日本語の面白い語源・由来(つ-①)露草・燕・爪草・熟々・拙い・つまり・露払い・月と鼈

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露草

日本語の語源には面白いものがたくさんあります。

前に「国語辞典を読む楽しみ」という記事を書きましたが、語源を知ることは日本語を深く知る手掛かりにもなりますので、ぜひ気楽に楽しんでお読みください。

以前にも散発的に「日本語の面白い語源・由来」の記事をいくつか書きましたが、検索の便宜も考えて前回に引き続き、「50音順」にシリーズで、面白い言葉の意味と語源が何かをご紹介したいと思います。季語のある言葉については、例句もご紹介します。

1.露草(つゆくさ)

露草

ツユクサ」とは、道端や小川の縁に群がって生えるツユクサ科の一年草です。夏、青色の花をつけます。青花・帽子花・蛍草など多くの別名があります。

よく見ると、胡蝶蘭やアヤメの花にも似ていますね。

胡蝶蘭アヤメ

ツユクサの語源には、露を帯びた草の意味や、よく露を保つところから。朝露に濡れている間は美しいが、昼には花がしおれるため、朝露が似合う草の意味など、「露」に由来する説が多くあります。

朝に咲いて昼にはしぼむ儚い花なので「露」にたとえたとする説もありますが、儚さの比喩に「露」が用いられる以前から「ツユクサ」の名はあるため考え難いものです。

その他、古名の「月草(ツキクサ)」は音変化で「ツイクサ」とも呼ばれており、そこから転じて「ツユクサ」となった説もありますが、「ツイクサ」の例が見られるのは「ツユクサ」の約600年後です。

「露草」は秋の季語で、次のような俳句があります。

・露草の さかりをきえて 夜の雲(高桑闌更)

・露草も 露のちからの 花ひらく(飯田龍太)

・鎌の刃は 露草の花 つけてをり(長谷川櫂)

・露草の 露千万の 瞳かな(富安風生)

2.燕(つばめ)

燕

ツバメ」とは、全長約17センチのスズメ目ツバメ科の鳥です。背は青く光る黒色で腹は白、のどと額が赤いのが特徴です。また、ツバメ科の鳥の総称。玄鳥(つばめ/げんちょう)。乙鳥(おつどり)。

ツバメ

ツバメは、奈良時代から「ツバクラメ」「ツバビラク」「ツバメ」、平安時代には「ツバクラメ」「ツバメ」と呼ばれていました。

江戸期には「ツバクラメ」は古語となり、「ツバメ」「ツバクラ」「ツバクロ」が主流となって、最終的に「ツバメ」が一般的な呼称となりました。

ツバメの「メ」は「群れ」の意味か、スズメやカモメなど「鳥」を表す接尾語です。

「ツバ」の語源は諸説ありますが、鳴き声を表したものか、土をくわえて巣を作る様子から「土を食む(はむ)」もしくは「土を食らい(くらい)」の説が有力です。

「ツバクラ」の「クラ」が「食らい」の意味とすれば、土をくわえて巣を作ることに由来しますが、「クラ」は「鳥」を表す語とも考えられ、特定は困難です。

漢字の「燕」は、ツバメが飛ぶ姿を描いた象形文字です。

「渡り鳥」であるツバメの「帰巣本能」については、「ツバメやイヌの帰巣本能って本当にあるの?そのメカニズムとは?」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

また流行語「若いツバメ」の元になった平塚雷鳥については、「平塚らいてうは心中未遂事件を起こした。若いツバメと夫婦別姓の事実婚も!」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

余談ですが、「ヤクルトスワローズ」のマスコットキャラクター「つば九郎」はツバメをモチーフにしたゆるキャラで大人気ですね。

団塊世代の私には、名投手金田正一を擁した「国鉄スワローズ」時代の「特急つばめ」をモチーフにしたマークが懐かしく思い出されます。

つば九郎国鉄・金田正一国鉄スワローズ・マーク

「燕」は春の季語で、次のような俳句があります。

・盃に 泥な落しそ むら燕(松尾芭蕉

・夕燕 我にはあすの あてはなき(小林一茶

・大津絵に 糞落しゆく 燕かな(与謝蕪村

・初燕 見てよき駅や 旅こごろ(河東碧梧桐

3.爪草(つめくさ)

