日本語の語源には面白いものがたくさんあります。
前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。
以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。
1.ちり鍋(ちりなべ)
「ちり鍋」とは、白身魚・豆腐・灰汁の少ない野菜などを昆布だしで水炊きし、ポン酢醤油と薬味で食べる鍋料理です。
ちり鍋は、幕末から明治にかけ、刺身を食べない西洋人が熱湯につけて食べたのが始まりということです。
新鮮な切り身を熱い湯の中に入れると、身がちりちりと縮むことから「ちり鍋」と名付けられました。
豚肉のちり鍋は、毎晩食べても飽きないところから「常夜鍋(じょうやなべ)」とも呼ばれ、ちり鍋と同じ材料で作る蒸し物は「ちり蒸し」とも言います。
「ちり鍋」は冬の季語です。
2.ちんたら
「ちんたら」とは、ダラダラしている様子、動作が遅い様子。「ちんたらしてんじゃねーよ」とか「ちんたら走る」とかいう使い方をする言葉です。
私は社会人になってから初めて聞いた言葉で、上司が口癖のようにこの言葉を使ったので印象に残っています。
語源は、鹿児島の蒸留所と関係があると言われています。昔、焼酎を蒸留する時に鹿児島では「チンタラ蒸留機」という機械が使われていたそうです。
焼酎の元になるもろみを鍋に入れ沸騰させると鉄釜が煮立って「チン、チン」という音が勢いよく聞こえます。しかしこの勢いに反して実際に機械から出てくる蒸留した焼酎は「タラ~、タラ~」とゆっくりしたペースでちょっとづつ流れ落ちます。そのため焼酎を作るのにすごく時間がかかったそうです。
そんな様子からのんびりしてのろまな様子を「ちんたら」って言うようになったのだそうです。
女子プロゴルファーの渋野日向選手がプレーの合間に食べていて話題になった「タラタラしてんじゃねーよ」というお菓子の「タラタラ」も「チンタラ」と同じような意味だと思います。
3.ちぐはぐ
「ちぐはぐ」とは、物事が食い違い、調和がとれないこと、対になるべきものが揃っていないことです。
ちぐはぐの語源には、「ちぐ」が「鎮具」で金づち、「はぐ」は「破具」で釘抜きを意味していたとし、金づちと釘抜きを交互に使っていては一向に仕事が進まず、何をしているのか分からないことから、「ちぐはぐ(鎮具破具)」という言葉が生まれたとする説。
また、棟梁の下につく者が、金槌が必要な時に釘抜きを渡し、釘抜きが必要な時に金槌を渡すさまから、「ちぐはぐ」になったとする説があります。
これらの説では「ちぐ」や「はぐ」という語が、鎌倉時代に使われていたとされますが、そのような言葉は見当たらないため俗説と考えられます。
ちぐはぐの「ちぐ」は一揃えを意味する「一具(いちぐ)」、「はぐ」は「はぐれる」の語根と思われます。
4.珍紛漢紛(ちんぷんかんぷん)
「ちんぷんかんぷん」とは、話している言葉や書いてある内容が全くわからないこと、話が通じないことです。
ちんぷんかんぷんは、「ちんぷんかん」に「ぷん」を重ね、響きをリズミカルにした語です。
「ちんぷんかん」は江戸時代から多く使われるようになった語で、儒者の用いた難解な漢語を冷やかして真似た造語からか、外国人の話す言葉の口真似をしたもので、教養のなかった当時の人々によって作られた言葉とされます。
また、中国には聞いても分からないという意味の「チンプトン」、見ても分からないという意味の「カンプトン」という言葉があり、この「チンプトン、カンプトン」から、見ても聞いても分からない意味になったとする説もあります。
しかし、「ちんぷんかん」は言葉が全く分からない状況のみを意味していたことや、教養のなかった人々によって広まった背景など考えると、中国語説は不自然です。
ちんぷんかんぷんの漢字には、「珍紛漢紛」のほか、「珍糞漢糞」や「陳奮翰奮」など多数ありますが、すべて当て字のため、漢字から語源を探ることは不可能です。
5.チャルメラ(ちゃるめら)
「チャルメラ」とは、流し屋台のラーメン屋(夜鳴きそば屋)が吹く、オーボエのような木管楽器です。先端はラッパのように開いています。
チャルメラは、ポルトガル語の「charamela」に由来します。
「charamela」は、葦(あし)を意味するラテン語「calamus」が語源です。
ポルトガルのチャルメラはオーボエの源流となった楽器で、16世紀に日本へ入り「南蛮笛(なんばんぶえ)」とも呼ばれました。
しかし、現在日本で「チャルメラ」と呼ばれている楽器は、中国伝来の唐人笛(とうじんぶえ)で簫(しょう)の一種「さない」や「さとつ」に近いものです。
6.チンピラ(ちんぴら)
「チンピラ」とは、地位の低い小物のヤクザや、素行不良の少年少女(主に少年)を、ややあざけっていう言葉です。
チンピラは、まだ一人前でもないのに大人ぶったり、大物を気取って偉そうな口をきいたりする者を軽蔑した言葉でした。
大正・昭和初期の隠語辞典類には、チンピラに「子供のスリをさす語」などの記述があります。
チンピラの語源は、子供をあざけって言うときの大阪の方言「ちんぺら」が転じたという説もありますが、「チンピラ」と「ちんぺら」のどちらが先に使われ始めたか不明です。
チンピラの「チン」は劣っている意味の「ちんけ」で、「ピラ」は下っ端を意味する「ひら(平)」か、薄っぺらい意味の「ぺら」のことと思われます。
時代を遡ると、中国の前漢時代に陳平(ちんぺい)という希代の策士がおり、陳平は品行が悪く、兄嫁と不義密通をしていたことから、胡散臭い者を指す言葉として「陳平」が使われ、転じて「チンピラ」になったとする説もあります。
しかし、時代に開きがあり過ぎ、意味にも少し開きがあります。また、日本で胡散臭い者を「陳平」と呼んだ例が見られず、後世に作られた俗説と考えられます。
7.ちゃらんぽらん
「ちゃらんぽらん」とは、いいかげんで無責任なことです。
ちゃらんぽらんの語源は諸説ありますが、「ちゃらほら」が変化し、「ちゃらんぽらん」になったとするた説が有力とされています。
ちゃらほらの「ちゃら」は「でたらめ」「嘘」「でまかせ」の意味で、「ほら」は「ホラ吹き」の「ホラ」と思われます。
「ホラ吹き」の語源となった「法螺(ほら)」は、吹いて音を出す楽器であることから、「チャルメラ」と関連付け、「チャルメラの略+ホラ」で「ちゃらほら」となり、「ちゃらんぽらん」になったとする説もありますが、この説は有力とされていません。
余談ですが、80年代半ばからのお笑いブームの最中、「ちゅ~とハンパやなぁ~」のギャグで大人気だったお笑いコンビ「ちゃらんぽらん」がいましたね。2008年にコンビ解散後、大西浩仁(現・幸仁)さんは画家に転身したそうです。なお冨好さんは今もピンで活動中です。