日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.睡蓮(すいれん)
「スイレン」とは、スイレン科の水生植物の総称です。葉と色鮮やかな花を水面に浮かべ、香気があります。
スイレンは水面に浮かぶため「水蓮」と書き誤ることも多いですが、「スイ」は「水」ではなく「睡眠」の「睡」です。
この名前は、ヒツジグサの漢名「睡蓮」からで、「眠るハス(蓮)」の意味です。
ハスに似た花が朝開いて、夕方には花弁をたたんで水中に眠ることに由来します。
ヒツジグサの漢名で呼ばれるのは、唯一、日本で自生するスイレン科の植物がヒツジグサだからです。
なお「ヒツジグサ(未草)」は上皇・上皇后様の長女・清子さまの「お印(おしるし)」です。「お印」とは皇室の方々が身の回りの品などに用いるシンボルマークのことです。
余談ですが、その他の皇族の「お印」は次の通りです。
上皇:榮(えい)
上皇后:白樺(しらかば)
天皇:梓(あずさ)
皇后(雅子様):ハマナス
天皇家 長女(愛子様):ゴヨウツツジ
秋篠宮:栂(つが)
秋篠宮妃(紀子様):檜扇菖蒲(ひおうぎあやめ)
秋篠宮家 次女(佳子様):ゆうな
秋篠宮家 長男(悠仁様):高野槇(こうやまき)
秋篠宮家 長女(眞子さん):木香茨(もっこうばら)
(ご結婚により皇族の身分を離れられました)
「睡蓮」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・睡蓮の 花沈み今日の こと終へず(臼田亜浪)
・睡蓮の 敷き重なりし 広葉かな(星野立子)
・睡蓮の 池より流れ 来し一花(高田正子)
・睡蓮の 花に猫が手 伸ばしけり(山尾玉藻)
2.芋茎/芋苗(ずいき)
「ずいき」とは、サトイモ類の茎です。酢の物や煮物にしたり、干してすしの具に入れて食べます。
ずいきの語源には、槐根の髄から出た茎の意味で「髄茎(ずいくき)」の略。
茎をもぎ取る時、「ズイ」という音が鳴ることから。
食べて感嘆することから、大いに喜ぶことを意味する「随喜(ずいき)」など諸説ありますが、未詳です。
「芋茎」は秋の季語で、次のような俳句があります。
・牛の子に 二株付けし 芋茎哉(小杉一笑)
・芋茎さく 門賑はしや 人の妻(炭 太祇)
・取跡や 淋しく見えし ずいき畑(如柳)
・母が切る 芋茎は水を ためてをり(萩原麦草)
3.涼暮月/涼暮れ月(すずくれづき)
「涼暮月」とは、旧暦6月の異称です。水無月。
涼暮月は、日中は暑いが、夕暮れ時になると気温が下がり、涼しくなることから。
旧暦の6月は、新暦の6月下旬から8月上旬にあたり、この時期は縁側などに出て夕涼みをします。
なお、「月の異称」については、「和風月名以外の月の異称をご紹介します。」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
4.滑莧(すべりひゆ)
「スベリヒユ」とは、畑や路傍に生えるスベリヒユ科の一年草です。夏、小さな黄色の五弁花を開きます。食用・薬用になります。
スベリヒユの「スベリ」は、茹でて食べる時に葉の舌触りが滑るようであることからか、葉茎に光沢があり滑らかだからといわれます。
スベリヒユの「ヒユ」は、ヒユ科のヒユに似ていることからですが、花や葉は全く似ておらず、実の形だけが似ています。
「滑莧」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・釣るされて 一期しまひぬ 辷莧(すべりひゆ)(小林一茶)
5.鈴蘭(すずらん)
「スズラン」とは、キジカクシ科の多年草です。初夏、花茎を出し、釣鐘形の白色の花を総状につけ、芳香があります。
スズランは、白い鈴を吊るしたようなのような花をつけ、ラン科の植物に似ることからの名。
花の形は釣鐘形のベルに似ていますが、スズランの名の由来となった鈴は、祭りの神輿で見られる紐についた鈴で、花のつき方をたとえたものです。
スズランの「ラン」は、葉や花が蘭と似ていることから、安易につけられたものです。
なお、あまり知られていませんが、鈴蘭は有毒植物なので注意が必要です。有毒物質は全草にありますが、特に花や根に多く含まれています。摂取した場合、嘔吐、頭痛、めまい、心不全、血圧低下、心臓麻痺などの症状を起こし、重症の場合は死に至ります。
スズランを活けた水を飲んでも中毒を起こすことがあり、誤飲して死亡した例もあります。
有毒植物については、「美しい花には毒がある。知らないと危険、身近な植物の毒性に注意!」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。
「鈴蘭」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・鈴蘭の 香に顔寄せて 二十人(稲畑汀子)
・六月の 鈴蘭は咲く 北の国(高木晴子)
・鈴蘭の 卓や大きな 皿に菓子(高浜虚子)
・鈴蘭の 谷や日を漉(す)く 雲一重(中村草田男)
6.ストライキ(すとらいき)
「ストライキ」とは、労働者が労働条件の要求を通すために、団結して労務の提供を拒否することです。
私が若い頃は、鉄道や航空会社のストライキがよくありました。特に鉄道については、通学や通勤に直接支障が出るので、随分迷惑を蒙ったものです。自家用車に分乗したり、会社がチャーターしたバスやトラックで会社に向かう光景も見られました。
ストライキは、野球やボウリングの「ストライク」などと同じ、英語「strike」からの外来語ですが、労働争議行為の「strike」は、「帆を降ろす」という意味の「to strike the sails」に由来します。
1768年、ロンドンの港で賃金カットが行われたため、待遇を不満に感じた船乗りたちは、船から船へと帆を降ろしてまわり抗議をしたことから、「strike」は労働を行わないで抗議することも意味するようになりました。
日本で最初のストライキは、明治19年(1886年)の山梨県甲府の雨宮製糸工場で起こった争議といわれます。
7.雀蜂(すずめばち)
「スズメバチ」とは、スズメバチ科の昆虫です。女王蜂の体長は約4センチ、働き蜂は約2.5センチで、日本最大のハチ。
スズメバチは、体の大きさがスズメほどもあるという意味と、巣の色や模様がスズメに似ていることからの名。
実際の大きさは、スズメは約14〜15センチ、大きいメスバチ(女王蜂)で約4センチなので全く違いますが、あくまでも「それほどまでに大きい」というたとえです。
スズメバチの漢字は、上記由来のまま「雀蜂」と表記するほか、漢名の「胡蜂(こほう)」を当てても書くきます。
俗名に「くまんばち」や「くまばち」ともいいますが、クマバチはミツバチ科のハチで別種です。
8.狡い(ずるい)
「ずるい」とは、自分の利益を得たりするために、うまく振る舞うさまや、そのような性質であるさまです。
ずるいが表す「うまく立ち回るさま」の意味の中には、当然するべきことを怠る行為も含まれます。
また、古くは「ふしだらである」「身持ちが悪い」の意味でも使われていました。
これらのことから、「締まりのないさま」「物事にだらしないさま」を表す擬態語「ずるずる」が形容詞化され、「ずるい」になったと考えられます。