日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.ダリア
「ダリア」とは、メキシコ原産のキク科の多年草です。夏から秋にかけ、分枝の先に大形の頭花を開きます。多くの品種があります。ダリヤ。
ダリアの原産地メキシコでは、アステカ族によって主に薬草として栽培され、「ココクソチトル(Cocoxochitl)」や「アココトリス(Acocotlis)」の名で呼ばれていました。
ダリア(dahlia)の名は、メキシコから種子が送られ栽培に成功したスペインのマドリード王立植物園長のカバニレスが、『植物図鑑』を刊行した際に命名したものです。
スウェーデンの植物学者アンデシュ・ダール(Anders Dahl)の業績をたたえた命名で、ダリアはダールの名前にちなみます。
日本には天保年間に渡来し、幕末には「天竺牡丹」の名で持て囃されました。
本格的に流行したのは明治35年(1902年)頃で、「天長節(天皇誕生日)」(明治天皇の場合は11月3日)の花を菊からダリアに変えたいという意見が出るほどであったといわれます。
「ダリア」は夏の季語で、次のような俳句があります。
・一輪の 黄なるダリアに 心寄す(原石鼎)
・大いなる 緋ダリア草に 逆しまな(原石鼎)
・なかんづく 緋の天鷲絨(びろーど)の だりあかな(原石鼎)
・ダリア大輪 崩れて雷雨 晴れにけり (臼田亞浪)
2.大根(だいこん)
「大根」とは、アブラナ科の越年草または一年草です。根も葉も食用とします。「春の七草」の一つで、スズシロともいいます。また、演技力のない下手な役者をあざけっていう語(大根役者)です。
『古事記』に「淤富泥(オホネ)」、『和名抄』には「於保禰(オホネ)」とあるように、大根の古名は「オホネ(オオネ)」で、大きい根の意味からです。
これに漢字の「大根」が当てられ、音読みで「ダイコン」と呼ばれるようになりました。
応永26年(1419年)の『東寺百合文書』には「大こん」の表記が見られることから、これ以前には「ダイコン」の語形が発生していたと思われます。
ただし、この頃に「ダイコン」で統一されたわけではなく、「ダイコン」と呼ばれるようになった後も、しばらくは「オホネ」と「ダイコン」の両語形が使われていました。
「大根」は冬の季語で、次のような俳句があります。
・菊の後 大根の外 更になし(松尾芭蕉)
・武者ぶりの 髭つくりせよ 土大根(与謝蕪村)
・大根で 団十郎する 子供かな(小林一茶)
・大根を 水くしやくしやに して洗ふ(高浜虚子)
3.他山の石(たざんのいし)
「他山の石」とは、自分の知徳を磨くのに役立つ、他人の誤った言行や失敗のことです。
出典は中国『詩経』の「他山の石、以て玉を攻むべし」に基づきます。
この原義は、他の山から出たつまらない石でも、それを砥石にすれば宝石を磨くのに役立つという意味です。
転じて、他山の石は、自分の修養の助けや戒めになる他人の誤った言行を意味するようになりました。
他人の優れた言行を手本にする意味で使ったり、対岸の火事と混同して、自分とは無関係の意味で使うのは誤りです。
4.男爵芋/男爵いも/男爵薯(だんしゃくいも)
「男爵いも」とは、じゃがいもの一品種です。やや球形で凹凸がある。生産量が多く、じゃがいもの代表品種で、コロッケなどの材料にします。
男爵いもは、川田龍吉男爵にちなむ名前です。
明治41年(1908年)、川田龍吉男爵がイギリス原産の品種「アイリッシュコブラー」を輸入し、北海道亀田郡七飯村(現在の七飯町)の村田惣次郎に譲り渡して試作を重ねました。
この品種を出荷させる際、原名の「アイリッシュコブラー」が不明であったことから、川田龍吉男爵から譲り受けたことにちなみ、「男爵いも」と命名されました。
5.大学芋(だいがくいも)
「大学芋」とは、一口大に切ったサツマイモを油で揚げ、糖蜜を絡めて黒ごまを振りかけた菓子(または、料理)です。
大学芋の起源は諸説ありますが、東京大学の赤門前にあった蒸かし芋屋の「三河屋」という店が大正時代に売り出し、大学生の間で人気となったため、「大学芋」の名が付いたという説が有名です。
その他、大学芋の由来には、東京大学の学生が考案し、学費を捻出するために売ったからという説や、東京神田の学生街で大学生が好んで食べたことに由来する説、早稲田大学のある高田馬場周辺が発祥など諸説あります。
6.楽しい(たのしい)
「楽しい」とは、満足で愉快な気持ち、快いことです。
楽しい時、人は手を伸ばして喜び舞うことから、「手伸舞(たのしまう)」や「手伸し(たのし)」が語源といわれます。
その他、楽しいの語源には、田の面に五穀が伸びるのは楽の源であることから、「たの」は「田神」の意味とするなど、「田」と関連づける説もあります。
7.タルタルソース
「タルタルソース」とは、ゆで卵・玉ねぎ・パセリ・きゅうりのピクルスなどのみじん切りとマヨネーズと合わせたソースです。エビフライやカキフライ、アジフライなど海鮮のフライに添えます。
タルタルソースは、英語「tartar sauce」からの外来語です。
「タルタル」は、東ヨーロッパ人がモンゴル系遊牧民族を称した「タタール」のことです。
ただし、タルタルソースとタタール人は、直接関係するものではありません。
タタール人に由来するのは、ミンチにした生肉に、みじん切りにした野菜などを混ぜた料理の「タルタルステーキ」です。
このソースが「タルタルステーキ」に似ていることから、「タルタルソース」の名前で呼ばれるようになったといわれます。
8.タブロイド
「タブロイド」とは、新聞・雑誌で、一般的な新聞(ブランケット判)の半ページ分の大きさの型(タブロイド判)のものです。また、大衆紙。
タブロイドは、錠剤の商品名に由来します。
製薬会社のバロウズ・ウェルカム・アンド・カンパニーが、粉末の薬が一般的だった1880年代後半に、小さく圧縮した錠剤(tablet) を開発し、「タブロイド(Tabloid)」の名前で発売しました。
それがイギリスで広く普及したため、小型を表す言葉として「タブロイド」を使うことが流行しました。
そこから、簡略化した報道記事に写真や漫画を加え、読みやすくしたものも「タブロイド」と呼ぶようになりました。
1918年には小型の新聞が登場し、その判型は「タブロイド判」と名付けられ、『ザ・サン』や『デーリー・ミラー』などでタブロイド判が採用されました。
日本で言えば、「夕刊フジ」や「日刊ゲンダイ」のような大衆紙です。
これらの新聞は、芸能・スポーツ・ゴシップ・娯楽などの記事に力を入れていたため、「タブロイド」は大衆紙の代名詞にもなりました。