしい。私も海外に出張した時は、午前中に仕事を片付けて、午後はいろいろな所を見て回った。」