爪草

ツメクサ」とは、道端などに生えるナデシコ科の一年草または二年草です。春から夏にかけ、白く小さい5弁の花を開きます。

爪草

ツメクサは、細長く先が尖った葉の形が、鳥の爪に似ていることからの名です。

切った人間の爪に見立てたとする説もありますが、別名に「タカノツメ」があり、鷹や鷲などの猛禽類の爪に見立てたと考えて間違いありません。

マメ科のシロツメクサ(白詰草)(下の写真)も「ツメクサ」と呼ばれますが、漢字では「詰草」と書き、語源も異なります。

シロツメクサ

なお、シロツメクサなどの身近な雑草については、「スカンポ・オオバコ・カラスノエンドウ・イヌムギ・カヤツリグサなどの雑草の話」という記事に詳しく書いていますので、ぜひご覧ください。

4.熟々/熟/倩(つらつら)

つらつら

現役サラリーマンの頃は、仕事に忙殺されて自分のことや人生についてじっくり考える余裕もありませんでしたが、この年(老境?)になると自分の今まで歩んできた人生などについて、つらつら思い返すことが多くなりました。

つらつら」とは、じっと見つめたり、物事を深く考えるさまのことです。

つらつらの語源は「連々」で、途絶えず続く意味から転じ、じっと見つめたり、深く考えるさまを表すようになったと考えられています。

万葉集』の「巨勢山のつらつら椿つらつらに見つつ偲はな巨勢の春野を」が、じっと見つめるさまの意味と、「連々」の意味の二通りの解釈があるのも、そのためと思われます。

江戸時代には、「ぐっすり」と同様の意味で「つらつら」が使われています。

つらつらの漢字は、「熱(熟々)」や「倩」と書くきます。

「熱」は「熟考」や「熟視」など、「十分に」「よくよく」といった意味からの当て字です。
「倩」の表記は『平家物語』などの影響を受けた文学作品に見られますが、「美しい」や「婿」を意味する漢字で、じっくり考えたり見たりするさまの意味には繋がらず、なぜ「つらつら」の当て字となったかは不明です。

5.拙い(つたない)

拙い

拙い」とは、 能力が劣っている、事を行なうのに巧みでない、下手なことです。

ちなみに、へたな大工や主に簡単な仕事をする大工を「叩き大工」と言います。

拙いは「たてなし」の口語で、「伝無し」の意味からと考えられます。

「つた(伝)」は「連絡するつてがない」や「つてを頼る」などと用いる「つて(伝)」と同源で、つたないは「人に伝えるべき智も巧もない」の意味から、能力がないさまや、巧みでないさまを意味するようになりました。

現代では使われませんが、かつては「運が悪い」「薄命である」「情けない」「遺憾である」などの意味でも「つたない」が使用されていました。

6.つまり

つまり

つまり」とは、「最後のところ。果て。終わり。行き止まり。隅。とどのつまり。要するに。結局。すなわち」という意味です。

つまりは、動詞「詰まる」の連用形が名詞で「詰まり」となり、行き止まりや隅、最後のところなど、場所の終わりを表すようになりました。

そこから、物事の結末や最後も意味するようになり、それが副詞に転用され、「話の落ち着くところは」「要するに」「言い換えると」「すなわち」なども意味するようになりました。

名詞用法は中世から見え、副詞用法は近世からで、現代で多く使われる「要するに」「すなわち」の意味の成立は遅く、近世末から近代にかけてです。

7.露払い(つゆはらい)

太刀持ちと露払い

上の写真は、太刀持ちに北勝富士(左)、露払いに隠岐の海(右)を従えて横綱土俵入りを披露する横綱稀勢の里です。

露払い」とは、相撲で横綱の土俵入りの時、先導して土俵に上がる力士のことです。

露払いは、蹴鞠(けまり)に由来します。

公家が蹴鞠の会を行う際、まず鞠を蹴って周囲に植えられた木の露を払い落すことや、それを行う人を「露払い」と言いました。

転じて、「露払い」は貴人の先に立って道を開く人を指すようになり、行列などの先導をすることや、先導する人の意味となりました。

そこから更に転じて、横綱の先導役をつとめる力士を指すようになりました。

遊芸などで最初に演じることや、その演じる人も「露払い」と言います。

8.月と鼈/月とすっぽん(つきとすっぽん)

月と鼈

月とすっぽん」とは、比較にならないほど二つのものの違いが大きいことです。雲泥の差。

月は満月で丸く、スッポンも同じように甲羅が丸く、丸い点では共通します。

しかし、月は美しい象徴であるのに対し、スッポンは汚い泥の中にいて顔も醜いことから、月とすっぽんは、比較にならないほど違うものたとえとなりました。

一説に、スッポンは朱色に塗った盆の「朱盆(しゅぼん)」が訛ったものといわれます。

朱盆
しかし、朱盆は必ずしも丸いものとは限りません。
また、月とすっぽんのように、天と地、美しさと醜さに大きな違いがある訳でもありません。
共通点や大きな違いが分かりづらいものを並べ、比較にならないほど違いがあることを表現するとは考え難いものです。